愛知・名古屋アジア大会への参加のため来日した北朝鮮の金日国(キム・イルグク)体育相に対し、19日、日本政府関係者が接触していたことが分かった。共同通信などが20日、複数の日朝関係筋の話として報じた。
接触があったとされるのは、名古屋市で開かれた大会の開会式会場。日本政府関係者は会場内を移動していた金氏らに声をかけ、訪日を歓迎するとともに、日朝間の交流を進める意思を伝えたとされる。
事前の調整はなかったもようで、政府関係者の所属などが北朝鮮側に明確に伝わらなかったため、金氏の随行者が間に入り、金氏は返答せずその場を離れたという。政府関係者は「事案の性質上、コメントできない」としている。
TBSも20日、日本政府関係者が19日の開会式会場で金氏に接触したと政府関係者の話として報じている。
今回の接触を巡っては、その2日前に北朝鮮の現職閣僚が8年ぶりに日本へ入国していたことに加え、日本政府が北朝鮮籍者の入国を原則禁止する措置を維持しながら、アジア大会への参加について例外的に入国を認めていた経緯がある。
日本政府は「北朝鮮籍者の入国」を原則禁止
日本政府は2016年2月10日、北朝鮮による4回目の核実験や弾道ミサイル発射などを受け、独自の対北朝鮮措置を決定した。
外務省が公表している政府資料では、人的往来の規制措置として「北朝鮮籍者の入国の原則禁止」を明記している。(外務省)
一方、同じ政府決定では「対話と圧力」「行動対行動」という方針の下、拉致、核、ミサイル問題の包括的解決を求めるとともに、拉致問題解決に向けた対話を継続する方針も示されている。(内閣官房)
つまり、日本政府の対北朝鮮政策では人的往来を制限する一方、諸懸案の解決に向けた対話自体を否定してきたわけではない。
9月9日は「検討中」 11日に例外入国を認める
今回のアジア大会を巡っては、北朝鮮代表団の入国をどう扱うかについて、大会直前まで政府内で検討が続けられていた。
9日、木原稔官房長官は記者会見で、北朝鮮選手団の入国について、大会組織委員会から政府が相談を受けていることを明らかにした。
木原長官は、北朝鮮籍保有者の入国を原則禁止していると説明した上で、国際スポーツ大会では例外的に入国を認めてきた事例があるとして、「スポーツ庁を中心に関係省庁において検討を進めていく」と説明した。
その2日後の11日、政府は入国を例外的に認めた。
木原長官は、スポーツを通じた国際交流を促進する国際大会としての特殊性などを踏まえ、過去の類似事例も参考に「例外的に入国を認める特別な事情がある」と判断したと説明。一方で、北朝鮮籍保有者の入国を原則禁止する措置については「変更はない」とした。
このため今回の入国は、北朝鮮に対する人的往来規制そのものを解除したものではなく、アジア大会への参加について例外的な扱いを認めたものと位置付けられる。
ただ、現時点で確認できる公表資料からは、政府内で具体的にどの省庁がどのような手続きを経て最終判断したのか、金氏を含む代表団の対象範囲がどのように決められたのかまでは確認できていない。
17日、金日国体育相が中部国際空港から入国
例外入国の判断から6日後の17日、金氏は中部国際空港(愛知県常滑市)から日本に入国した。
聯合ニュースによると、空港では在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の関係者や愛知県周辺の在日コリアンらが出迎え、金氏に花束を手渡した。
北朝鮮選手団の報道対応を担う朝鮮総連関係者らは、あらかじめ報道陣に金氏の動きを案内するなど現場の整理にもあたったという。金氏は報道陣からの質問には答えず、用意された車両で空港を後にした。(聯合ニュース)
北朝鮮の閣僚級当局者が日本を訪問するのは8年ぶり。前回も金氏で、2018年に東京で開かれた各国オリンピック委員会連合(ANOC)総会への参加を目的に訪日している。(聯合ニュース)
