駅の階段、更衣室、住宅。
スマートフォンが生活の一部となった一方、人の性的な姿を本人に気付かれないよう撮影する「盗撮」は、いまや場所を選ばない犯罪となっている。
東三河でも、その問題は決して遠い話ではない。
2026年9月8日、愛知県警豊橋署と生活安全特別捜査課は、豊橋市内の駅階段で女性のスカート内に携帯電話を差し入れ、性的な姿態を撮影しようとしたとして、30歳の男を逮捕した。
容疑は「性的姿態撮影等処罰法違反未遂」など。
2023年7月、「性的姿態等撮影罪」が新設されてから3年余り。
週刊TAKAPIは、東三河と愛知県内で起きた事案、公表された職員不祥事、さらに警察が進める防止策を追った。
豊橋駅周辺か 駅階段で30歳男を逮捕
愛知県警が2026年9月9日に公表した県警ニュースによると、豊橋署と生活安全特別捜査課は9月8日、豊橋市内の駅階段で女性のスカート内に携帯電話を差し入れ、性的姿態を撮影しようとしたとして30歳の男を逮捕した。
県警の発表は「豊橋市内の駅階段」としており、駅名や具体的な場所、被害女性の年齢などは明らかにしていない。
そのため、「豊橋駅で起きた」と断定することはできない。
重要なのは、実際に画像を撮影できたかどうかだけではない。
今回の発表では「撮影しようとした」とされ、容疑には未遂が含まれている。
現在の法律では、一定の盗撮行為は未遂でも処罰対象になる。
「盗撮」は2023年に全国共通の犯罪へ
大きな転換点となったのが2023年7月13日だ。
この日、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が施行された。
いわゆる「性的姿態撮影等処罰法」だ。
それまで盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例などによって取り締まられるケースが中心だった。
新法では、正当な理由なく、ひそかに人の性的な部位や、性的な部位を覆っている下着などを撮影する行為を全国共通の犯罪として規定した。
さらに、
・不同意の状態を利用した撮影
・相手を誤信させて行う撮影
・一定の場合の16歳未満の子どもの撮影
・撮影した性的画像の提供や公然陳列
・提供目的での保管
・ライブ配信
なども処罰対象となっている。
「撮っただけ」という言い訳では済まない制度になった。
豊橋市消防本部でも起きていた盗撮不祥事
東三河で見逃せないのが、公務員による事案だ。
豊橋市消防本部は2025年9月、当時27歳の男性消防士を停職6カ月の懲戒処分とした。
市の公表内容などによると、男性消防士は2025年5月30日夜から31日未明にかけ、豊橋市内の知人女性宅のベランダに侵入し、女性の性的な姿態を動画で撮影したとされた。
さらに翌6月には名古屋市内の別の居室にも正当な理由なく侵入したとされた。
週刊TAKAPIがこれまでに確認した公表情報では、男性消防士は一連の事件をめぐり罰金刑を受け、市は地方公務員法上の信用失墜行為などに該当するとして懲戒処分を行っている。
駅など不特定多数が利用する場所だけではない。
知人関係や住宅という私的空間でも、盗撮事件は起きている。
2023年には豊橋の飲食店更衣室でも
新法施行直後の2023年11月には、豊橋市内の飲食店で、アルバイトの面接に訪れた18歳女性が着替える様子を撮影しようとした疑いで、当時39歳の従業員が豊橋署に逮捕されたと報じられている。
報道では、女性が更衣室内で起動していたスマートフォンを発見したことから事件が発覚。
押収されたスマートフォンから、別の複数の女性が更衣室で着替えている様子を撮影した動画も見つかったとされた。
駅階段の「スカート内盗撮」とは手口が異なる。
しかし共通するのは、被害者が通常であれば他人に撮影されるとは考えない場面が狙われていることだ。
豊川駅では「鏡」で盗撮を防ぐ実証実験
事件を摘発するだけではなく、被害そのものを防ごうという動きも始まっている。
豊川署などは2025年、豊川駅のエスカレーター脇に鏡を設置し、痴漢・盗撮防止の効果を検証した。
地元高校の生徒も実証実験に協力した。
当時公表された内容によると、愛知県警に前年1年間に寄せられた盗撮被害は136件。
このうちエスカレーターや階段での被害が20%を占めたという。
そこで豊川駅ではエスカレーター付近に鏡を設置。
後方を確認しやすくすることで、利用者が不審な行動に気付きやすい環境をつくった。
県警は実験について「一定の効果」があったとしている。
最新の豊橋の事件も「駅階段」だった。
豊川駅で進められた対策を考えれば、東三河の主要駅で同様の対策を広げる必要があるのかは、今後検証すべきテーマだ。
愛知県全体でも摘発される「性的姿態撮影」
問題は東三河だけではない。
2025年6月には岡崎市内の商業施設で、女性の背後から小型カメラをワンピースの下方に差し入れて撮影したとして、43歳の男が逮捕された。
2026年には愛知県職員の盗撮事件も発覚した。
県の発表によると、県民文化局文化部文化芸術課の主査級だった34歳の男性職員は2026年5月、名古屋市中区のマンションのエレベーター内で、スマートフォンを使って女性のスカート内を動画撮影した。
職員は逮捕され、その後、性的姿態撮影等処罰法違反で略式起訴され、名古屋簡裁から罰金刑の略式命令を受けた。
公共交通機関、商業施設、職場、更衣室、住宅。
盗撮が発生する場所は一つではない。
「普通に撮影する行為」と何が違う?
