船員による酒気帯び状態での航海当直やアルコール検査の替え玉、発航前検査記録の不実記載などが確認された東海汽船に対し、国土交通省関東運輸局は28日、安全統括管理者と運航管理者の解任命令、輸送の安全確保に関する命令、船員法に基づく是正命令を発出した。解任と改善策の報告期限はいずれも9月28日とされている。
週刊TAKAPIは処分前日の27日、東海汽船に独自取材。同社は特別調査委員会の調査結果について「9月中旬」を目途としている一方、改善計画の具体策は「まだ決まっていない」と回答していた。聴聞での具体的な説明、法令違反を把握した時期、管理職が実態を認識していたかについては回答を差し控えていた。
その翌日に出された今回の命令では、国側が安全管理上の問題を13項目に整理。経営トップ、安全統括管理者、運航管理者を含む組織全体の管理体制に踏み込んだ。
安全統括管理者と運航管理者を9月28日までに解任
関東運輸局が解任を命じたのは、安全統括管理者を務める執行役員運航本部長と運航管理者の2人。
国は安全統括管理者について、全社的にアルコール検査体制が形骸化し、検知器の使用方法など安全管理規程を機能させるための教育も実施していなかったと指摘。法令違反に有効な対策を講じていなかったとしている。
運航管理者についても、舷門を閉じない状態での発航や、船内巡視時に舷門の閉鎖を確認しない運用が常態化していたにもかかわらず、有効な対策を講じていなかったとした。
国は両者が引き続き職務に就くことについて、輸送の安全確保に著しい支障を及ぼすおそれがあると判断。解任期限を9月28日とした。
国が認定した13項目 社長は「元日飲酒の慣行を認知」
今回の行政処分で重要なのは、現場の船員だけの問題として整理されていない点だ。
関東運輸局は、安全確保命令の原因となった事実として13項目を列挙した。
その第1項では、社長自身が大型船内での元日飲酒の慣行を認知していながら、適切な措置を取っていなかったと認定。経営トップが安全最優先の原則の徹底に主体的に関与せず、安全マネジメント体制を適切に運営していなかったとしている。
これは、週刊TAKAPIが前日の独自取材で確認した「管理職が問題の実態を認識していたか」という未回答部分に、新たな公的情報が加わったことになる。
ただし、会社が個々の違反をいつ、どの範囲まで把握したのかという時系列全体は、なお明らかになっていない。
元日に「船舶ぐるみで飲酒」 船長含む複数人が基準を大幅超過か
国の資料によると、2026年1月1日、「さるびあ丸」と「橘丸」では、船長を含む乗組員が旅客を運送している最中に飲酒した。
さらに、飲酒後ほとんど時間を置かず、アルコール検査もしないまま航海当直に就いたとされる。
国が飲酒量や時刻などから推計したところ、航海当直開始時に、呼気1リットルあたり0.15ミリグラムを大幅に上回る状態だった乗組員が船長を含め複数確認された。
問題は元日の飲酒だけではない。
大型貨客船では出入港時のアルコール検査を行わないことが常態化し、飲酒習慣がないと自己申告した乗組員などについて、実際には検査していないのに結果を「ゼロ」と記録する運用も常態化していたとされた。
ジェットフォイルではアルコール検査の「替え玉」
2026年4月25日には、ジェットフォイル「セブンアイランド結」でアルコール検査の替え玉受検が発生した。
その際、検査記録にも事実と異なる内容が記載されたと国は認定している。
関東運輸局は、この替え玉受検に関係する違反について「違反事実またはそれを証するものを隠滅したと疑うに足りる相当な理由」がある場合に該当するとし、行政処分上の違反点数を2倍に加重した。
単なる検査漏れではなく、検査制度そのものの信頼性が損なわれた事案として扱われている。
舷門を開けたまま運航 記録は「○」
大型貨客船では、舷門を閉鎖しないまま出航する運用も問題となった。
