政府は、ストーカー被害者の安全確保を強化するため、一定の加害者にGPS機器の装着を義務づける制度の導入を本格的に検討している。
加害者が被害者の自宅や勤務先など、あらかじめ設定された区域へ接近した場合、被害者や警察側へ自動通知する仕組みを想定。政府は近く犯罪対策閣僚会議を開き、被害者保護を柱とした緊急対策をまとめる方針だ。
木原官房長官「GPS装着を含め研究」
木原稔官房長官は23日の記者会見で、警察庁をはじめとする関係省庁が、ストーカー加害者へのGPS機器装着を含む対策強化について研究を進めていると明らかにした。
諸外国の制度や技術面、運用上の課題を調査しており、法整備が必要かどうかも含めて検討を進めるとしている。
現時点で制度導入が正式決定したわけではない。対象者、装着期間、位置情報の管理方法、命令違反時の罰則などは今後詰められる。
禁止命令違反など悪質なケースを想定
対象として想定されているのは、ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けても接近を繰り返した人物や、過去に命令違反、暴行、脅迫などの行為が確認され、再犯の危険性が高いと判断されたケースだ。
被害者の自宅や勤務先などに警戒区域を設定し、加害者が区域内へ入った場合に通知する。接近を早期に把握し、被害者の避難や警察の対応につなげる狙いがある。
一方で、危険性を誰が、どの基準で判断するのかは大きな論点となる。警察の判断だけで装着を命じるのか、裁判所の関与を必要とするのかも制度設計の焦点となる。
禁止命令は過去最多、現行制度の限界
政府が対策を急ぐ背景には、ストーカー事案の深刻化がある。
昨年は、ストーカー規制法に基づく禁止命令などの件数が過去最多となった。警告や禁止命令が出された後も、加害者が被害者への接近を続け、重大事件に発展するケースが繰り返されている。
今年3月には、東京都豊島区の商業施設で、ストーカー被害を受けていた女性が殺害される事件が発生した。
加害者の男性は、ストーカー規制法違反などで刑事罰を受け、禁止命令も出されていたとされる。現行制度では、命令を出した後の接近をリアルタイムで把握することが難しく、被害防止の限界が改めて浮き彫りとなった。
自民党提言、GPSと治療義務化が柱
今回の検討は、自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会が5月にまとめた緊急提言を踏まえたものだ。
提言では、禁止命令を受けた加害者などにGPS端末を装着させ、被害者へ接近した場合に通知する仕組みの調査・研究を求めた。
もう一つの柱が、加害者に対する治療やカウンセリングの義務化だ。
ストーカー行為には、執着や依存、被害者意識の強さなどが背景にあるケースもあり、禁止命令だけでは行動が止まらないことがある。現在は治療やカウンセリングを勧めても、本人が拒否すれば受診につながりにくい。
提言では、再犯の危険性が高い加害者に対し、専門医療機関の受診や行動改善プログラムへの参加を義務づける仕組みも検討するよう求めている。
GPSで接近を把握するだけでなく、加害行為そのものを止める治療を組み合わせられるかが、制度の実効性を左右する。
来年の通常国会への法案提出を視野
政府は、ストーカー規制法の改正を視野に制度設計を進め、来年の通常国会への法案提出を目指す方向で調整している。
装着命令への違反や、GPS機器を故意に取り外した場合の罰則も検討対象となる。
一方、位置情報の継続的な取得は、移動の自由やプライバシーに関わる。対象者を必要以上に広げれば、権利制約が過大になる恐れがある。
そのため、禁止命令違反歴、暴力行為の有無、脅迫内容、再接近の可能性など、客観的な基準を設ける必要がある。
バッテリー切れや誤報防止も課題
技術面でも課題は多い。
GPS機器の小型化や耐久性、長時間使用に耐えるバッテリー性能が求められる。加害者が機器を外した場合や、通信が途切れた場合に、直ちに異常を検知できる仕組みも必要だ。
位置情報には一定の誤差が生じる可能性がある。警戒区域の近くを通過しただけで通知が頻発すれば、誤報によって被害者の不安を強める恐れもある。
通知後の対応体制も重要となる。
警察がどの段階で現場へ向かうのか。
被害者をどこへ避難させるのか。
誰が24時間体制で位置情報を確認するのか。
制度を導入するだけでなく、警察、自治体、支援団体が連携した即応体制を整えなければ、通知が届いても被害を防げない可能性がある。
韓国では電子足輪制度を運用
韓国では、再犯の恐れがあるストーカーや性犯罪者を対象に、GPS機能付き電子足輪を装着させる制度が導入されている。
加害者の位置情報を24時間確認し、被害者への接近を検知した場合に警告や通知を行う仕組みだ。
性犯罪者を対象とした電子監視制度では、導入後に再犯率が大幅に低下したとされる報告もある。一方、裁判所が装着を認める割合の低さや、プライバシー侵害への懸念、監視人員の不足などが課題となっている。
日本でも、海外制度の効果だけでなく、実際の運用で生じた問題を検証する必要がある。
専門家「GPSと治療を両輪に」
ストーカー対策に詳しい専門家からは、GPSによる接近監視だけでは根本的な解決にならないとの指摘が出ている。
位置情報を把握できても、加害者の執着や依存が解消されなければ、機器を外す、別の手段で接触するなどの行動に出る可能性があるためだ。
被害者支援に関わる弁護士や支援団体からも、接近通知、警察の即応、避難支援、加害者治療を一体的に運用する必要があるとの声が上がっている。
編集部まとめ
ストーカー被害では、禁止命令が出ていても、加害者の接近を防げなければ被害者の安全は守れない。
GPSによる接近通知は、危険を早期に察知する手段として有効性が期待される。一方で、通知するだけでは不十分だ。
加害者の危険性をどう判断するのか。
警察がどこまで迅速に介入できるのか。
治療やカウンセリングを実効性のある制度にできるのか。
今後の焦点は、GPS装着を単なる監視制度で終わらせず、被害者の避難、警察の即応、加害者の治療を一体化した仕組みにできるかだ。
被害者の生命を守るため、政府には形式的な制度導入ではなく、重大事件を現実に防ぐ実効性のある法整備が求められる。
週刊TAKAPI編集部/成田
特記事項:本記事は政府関係者の説明、官房長官記者会見、自民党の緊急提言、警察発表および各社報道を基に構成しています。GPS装着制度は現時点で検討段階にあり、対象者、導入時期、装着期間、罰則、法案提出時期などは正式決定していません。
被害者保護をどう実効化するか
政府が検討するGPS装着制度は、加害者の接近を早期に把握し、被害者が避難する時間を確保するための仕組みです。ただし、通知だけで被害を防げるわけではありません。警察の即応、避難支援、機器の管理、加害者への治療を一体化し、禁止命令が形だけで終わらない制度にできるかが最大の焦点となります。
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