ここで誤解してはいけない。
現在の法律は、街中で人が偶然写真に写り込んだだけで直ちに「性的姿態等撮影罪」になるという制度ではない。
法務省によると、対象となる「性的姿態等」には、性器や臀部、胸部などの性的な部位のほか、現に性的な部位を覆っている下着、わいせつな行為や性交等が行われている間の姿などが含まれる。
そして、正当な理由なく「ひそかに」撮影するなど、法律が定めた方法で撮影した場合に処罰対象となる。
未遂でも処罰される
今回の豊橋の事件を理解するうえで、もう一つ重要なのが「未遂」だ。
実際の撮影データが残っていなくても、一定の場合には処罰対象となり得る。
だからこそ、9月8日の豊橋の事件について県警は、
「女性のスカート内に携帯電話を差し入れて性的姿態を撮影しようとした」
として逮捕を発表している。
「撮影に成功したか」だけが境界線ではない。
盗撮画像は「その後」も被害を生む
盗撮事件には、撮影された瞬間だけでは終わらない特徴がある。
スマートフォンに保存された画像は、複製できる。
SNSやクラウド、メッセージアプリなどを通じて第三者へ渡れば、完全に回収することが難しくなる。
法務省も、新法を設けた理由について、撮影された記録が存在することで、その後第三者に見られたり、不特定多数に拡散されたりする危険が生じる点を挙げている。
だから法律は「撮影」だけでなく、その画像の提供、公然陳列、一定目的での保管やライブ配信まで対象としている。
東三河で実際に何件起きているのか
ここで一つ、大きな課題が残る。
「東三河で性的姿態等撮影罪が何件発生したのか」という地域別の実態だ。
愛知県警は犯罪統計を公表しており、県全体では性的姿態撮影等処罰法に関する数字を確認できる資料がある。
一方、一般向けに公表される市町村別の「身近な犯罪」の統計は、自転車盗や侵入盗などが中心で、盗撮事件の地域別推移を簡単に把握できる形にはなっていない。
ニュース発表だけを数えても、すべての事件が報道発表されるわけではない。
つまり、
「ニュースになった盗撮事件の数」
と
「実際に警察が認知・検挙した件数」
は同じではない。
週刊TAKAPIでは今後、豊橋署、豊川署、蒲郡署、新城署、田原署などへの取材を通じ、2023年7月の新法施行後、東三河で性的姿態撮影等処罰法違反の認知・検挙がどの程度あったのか確認を進める。
Q&A 性的姿態等撮影罪とは?
「盗撮しにくい街」にできるか
2023年に法律が変わった。
しかし、法律を厳しくしただけで盗撮そのものが消えるわけではない。
2026年9月、豊橋市内の駅階段で再び摘発があった。
一方、隣の豊川では駅のエスカレーターに鏡を設置し、盗撮を起こさせないための実験が行われている。
事件が起きてから逮捕するだけなのか。
それとも、駅、学校、公共施設、商業施設などで「盗撮しにくい環境」をつくれるのか。
性的姿態撮影罪の施行から3年。
東三河でも、次に問われるのは「摘発件数」だけではなく、被害を未然に防ぐ仕組みなのかもしれない。
取材・文:週刊TAKAPI編集部
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