人権侵害を受けたら、どこに相談すればいいのか

法務局・弁護士会・行政窓口は何をしてくれるのか【2026年版】

学校、職場、病院、介護施設、行政窓口、SNS上で不適切な扱いを受けたとき、多くの人は最初に迷います。

警察へ行くべきなのか。
学校や会社に言うべきなのか。
弁護士へ相談するべきなのか。
法務局の人権相談を使えるのか。
弁護士会の人権救済申立を出せるのか。

この判断を間違えると、相談先を何度も変えることになります。学校へ言ったのに記録が残らない。会社の窓口へ送ったのに返事がない。施設に申し出たのに「確認します」で止まる。SNS投稿が削除され、証拠が残らない。こうしたことは実際に起きます。

人権侵害という言葉は大きく聞こえます。しかし、実際に相談につながる出来事は身近です。

学校でのいじめ。
部活動での暴言。
退学や退部を迫る発言。
職場でのパワハラ。
病院や介護施設での無断撮影。
患者や利用者の写真をSNSに載せる行為。
予約表、事故報告書、モニター画面、名簿、電話番号の写り込み。
SNSで氏名、顔写真、学校名、勤務先、住所に近い情報を出される行為。

こうした出来事は、すぐに裁判になるとは限りません。警察が動く事件とも限りません。それでも、第三者に相談し、記録を残し、相手方や関係機関へ確認を求める入口になる制度があります。

それが、法務局の人権相談や、弁護士会の人権救済申立です。

2026年時点の数字|人権相談は年間15万件を超えている

法務省が2026年3月に公表した令和7年、つまり2025年の人権侵犯事件の状況では、新規に救済手続を開始した人権侵犯事件は8,207件、処理した事件は8,170件でした。人権相談件数は152,918件とされています。

学校におけるいじめに関する人権侵犯事件は、2025年に1,422件でした。法務大臣会見でも、学校におけるいじめに関するものが前年から増加したことが示されています。

インターネット関連の人権侵犯事件も続いています。2025年のネット関連事案は1,569件と報じられており、内訳ではプライバシー侵害、被差別部落の明示などの事案、名誉毀損が多いとされています。

この数字が示しているのは、人権相談が特別な人だけのものではないということです。学校、職場、施設、SNS上で「これはおかしい」と感じた人が、実際に相談し、救済手続に進んでいます。

まず確認するべきこと

相談する前に、最初に確認することは3つです。

1つ目は、今すぐ危険があるかです。
暴力、脅迫、ストーカー、性的被害、児童虐待、高齢者虐待、自殺をほのめかす状況がある場合は、警察、児童相談所、自治体の緊急窓口につなげる必要があります。

2つ目は、相手がどこの人かです。
学校の先生なのか、会社の上司なのか、病院職員なのか、介護施設職員なのか、SNS上の第三者なのかで相談先は変わります。

3つ目は、証拠が残っているかです。
SNS投稿、LINE、メール、録音、写真、書類、学校や会社からの通知、施設からの回答があるかどうかで、相談先で説明できる内容が変わります。

怒りの強さだけでは、相手に伝わりません。
必要なのは、日時、場所、相手、発言、画像、文書、回答です。

法務局の人権相談でできること

法務局の人権相談は、人権侵害を受けたと感じた人が利用できる相談窓口です。

法務省は、法務局職員または人権擁護委員が、事案の内容や具体的な被害を聞くと説明しています。相談方法は、窓口、電話、インターネットがあります。

法務局では、相談内容によって、人権侵犯事件として救済手続に進む場合があります。

ただし、ここは誤解してはいけません。
法務局の調査は、警察や検察の捜査ではありません。法務省は、人権侵害の有無を確認する調査について、関係者の協力による任意のものだと説明しています。

つまり、法務局へ相談しても、相手を必ず処分できるわけではありません。相手のスマホやパソコンを強制的に調べることもできません。会社や学校へ強制命令を出す場所でもありません。

