教員による児童の盗撮、SNSでの画像共有――。
学校への信頼を根底から揺るがした事件を受け、名古屋市教育委員会は2025年7月、すべての市立学校・園に対し、写真撮影や画像データの管理を厳格化する通知を出した。
その後、名古屋市内の市立小学校では、これまで撮影されてきた「学級写真」を今年度から廃止した学校が現れた。
一方、保護者側からは復活を求める動きが起きている。
では、市教委は盗撮事件を受け、学校に何を求めたのか。
週刊TAKAPIは、2025年7月18日付で各市立学校・園長に出された原通知と、2026年3月にまとめられた「児童生徒性暴力等の防止等に関する総合的な対策」を確認した。
原通知は、私用端末による児童の撮影を明確に禁止している。
しかし、公用端末による撮影については一律禁止ではない。
市教委が求めたのは「撮影機会の精選」と、撮影データの厳格な管理だった。
そして、原通知にも総合対策にも「学級写真を廃止する」との記載は確認できない。
では、なぜ学級写真は消えたのか。
盗撮、SNS共有、体液付着――市教委を揺るがした教員不祥事
発端は、名古屋市立学校で相次いだ教職員らによる性暴力・盗撮事件だった。
市教委の総合対策によると、2025年6月、市立学校の教員が女子児童の下着を盗撮し、その画像をSNSグループで共有したとして逮捕された。
一連の捜査では、児童のリコーダーや赤白帽子に体液を付着させる行為なども明らかになったと、市教委自身が資料に記している。
逮捕された教員の一人は、学校運営の中核を担う「主幹教諭」だった。
さらに同年9月には別の市立学校教員が盗撮目的で学校内にカメラを設置したとして逮捕。12月には中学校の部活動外部顧問が女子トイレ個室内で生徒を盗撮したとして逮捕された。
市教委が総合的な再発防止策に乗り出した背景には、こうした一連の事件があった。
事件後に出された「7月18日通知」 私用端末での撮影は禁止
週刊TAKAPIの調べによると、市教委は2025年7月18日、各市立学校・園長に「学校(園)における私用端末等の利用、写真等の撮影等に関する取扱いについて」と題する通知を出している。
通知は冒頭、同年6月に報道された市教員による盗撮等の事案を受けた措置だと明記。
私用のパソコンやモバイル端末について、
「私用のパソコン、モバイル端末による児童等の撮影は禁止する」
とした。
私用のデジタルカメラ、USBメモリ、SDカードなどの使用・記録についても禁止した。
さらに私用端末については、教室など児童が活動する場所への持ち込みを原則禁止している。
盗撮事件を受け、市教委が私物による児童の撮影に厳しい制限を設けたことは原通知から明確だ。
では公用カメラは? 市教委は「撮影機会を精選」
一方、学校の公用端末については扱いが異なる。
市教委は写真・動画の撮影について、
「児童等の学習活動をはじめとした教育活動に真に必要かどうかを検討した上で、撮影機会を精選し、行うこととする」
と通知した。
つまり、公用カメラによる児童の撮影そのものを禁止したわけではない。
撮影する必要性を学校側が検討し、その機会を絞るというルールだ。
撮影時には必要に応じて児童に声を掛けるなどの配慮を求め、校外学習などでは撮影者が特定の職員に偏らないよう求めている。
ここは、今回の学級写真問題を考える上で重要なポイントになる。
原通知を全文確認 「学級写真廃止」の規定はなかった
では、この通知によって学級写真を廃止することになったのか。
週刊TAKAPIが7月18日付通知を全文確認したところ、「学級写真」や「集合写真」という記載は確認できなかった。
もちろん、「撮影機会を精選」というルールのもとで、各学校が個別の撮影機会について必要性を検討する余地はある。
しかし、少なくとも市教委が全市立学校に対して「学級写真を廃止する」「集合写真を禁止する」と一律に求めた通知ではない。
2026年3月にまとめられた総合対策でも、市教委は「私用端末、写真撮影、データ管理等運用ルールの遵守」を掲げているが、学級写真の一律廃止は記されていない。
「市教委が学級写真を廃止した」とするのは、一次資料から確認できる事実とは異なる。
市教委が重視したのは「撮った後」の管理だった
原通知を読み込むと、市教委がかなり細かく規定しているのが、撮影後の画像データの扱いだ。
公用デジタルカメラなどの外部記録媒体は、使わないときには施錠できる保管庫などに保管。
管理簿によって保有台数を把握し、利用時には利用者、利用目的、持ち出し先などを確認する。
撮影した画像・映像についても、職員が共通してアクセスできる共有フォルダに保存し、個人フォルダやパソコンのハードディスクへの保存を禁止した。
外部記録媒体に残ったデータは共有フォルダへの保存後、速やかに削除する。
利用する見込みのない画像についても速やかな削除を求めている。
さらに画像を外部へ持ち出す場合には、校園長の許可が必要だ。
つまり、再発防止策は単に「写真を撮らせない」というものではない。
誰が撮影するのか。
何のために撮影するのか。
どこに保存するのか。
いつ削除するのか。
こうした一連の管理を厳格化する仕組みになっている。
それでも「学級写真」は消えた どこで判断されたのか
その市教委のルールのもと、一部の市立小学校では学級写真を廃止する判断が行われた。
ここで改めて問われるのは、市教委の通知と学校側の判断との間に何があったのかだ。
「教育活動に真に必要かどうか」という基準に照らし、学級写真は必要ではないと判断されたのか。
児童の画像が流出するリスクを理由としたのか。
写真撮影やデータ管理の方法を変更することで継続する選択肢は検討されたのか。
そして、その判断は誰が、どのような手続きで行ったのか。
原通知だけでは、その答えまでは分からない。
市教委は「保護者への文書」を学校に求めていた
さらに注目すべき記述がある。
7月18日付通知は、各学校・園に対し、
「本通知に基づく各学校(園)における対応をまとめた文書を保護者等に発出し、安心・安全な教育活動への理解を求める」
としている。
つまり市教委は、学校が写真撮影などのルールにどう対応するのかについて、保護者へ知らせることまで求めていた。
2026年3月の総合対策でも「保護者・地域等との連携」は5本柱の一つになっている。
性暴力等の防止に関する学校の取り組みについて、なごやコミュニティ・スクール(NCS)会議で保護者や地域との情報共有・連携を協議するとしている。
学級写真の廃止をめぐり保護者側から復活を求める動きが出ているのであれば、学校がどのような説明を行い、保護者の意見をどう受け止めたのかも重要な検証対象になる。
「撮影機会の精選」は、どこまでを意味するのか
教員による盗撮事件を受け、児童の画像をこれまで以上に慎重に扱う必要があることは間違いない。
市教委の原通知からも、その危機感は読み取れる。
しかし、通知が定めたのは、私用端末による撮影の禁止、公用端末での撮影機会の精選、そして画像データ管理の徹底だった。
学級写真の一律廃止ではない。
だからこそ問われる。
学級写真をなくすことは、市教委が求めた「撮影機会の精選」を各学校が具体化した結果なのか。
それとも、それ以上の独自判断なのか。
盗撮防止と子どもの画像保護を徹底しながら、学校生活の記録を残す方法はなかったのか。
教員による重大な不祥事を出発点として始まった写真管理の見直し。その先で「学級写真」が消えるまでに、どのような判断があったのか。
週刊TAKAPIは、学校側の決定過程や保護者への説明、市教委の通知との関係について、引き続き取材する。

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