朝鮮総連関係者は聯合ニュースに対し、金氏が朝鮮オリンピック委員会代表団長として訪日したと説明している。
北朝鮮は今回、選手、役員、審判など計188人で構成される代表団を派遣するとされ、選手は14競技107人。聯合ニュースによると、日本で開催された国際大会に派遣される北朝鮮代表団としては、1985年のユニバーシアード神戸大会の約130人を上回り、過去最大規模となる。
翌18日、愛知県・名古屋市は政府要人ら約800人の歓迎レセプション
金氏の入国翌日となる18日には、愛知県と名古屋市が「第20回アジア競技大会 愛知・名古屋歓迎レセプション」を開催した。
愛知県が14日に公表した資料によると、レセプションは18日午後6時から午後7時30分まで、名古屋市西区のエスパシオ ナゴヤキャッスルで開催。
県は開催理由について、大会に合わせて「大会参加国・地域から多くの政府要人等が来県」すると説明している。
出席者として、大会参加国・地域の政府・当局関係者、アジア・オリンピック評議会(OCA)関係者、国会議員、県議会議員、名古屋市会議員、行政関係者、経済団体の代表者など約800人を予定。大村秀章愛知県知事、広沢一郎名古屋市長による主催者挨拶や来賓挨拶、鏡開き、乾杯、歓談などが予定されていた。
ただし、県の公表資料には外国政府要人の個人名は掲載されていない。
そのため、前日に愛知県入りした金氏が18日のレセプションに実際に出席したのか、大村知事や広沢市長、日本政府関係者らと接点を持ったのかについては、現時点の公表資料からは確認できない。
週刊TAKAPIでは愛知県に対し、金氏の出席の有無などを確認する。
19日の開会式で日本政府関係者が接触
そして19日、名古屋市で大会の開会式が行われた。天皇、皇后両陛下も出席し、天皇陛下が大会の開会を宣言した。
この会場内で、日本政府関係者が金氏らに声をかけたとされる。
共同通信によると、接触したのは北朝鮮問題を担当する政府関係者で、金氏に訪日歓迎と日朝交流を進める意思を伝えた。
しかし、北朝鮮側との事前調整はなかったもようで、金氏は返答せず、その場を離れたとされる。
現在確認できる報道では、この短時間の接触で日本人拉致問題について具体的な協議が行われたことは確認されていない。
「事前調整なし」でも残る政府内部の経緯
今回の接触について、現段階で慎重に分けて考える必要があるのが「事前調整はなかった」とされる点だ。
報道から確認できるのは、北朝鮮側との接触について事前調整がなかったとみられることだ。
一方、日本政府内部で金氏への声かけを事前に検討していたのか、現場で政府関係者が判断したのかについては明らかになっていない。
また、北朝鮮代表団の入国については、大会組織委員会から政府への相談を受け、スポーツ庁を中心とした関係省庁が検討していたことが政府側の説明から確認されている。
その検討過程で、北朝鮮の現職体育相でもある金氏の来日をどのように扱ったのか。金氏の入国について個別の政府内協議があったのか。さらに19日の接触後、政府内でどのような報告が行われたのかは、公表情報からは分からない。
9月9日時点では「検討中」だった北朝鮮代表団の入国は11日に例外的に認められ、17日に金氏が中部国際空港から入国した。18日には愛知県・名古屋市による政府要人らの歓迎レセプションが開かれ、19日の開会式会場では日本政府関係者が金氏に直接声をかけた。
8年ぶりとなった北朝鮮閣僚級当局者の訪日。その過程で、日本政府が例外入国をどのような手続きで判断し、金氏への接触に至ったのか。
週刊TAKAPIでは、政府内の判断経緯や18日の歓迎レセプションへの金氏の出席の有無について、引き続き確認を進める。
このニュースのポイント
【担当記者:松本】

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