それでも、法務局に相談する意味はあります。

本人だけで相手に言っても返事がない。
学校や会社に言っても記録が残らない。
施設側が「確認中」と言ったまま止まっている。
SNS投稿が消される前に、第三者へ相談した記録を残したい。
どこへ相談すればいいか分からない。

こうした場合、法務局の人権相談は入口になります。

弁護士会の人権救済申立でできること

弁護士会にも、人権救済申立という制度があります。

日弁連は、人権救済申立について、人権侵害の被害者や関係者から申立てを受け、申立事実や侵害事実を調査し、人権侵害またはそのおそれがあると認める場合、相手方や監督機関などに措置を行う制度だと説明しています。

措置には、警告、勧告、要望、意見の表明、助言・協力などがあります。日弁連は、これらの措置に法的強制力はない一方、弁護士会の法的判断として影響力を持つと説明しています。

ここも、できることとできないことを分ける必要があります。

弁護士会の人権救済申立は、法律相談ではありません。
個別の弁護士を紹介する制度でもありません。
損害賠償を請求する手続でもありません。
裁判や調停の代わりでもありません。

申立ては、基本的に日本語の文書で行います。日弁連は、申立人の氏名や住所、相手方の氏名や団体名、事件の概要、相手方への要望を書くよう案内しており、申立てに費用はかからないとしています。

また、調査には時間がかかります。日弁連は、結論まで相当な期間を要し、過去には数年を要した事案もあると説明しています。

そのため、今すぐ危険を止めたい場合、急いで削除させたい場合、損害賠償を求めたい場合は、弁護士会の人権救済申立だけでは足りません。警察、弁護士、裁判手続、プラットフォームへの削除申請を別に検討する必要があります。

学校で起きた場合

学校で人権侵害と感じる場面は、いじめだけではありません。

同級生からの暴言。
部活動内での人格を否定する発言。
教員による暴言。
指導の名目で長時間立たせる行為。
退学や転校を迫る発言。
学校側が相談記録を残さない対応。
SNSに顔写真や学校名を載せられる行為。

この場合、最初に残すべき記録は、日付、時間、場所、発言内容、見ていた人、学校へ相談した日、学校側の回答です。

学校名、担任名、部活動名、学年、相談した相手、回答の有無をメモに残します。
電話で話した場合は、日時と相手の名前、話した内容を残します。
メールや文書で出した場合は、送信履歴と返信を保存します。

相談先は、学校、学校の設置者、教育委員会、私立学校を所管する部署、法務局の人権相談、弁護士です。暴力や脅迫がある場合は警察も相談先になります。

職場で起きた場合

職場では、パワハラ、セクハラ、退職強要、差別的な扱い、内部通報後の不利益な扱いが問題になります。

残すべき記録は、上司や同僚の発言、メール、チャット、勤務表、配置転換の通知、退職を求められた日時、面談メモです。

「みんな迷惑している」
「辞めた方がいい」
「あなたには向いていない」
「次の契約はない」
「相談したことを問題にする」

こうした発言があった場合は、日時と発言者を残します。

相談先は、社内窓口、労働局、労働基準監督署、弁護士、労働組合、法務局の人権相談です。賃金未払いや労働時間の問題は労働基準監督署、ハラスメントや退職強要は労働局や弁護士につながる場合があります。

病院・介護施設で起きた場合

病院や介護施設では、患者や利用者の情報が外に出る問題が起きます。

患者の顔写真。
利用者の寝姿。
病室番号。
ナースステーション内の画面。
モニター画面。
電子カルテ。
予約表。
事故報告書。
職員のSNS投稿。
施設内の防犯カメラ映像。

