【愛知・豊橋】子どもの声は「わがまま」なのか 南部中校長が教員の反応を報告、権利条例で問われる学校現場の理解

豊橋市役所の外観を背景に、こどもの権利条例検討委員会で南部中学校長が一部教員の「わがまま」という反応を報告した問題を伝える週刊TAKAPIの報道アイキャッチ

愛知県豊橋市が制定を進める「こどもの権利条例」をめぐり、市立南部中学校の加藤友治校長が、子どもの意見を「わがまま」と受け止めた一部教員の反応を市の検討委員会で報告していたことが、公開議事録から分かった。加藤校長は、教員側の受け止め方によって子どもが意見を書かなくなることを懸念し、条例制定後の教職員研修を求めている。

一方、豊橋市は同じ会議で、子どもの権利について大人の理解を深める取り組みを2026年度の予定に含めていないと説明していた。その後、子育て支援課長は周知の重要性を認め、今後取り組む考えを示したものの、議事録には教職員研修の具体的な実施計画は記されていない。子どもの意見を聞く制度づくりと、それを受け止める大人の理解をどう結び付けるのかが問われている。

南部中学校で何があったのか

問題提起があったのは、2026年7月29日に豊橋市役所で開かれた第1回こどもの権利条例検討委員会。加藤校長は、1学期に南部中学校で実施された子どもの権利に関する出前講座について説明し、一部の担任から、生徒がわがままなことを多く書いているとの報告を受けたことを明らかにした。

加藤校長によると、担任には、子どもたちは自分の権利について十分に知らないため、まずは自由に意見を出させる必要があると説明したという。教員自身が生徒の記述を否定的に受け止めれば、子どもが何も書かなくなる可能性があるとして、しっかり話を聞くよう促したことも報告している。

さらに加藤校長は、子どもと日常的に接する教員が従来の感覚や考え方にとらわれていれば、子どもを傷つけることがあるとの懸念を示し、条例が完成した段階で教職員向けの研修を実施するよう求めた。

ただし、議事録に記されているのは、加藤校長による担任とのやり取りの報告である。担任本人の発言記録や生徒の実際の記述内容は示されておらず、その言動が権利侵害に該当すると市や教育委員会が認定したものではない。今回の事例を南部中学校全体の指導姿勢と結び付けることも適切ではない。

大人への理解促進、市は年度計画に予定せず

同じ委員会では、委員長を務める愛知大学教授の松尾由希子氏も、大人の権利理解について問題を提起していた。

松尾委員長は、子どもの権利条約について、子どもがわがままになるという誤った解釈が生じる場合があると指摘。子ども自身に権利を理解してもらう取り組みに加え、周囲の大人の理解を深める施策が2026年度に予定されているかを尋ねた。

これに対し、市の事務局は当時、年度の取り組みには予定していないと回答した。一方、出前講座では、子どもが出した意見のすべてが実現するわけではなく、保護者との話し合いや折り合いも必要になると説明していることを明らかにした。

その後、子育て支援課長は、大人への周知は非常に重要だと述べ、2026年度は条例づくりに向けて子どもの意見を聞くことに力を入れているものの、今後は周知にも取り組む方針を示した。

ここで区別すべきなのは、子どもの希望をすべて認めることと、子どもが自由に意見を述べられることだ。学校には安全や集団生活上の制約があり、すべての要望に応えることはできない。それでも、意見を聞く前からその内容を否定的に捉えることと、意見を聞いたうえで実現の可否を説明することは、教育上まったく異なる対応となる。

「自分の意見を言えている」16.8% 市民調査が示す課題

学校現場の議論を考えるうえで、豊橋市の市民意識調査にも注目すべき結果がある。

2025年度調査では、子どもの権利について「知っている」と答えた人は26.1%だった。「言葉は聞いたことがある」は42.5%、「知らない」は31.4%。回答者2,541人のうち、およそ4人に1人しか、権利について知っていると回答していない。

さらに、別の設問では、周囲の子どもについて実現できていると感じることとして、「みんなから大切にされ自分の意見を言うことができている」を選んだ人は16.8%だった。回答者2,508人による複数回答の結果で、子ども自身の意識を直接測ったものではないが、子どもの意見表明が十分に実現されていると感じる回答が多くなかったことは注目に値する。

ただし、この調査は豊橋市在住の15歳以上の日本国籍者を対象としており、外国籍住民や15歳未満の子どもは調査対象に含まれていない。また、個々の学校の実態や教職員の理解度を測定した調査でもない。数字をそのまま南部中学校の状況に当てはめることはできないものの、地域全体で子どもの権利への理解を深める必要性を考える材料となっている。

