愛知県議会の山下智也県議(小牧市選出、自民党)が、過去5年間の政務活動費1856万4463円を県に返還した問題で、元妻と元事務所職員が、人件費として届け出られた勤務時間と実際の勤務状況に食い違いがあったと証言していることが、10月26日の報道で明らかになった。
元妻は、事務所の電話を時折受けることはあったものの、事務員として働いていたわけではないと説明。ところが、書類上は月100時間前後勤務し、年間100万円以上の給与が支払われたことになっていたという。
山下県議は人件費の不正を否定している。一方、すでに返還した期間とは別の5年間についても、1254万2000円の返還を求める住民訴訟が起こされており、政務活動費の使途をめぐる問題は司法の場に持ち込まれている。
「働いていないのに給与が支払われたことに」 元妻と元職員の証言
今回の報道で元妻が語ったのは、給与関係の書類に記載された勤務実態への疑問だった。
自宅には事務所の電話を受けられる子機があり、着信に対応することはあったという。しかし、日常的に事務所の仕事をしていた認識はなく、複数の事務員が働いていたとする記録についても、実際の状況とは違うと訴えている。
元事務所職員の証言も具体的だ。新型コロナウイルスの感染拡大後、勤務時間が短縮され、月50時間程度しか働いていなかった時期にも、政務活動費の書類には約100時間と記載されていたという。実際に受け取った時給と書類上の時給にも違いがあり、自分で押していない印鑑が書類に使われていたとも説明した。
これらは当事者の証言であり、その内容がすべて立証されたわけではない。ただ、愛知県の監査資料にも、実際に勤務した職員の給与支払簿には本人が知らない勤務時間や金額が記入されていた、との市民団体側の主張が記録されている。
請求額より233万円多い返還 監査は不正の有無を判断せず
問題の発端は、名古屋市民オンブズマンが2025年12月に行った住民監査請求だった。
市民団体は、2020年度から2024年度までの人件費、タクシー代、ガソリン代、電話代など計1623万5018円について、不適切な支出の疑いがあると指摘した。
これに対し、山下県議は2026年1月13日付で5年間の収支報告書を訂正。県からの返還命令を受け、同月19日に1856万4463円を納付した。
返還額が監査請求額を約233万円上回ったのは、問題とされた支出だけでなく、この5年間に計上していた人件費1624万3100円の全額を政務活動費から外したためだ。
県の監査資料には、山下県議が支出の趣旨に反するものではなかったとしながら、手元の書類の欠落などによって説明に多大な時間を要するとして返還を決めた経緯が記されている。
監査委員は、返還によって請求の目的が達成されたとして住民監査請求を却下した。結果として、問題となった支出が適正だったのか、不適切だったのかについて、監査による結論は示されなかった。
過去5年間の人件費も争点に 山下県議側は8人の雇用を説明
市民団体はその後、さらに過去へさかのぼり、2015年度から2019年度までの人件費を調べた。
5年間に計上された人件費は計1739万7000円。このうち1254万2000円について雇用実態がなかったと主張し、6月15日、愛知県知事が山下県議に返還を求めるよう求める住民訴訟を名古屋地裁に起こした。
県の監査資料によると、収支報告書には5年間で延べ20人が雇用されたことになっていた。しかし、市民団体側は、実際に勤務していたのは各時期1人だけだったと主張している。
山下県議側の説明は異なる。
県の関係人調査では、雇用した8人の名前を挙げ、事務所での仕事に限らず、運転、現場確認、写真撮影、資料作成などを依頼していたと説明。4人の元職員からは勤務内容や給与の支払いに関する陳述書も提出された。
一方で、8人と年度ごとの雇用記録の対応については一部を特定できず、古い雇用関係の書類もほとんど残っていないとしている。
事務所内に常駐していなかったからといって、議員活動に関する仕事をしていなかったとは限らない。それだけに、双方の説明を照らし合わせ、実際に誰がどの仕事を担い、給与がどう支払われたのかを確認することが重要になる。
県議は不正を否定 過去の支出をどこまで検証できるか
山下県議は10月26日の報道で、人件費には問題がないとの認識を示した。事務所ではタイムカードを使用せず、給与は現金で手渡していたと説明している。
また、電話代に弔電代が含まれていた例があったことは認めたものの、人件費については資料がそろっているとして不正を否定した。
一方、過去の人件費をめぐる住民監査請求では、県監査委員の間でも判断が分かれている。返還請求権の消滅時効を5年とみるか、10年とみるかで意見が一致せず、5月21日に合議不調となった。
9月28日には名古屋地裁で第1回口頭弁論が開かれた。今後の審理では、過去の支出について県が返還を求められるのかという法律上の問題とともに、人件費の支出を裏付ける資料がどこまで示されるかが注目される。
編集部まとめ
1856万円余りの返還は、県の公的資料で確認された事実だ。しかし、返還したことをもって不正が証明されたわけではなく、逆に、返還によって支出の実態が解明されたわけでもない。
政務活動費は、議員の調査研究などに必要な活動を支える公費である。人件費として支出するなら、誰がどのような仕事をし、その対価としていくら支払われたのかを説明できなければならない。
今回の問題では、議員側が提出する給与支払簿などの記録を、議会がどこまで確認できるのかという点も問われている。
元妻らの証言と県議側の説明は、なお食い違っている。返還という金銭的な処理とは別に、当時の支出が実際にどのようなものだったのか。その解明が残されている。
特記事項
本記事は、2026年10月26日付の現代ビジネスによる元妻・元事務所職員・山下智也県議への取材報道と、愛知県監査委員が同年1月22日および5月21日に公表した住民監査請求関連資料、名古屋市民オンブズマンの住民訴訟資料に基づいて構成した。
1856万4463円の返還額と納付日、1254万2000円の監査請求額、県議側の関係人調査における説明は公的資料と照合した。元妻らへの直接取材は週刊TAKAPIが実施したものではない。
なお、山下県議による人件費の不正受給が司法判断によって確定した事実は確認されていない。
週刊TAKAPI 編集部/一条
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