これらが外部に出ると、本人や家族が知らないところで、病気、介護状態、入院状況、利用施設、事故内容を第三者に見られる場合があります。

顔や氏名がはっきり写っていなくても、診療科、病室番号、制服、施設名、日時、投稿者の勤務先情報を組み合わせると、本人が分かることがあります。

この場合、残すべき記録は、投稿画像、投稿日時、アカウント名、写り込んでいた情報、施設へ連絡した日時、施設側の回答です。

相談先は、病院や施設の管理者、運営法人、自治体の担当部署、保健所、介護保険担当課、法務局の人権相談、弁護士です。個人情報漏えいが疑われる場合は、個人情報保護委員会への相談も候補になります。

SNS投稿で起きた場合

SNS上では、投稿が削除される前に記録を残す必要があります。

残すものは次の通りです。

・投稿画面のスクリーンショット
・投稿日時
・アカウント名
・プロフィール画面
・投稿URL
・写っていた氏名、顔、学校名、勤務先、電話番号、住所に近い情報
・閲覧できた範囲
・削除された日時が分かる記録

2025年4月1日には、情報流通プラットフォーム対処法が施行されました。この法律は、大規模プラットフォーム事業者に対し、削除対応の迅速化や運用状況の透明化を義務づけるものです。

ただし、法律があるからといって、すべての投稿がすぐ消えるわけではありません。削除申請をしても、判断に時間がかかることがあります。投稿者が削除しても、別のアカウントに保存されていることもあります。

そのため、SNS投稿では、削除依頼と同時に、記録を残すことが必要です。

相談前に作るメモ

相談前には、次の形でメモを作ると説明しやすくなります。

1. 起きた日

2026年〇月〇日

2. 起きた場所

学校名、会社名、病院名、施設名、SNS名など

3. 相手

氏名、役職、アカウント名、所属

4. 何をされたか

発言、投稿、撮影、連絡、処分、無視された内容

5. 残っている証拠

画像、動画、LINE、メール、書類、録音、URL

6. すでに相談した先

学校、会社、施設、行政窓口、警察、弁護士など

7. 相手側の回答

「確認します」「回答できません」「削除しました」など

8. 求めたいこと

削除、説明、謝罪、再発防止、配置変更、処分、調査、文書回答など

「つらかった」だけでは、相談先が動きにくい場合があります。
「2026年4月22日、施設職員のInstagramに、利用者の顔と施設内記録が写った画像が出た。施設へ電話したが、回答は確認中だった」まで書くと、相談先は状況を把握しやすくなります。

人権救済でできること・できないこと

人権救済でできることは、次の通りです。

・第三者に相談する
・相談した記録を残す
・内容によって調査につながる
・相手方へ照会される場合がある
・警告、勧告、要望につながる場合がある
・削除要請や関係機関への働きかけにつながる場合がある