子どもの意見を聞くことは、すでに法律上の基本理念

子どもの意見表明は、自治体が条例を制定して初めて認められるものではない。

日本が批准している児童の権利に関する条約第12条は、子どもが自分に影響する事項について自由に意見を表明する権利を保障し、その年齢や成熟度に応じて意見を考慮することを求めている。

また、2023年4月に施行されたこども基本法第3条では、子どもが意見を表明する機会の確保と、意見の尊重を基本理念として規定している。第11条は、国や地方公共団体に対し、こども施策の策定、実施、評価に当たって意見を反映させるために必要な措置を講じることを求めている。

こうした法制度の下で豊橋市が独自条例を制定する意義は、理念を掲げるだけでなく、地域の学校や家庭、行政の取り組みにどう反映させるかにある。子どもが意見を表明する機会を設けても、その意見を受け取る側の理解や対応が伴わなければ、制度の実効性は限られる。

条例制定後、学校現場はどう変わるのか

豊橋市は11月1日、子どもの権利条例の制定に向けたアンケートを開始した。小学1年生から大人まで回答でき、子ども本人の意見を条例づくりに生かす取り組みが進められている。

その一方で、7月の検討委員会において明らかになったのは、子どもに意見を求める側の理解も重要だという点だった。出前講座で子どもが安心して意見を書ける環境を整えることは一つの前進だが、学校生活の中で同じ姿勢が継続されるかどうかは別の課題となる。

教職員研修を実施するのであれば、子どもの権利について知識を伝えるだけでなく、実際に意見が寄せられた際の対応、要望を受け入れられない場合の説明、相談しやすい環境づくりまで含めて検討する必要がある。

7月の委員会記録からは、研修の実施主体や対象、時期、教育委員会との連携方法について、確定した計画は確認できない。今後、条例の検討が進む中で、こうした学校現場への具体的な働きかけがどこまで示されるかが焦点となる。

編集部まとめ

今回の議事録で注目すべきなのは、南部中学校の一部教員の反応だけではない。子どもの権利に対する誤解が生じ得ることを、検討委員会の委員長と学校長がそれぞれの立場から問題提起し、市も大人への周知の重要性を認めていた点である。

条例の制定そのものが、学校現場の認識を直ちに変えるわけではない。子どもの声を聞く機会を設けるだけでなく、その意見を誰が、どのように受け止め、判断した結果をどう伝えるのかという運用が問われる。

豊橋市の条例づくりで今後確認すべきなのは、教職員への研修と大人への理解促進を具体的な施策に落とし込めるかどうかだ。子どもが安心して意見を伝えられる環境を、学校の日常にどう定着させるのか。条例の実効性は、その取り組みにも左右される。

特記事項

本記事は、2026年7月29日の豊橋市第1回こどもの権利条例検討委員会議事録、委員名簿、条例検討資料、2025年度市民意識調査、児童の権利に関する条約、こども基本法を基に構成した。

加藤友治校長が報告した一部担任の発言について、担任本人への直接確認は行っていない。学校や市教育委員会による権利侵害の認定を示すものではなく、懲戒処分などが行われたとする事実も確認していない。

市の大人向け周知施策に関する説明は2026年7月29日時点のもの。11月1日までに教職員研修の実施計画が新たに決定されたかについて、個別の回答は得ていない。

Q豊橋市立南部中学校では何が問題になったのですか?
A加藤友治校長が2026年7月29日の検討委員会で、出前講座で子どもが記した意見をわがままと受け止めた一部担任の反応を報告しました。市が権利侵害と認定した事案ではありません。
Q子どもの権利を尊重すると、どんな要求にも応じる必要がありますか?
Aありません。子どもの意見を自由に表明できるようにし、その年齢や発達の程度に応じて尊重することと、すべての要求を実現することは別です。
Q豊橋市は教職員向けの研修を決定しましたか?
A7月の委員会で加藤校長が研修の実施を求めました。ただし、確認した公開資料には、研修の実施時期や具体的な計画は示されていません。
Q豊橋市では子どもの権利に対する理解が進んでいますか?
A2025年度市民意識調査では、子どもの権利を「知っている」と答えた人が26.1%でした。ただし、調査は15歳以上の日本国籍者を対象としたもので、市内すべての子どもや住民の理解度を示す数字ではありません。
Q豊橋市のこどもの権利条例はすでに制定されていますか?
A2026年11月1日時点では制定に向けた検討段階です。11月1日から30日まで、子どもや大人を対象としたアンケートが実施されています。

週刊TAKAPI編集部/黒木

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