「さるびあ丸」は2025年11月7日の東京―大島間、同年12月24日の式根島―神津島間で、舷門を開放したまま運航したとされる。
国によると、問題が表面化するまで、大型貨客船では乗降用設備が残った状態で発航前検査を終え、舷門を閉じないまま出航することが常態化していた。
さらに、舷門が閉鎖されていないことを認識しながら、発航前検査記録簿の「乗降用設備」の欄には「○」を記載することも常態化していたと認定された。
2回の舷門未閉鎖運航について、運輸局への報告も行われていなかった。
「改善策はまだ決まっていない」から一夜 国が期限を設定
週刊TAKAPIが27日に東海汽船へ改善計画の具体策を確認した際、会社側は「まだ決まっていない」と回答していた。
特別調査委員会については、正確な日程は未定としながらも、9月中旬を目途に調査結果を出すよう求めていると説明。結果を踏まえて再発防止策と改善計画を策定する方針を示していた。
28日の命令によって、状況は一段進んだ。
関東運輸局は東海汽船に対し、安全管理体制の抜本的な再構築、アルコール検査体制の抜本的な見直し、発航前検査の適正化、安全教育などを求め、9月28日までに文書で報告するよう命じた。船員法に基づく是正命令でも、同日までに全社的・抜本的な改善策を報告するよう求めている。
会社側が目途としている特別調査委員会の「9月中旬」と、国が設定した改善報告期限「9月28日」が、今後の重要な時間軸となる。
2025年4月にも是正命令 「一向に改善されない」と国
東海汽船が国から安全管理上の改善を命じられたのは今回が初めてではない。
2025年4月にも、船員の労働時間超過、必要な教育訓練を修了していない者の乗船、非常時の操練不足、航海日誌への虚偽記載などを理由に、是正命令と輸送の安全確保に関する命令を受けていた。
今回の解任命令では、国が過去の指導経緯にも言及した上で、安全管理体制について「一向に改善されない」と評価している。
前回の改善命令から約1年4カ月で、より踏み込んだ管理者の解任命令に至った形だ。
事業停止命令は今回の公表処分に含まれず
8月21日の聴聞では、一般旅客定期航路事業の停止や安全統括管理者の解任などを含む行政処分案が示されていた。週刊TAKAPIの27日の取材では、事業停止となった場合の代替輸送についても確認したが、会社は具体案を明らかにしていなかった。
28日に国が公表した処分は、安全統括管理者・運航管理者の解任命令、輸送の安全確保命令、船員法上の是正命令で、少なくとも今回公表された処分に事業停止命令は含まれていない。
東京と伊豆諸島を結ぶ生活航路への直接的な運航停止は今回示されなかった一方、安全管理の責任者2人の交代と、経営トップを含む管理体制の抜本的な再構築が求められた。
残る核心 会社は「いつ」「どこまで」把握していたのか
国の28日の資料によって、違反内容と安全管理上の問題は前日までより大幅に具体化した。
特に、社長が元日の船内飲酒の慣行を認知していたこと、安全統括管理者や運航管理者が有効な対策を講じていなかったと国が認定した点は重い。
一方で、週刊TAKAPIが27日に質問した法令違反を会社がいつ把握したのか、各管理職が個別事案をいつ認識したのか、8月21日の聴聞で会社が何を説明したのかという時系列は、なお会社から示されていない。
9月中旬を目途とする特別調査委員会の報告と、9月28日までに国へ提出する改善報告で、この空白がどこまで埋まるのかが次の焦点となる。
週刊TAKAPI 編集部/成田
特記事項
本記事は、8月27日に実施した週刊TAKAPIの東海汽船への独自取材と、28日に国土交通省・関東運輸局および東海汽船が公表した資料を基に構成しています。東海汽船は27日時点で、特別調査委員会の結果を9月中旬の目途としているものの、正確な公表日は未定と回答しています。
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