一方で、できないこともあります。

・相手を必ず処分する
・慰謝料を必ず取る
・刑事罰を科す
・相手のスマホを強制的に調べる
・会社や学校に強制命令を出す
・短期間で必ず結論を出す

ここを誤解すると、相談した後に失望します。

人権救済は、裁判の代わりではありません。
警察の捜査でもありません。
相手を必ず処分する手続でもありません。

ただし、相手に直接言っても動かないとき、第三者に記録を残したいとき、学校・会社・施設・行政の対応を外部に説明したいときには、入口になります。

どこへ相談するか迷ったときの早見表

すぐ危険がある。
この場合は警察です。暴力、脅迫、性的被害、ストーカー、児童虐待、高齢者虐待は、法務局よりも先に緊急対応が必要です。

学校のいじめや教員の不適切発言。
学校、教育委員会、私学担当部署、法務局、弁護士が候補です。

職場のハラスメント。
社内窓口、労働局、労働基準監督署、弁護士、労働組合が候補です。

病院や介護施設での無断撮影、個人情報の写り込み。
施設の管理者、運営法人、自治体担当部署、保健所、介護保険担当課、法務局、弁護士が候補です。

SNS投稿による氏名、顔、住所、電話番号、勤務先の公開。
プラットフォームへの削除申請、法務局、弁護士、警察、個人情報保護委員会が候補です。

第三者による調査や警告、勧告、要望を求めたい。
弁護士会の人権救済申立が候補です。

損害賠償を求めたい。
弁護士への法律相談が必要です。

人権侵害を受けたと感じたとき、最初に必要なのは、相手と一人で言い合いを続けることではありません。

まず、記録を残すことです。

いつ。
どこで。
誰が。
何をしたのか。
どの情報が外に出たのか。
どこへ相談したのか。
相手は何と答えたのか。

この7点があると、相談先に説明しやすくなります。

法務局の人権相談は、相談と救済手続の入口です。
弁護士会の人権救済申立は、弁護士会が調査し、警告や勧告、要望などを出す可能性がある手続です。
警察は、犯罪や危険がある場合の相談先です。
行政窓口は、学校、病院、介護施設、事業者への確認や指導につながる場合があります。
弁護士は、損害賠償、交渉、裁判を考える場合の相談先です。

人権救済は、すべてを一度で解決する手続ではありません。

それでも、被害を第三者に伝えることができます。
相談した記録を残すことができます。
相手方や関係機関への確認につながる場合があります。

学校、職場、病院、介護施設、SNSで不適切な扱いを受けたときは、まず事実を整理すること。

そのうえで、法務局、弁護士会、行政窓口、警察、弁護士のどこにつなげるかを選ぶこと。

それが、最初の行動になります。

Q1. 人権侵害を受けたと感じたら、最初にどこへ相談すればいいですか。

暴力、脅迫、性的被害、ストーカー、児童虐待、高齢者虐待など、今すぐ危険がある場合は警察や児童相談所、自治体の緊急窓口です。差別、いじめ、ハラスメント、プライバシー侵害、SNS投稿による被害で相談先に迷う場合は、法務局の人権相談も候補になります。

Q2. 法務局の人権相談では何をしてくれますか。

法務局職員や人権擁護委員が、事案の内容や被害を聞きます。内容によっては、人権侵犯事件として救済手続に進む場合があります。ただし、調査は関係者の協力による任意のもので、警察の捜査とは違います。

Q3. 弁護士会の人権救済申立とは何ですか。

人権侵害を受けた人や関係者が、日弁連や各地の弁護士会に申立てを行い、弁護士会が調査や判断を行う制度です。人権侵害またはそのおそれがあると判断された場合、警告、勧告、要望、意見表明などが行われる場合があります。

Q4. 人権救済で相手を処分できますか。

必ず処分できるわけではありません。法務局や弁護士会の手続には強制力の限界があります。処分、損害賠償、裁判を求める場合は、弁護士への法律相談が必要になる場合があります。

Q5. SNSに氏名や顔写真を出された場合、何を残すべきですか。

投稿画面のスクリーンショット、投稿日時、アカウント名、URL、プロフィール画面、写っていた情報、閲覧できた範囲を残してください。削除される場合があるため、早めに記録を取る必要があります。

Q6. 学校のいじめや不適切指導は人権相談の対象になりますか。

対象になる場合があります。学校におけるいじめは、法務省の人権侵犯事件の統計にも含まれています。2025年の学校におけるいじめに関する人権侵犯事件は1,422件でした。

Q7. 病院や介護施設で患者・利用者の写真をSNSに載せられた場合、どこへ相談できますか。

まず病院や施設の管理者、運営法人に確認します。あわせて、自治体の担当部署、保健所、介護保険担当課、法務局、弁護士、個人情報保護委員会が相談先になります。本人や家族が知らない状態で、顔、氏名、病室番号、施設名、事故記録などが出ている場合は、投稿画像と施設側の回答を保存してください。

Q8. 相談前に準備するものは何ですか。

日時、場所、相手の氏名や役職、発言内容、投稿画像、URL、メール、LINE、写真、録音、学校や会社への相談履歴、相手側の回答を準備してください。説明に必要なのは、感情の強さではなく、いつ、どこで、誰が、何をしたのかという記録です。

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