女性がスカートの下などに着用する「インナーパンツ」は、法律上の「下着」にあたるのか。
盗撮事件をめぐる刑事裁判で、この一見すると細かな衣類の区別が、犯罪の成否を左右する争点となった。
東京地裁は9月14日、被害者が着用していたインナーパンツについて、性的姿態撮影等処罰法が定める「下着」にあたると判断した。
今回の判決で注目されるのは、衣類の商品名だけで線引きするのではなく、その形状や着用実態、さらに着用していた本人がどのような衣類として認識していたのかまで踏まえて判断した点だ。
盗撮7件、不同意わいせつ2件
判決によると、杉原翔太被告(24)は2024年7月から2025年4月にかけ、東京都内の商業施設や路上などで女性のスカート内などを狙った盗撮を計7件起こした。このうち1件は未遂だった。
さらに、路上で女性の身体を触るなどした不同意わいせつ事件2件にも及び、このうち1件は不同意わいせつ致傷罪に問われた。
盗撮事件のうち2件では、被害者がスカートの下にインナーパンツなどを着用しており、一般的なパンツは直接見えない状態だった。
ここが裁判の争点になった。
「インナーパンツ」は法律上の下着なのか
2023年7月に施行された性的姿態撮影等処罰法は、いわゆる「撮影罪」を新設した。
法律では、性的な部位だけでなく、人が身につけている「下着」のうち、現に性的な部位を直接または間接的に覆っている部分についても、一定の要件でひそかに撮影する行為を処罰対象としている。
ここでいう「下着」は、通常衣服で覆われ、かつ性的な部位を覆うために用いられるものとされている。
では、一般的なパンツのさらに上から着用するインナーパンツはどうなるのか。
今回、その境界線が正面から争われた。
検察「人に見える状態では着用しない」
検察側は、事件で被害者が着用していたインナーパンツについて、丈が太ももの付け根付近までの薄手の衣類であり、通常、人から見える状態で着用するものではないと指摘した。
その性質から、法律上の「下着」にあたると主張した。
一方、弁護側は異なる見方を示した。
インナーパンツは、その下に着用しているパンツを覆い隠すための衣類であり、通常のパンツとは別のものだとして、「下着」には該当しないと主張。
そのため該当する撮影については既遂ではなく、未遂にとどまると訴えた。
東京地裁が重視した「被害者の認識」
東京地裁が判断材料の一つとして重視したのが、実際にインナーパンツを着用していた被害者側の認識だった。
被害者らは、インナーパンツを下着と同様のものとして認識しており、その上に何も着用せず外出することは想定していなかったという趣旨の説明をしていた。
裁判所はこうした着用者の意思や衣類の形態などを踏まえ、事件で問題となったインナーパンツについて法律上の「下着」にあたると認定した。
弁護側の主張を退けた形だ。
「インナーパンツなら全部下着」という判決ではない
ここは今回の判決を読むうえで注意が必要だ。
東京地裁が示したのは、「インナーパンツ」という名称の商品であれば、すべて一律に撮影罪における「下着」になるという単純な判断ではない。
少なくとも今回の事件では、衣類の形状だけではなく、通常どのような状態で着用されるものなのか、さらに着用者自身がどう認識していたのかなどを踏まえて判断している。
例えば、外から見えることを前提として着用する衣類と、別の衣服によって覆われることを前提とした衣類では、事情が異なる可能性がある。
その意味で今回の判決は、「商品名」ではなく、実際の着用状況などから撮影罪の保護対象にあたるかを判断した事例として注目される。
撮影罪が守ろうとしているもの
撮影罪が2023年に新設された背景を考えると、この判断の意味も見えてくる。
法務省は性的姿態等撮影罪について、性的な部位や、現に性的な部位を覆っている下着などを、正当な理由なくひそかに撮影する行為などを処罰する制度だと説明している。
法案審議時の国会答弁では、意思に反して自らの性的な姿態を他人に見られないという「性的自由・性的自己決定権」を保護する趣旨が説明されている。
撮影されれば、その瞬間だけで被害が終わるとは限らない。画像や動画として固定され、後から第三者に見られたり、インターネット上に拡散されたりする危険が残るからだ。
今回の「インナーパンツは下着か」という争点も、単なる衣類の名称をめぐる議論ではなく、こうした法律の保護対象をどこまで認めるのかという問題だったといえる。
懲役3年、一部は保護観察付き執行猶予
東京地裁は杉原被告に対し、懲役3年を言い渡した。
このうち懲役6カ月分については、保護観察付き執行猶予3年とされた。
検察側は懲役5年を求刑していた。
今回の裁判では複数の盗撮事件や不同意わいせつ事件が審理されているため、「インナーパンツを撮影したことだけで懲役3年になった」と受け取るのは正確ではない。
判決を伝える際には、ここを切り分ける必要がある。
週刊TAKAPI編集部まとめ 「何を履いていたか」で盗撮の是非は変わらない
今回の裁判では、インナーパンツが性的姿態撮影等処罰法の「下着」にあたるのかという、法律上の線引きが争われた。
刑事裁判である以上、どこから犯罪が成立し、どこまでが未遂となるのかを厳密に判断することは必要だ。
一方で、週刊TAKAPI編集部は、もう一つ忘れてはならない視点があると考える。
被害者が履いていたものが一般的な下着であろうと、インナーパンツであろうと、本人の意思に反してスカート内などを盗撮する行為が許されるわけではない。
「下着だったのか」「インナーパンツだったのか」という議論は、あくまで刑事責任を判断するための法律上の争点だ。
盗撮される側からすれば、自分が他人に見られることを想定していない部分へカメラを向けられ、その姿を勝手に記録されること自体が深刻な問題である。
今回の判決を「インナーパンツも下着になった」という珍しい法律論だけで消費すべきではない。
衣類の名称や種類によって、盗撮そのものが正当化されることはない。
法律上どこまでを処罰対象とするのかという議論と、他人のプライバシーや尊厳を侵害する行為を許さないという問題は、分けて考える必要がある。
今回の判決は「下着とは何か」という線引きを示した。同時に私たちが考えるべきなのは、その線の内側か外側かを探すことではなく、そもそも他人の意思に反してカメラを向けないという、ごく基本的な一線ではないだろうか。
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担当記者 黒木
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