愛知県新城市が2024年10月に民間委託へ切り替えた放課後児童クラブと新城ハートフルスタッフ。運用開始から約2年が経過し、市は次期委託の契約期間を5年間とする方針です。
次期5年間の提案上限額は、2事業を合わせて11億3910万3600円。
ただ、この数字だけを見て「民間委託は高い」「直営の方が安かった」と結論付けることはできません。
これまでの取材で確認できたのは、人手不足そのものは解消していない一方、欠員を理由とする事業縮小はなく、2事業間での人材融通や研修機会の拡大、市職員の労務管理負担の軽減といった変化です。
一方で、次期契約は現行より長い5年間。次に問われるのは、民間委託を続けること自体ではなく、その5年間で何を成果として測り、市民にどう示すのかです。
人手不足は残った それでも事業縮小はなし
民間委託から約2年。
新城市の放課後児童クラブをめぐる人材確保が、民間委託によって一気に解決したわけではありません。
受託事業者は現在もスタッフの確保に苦労し、募集を続けています。
一方、市によると、人員不足を理由に児童クラブなどの事業を縮小したケースはこれまでありません。
ここで効果を発揮しているのが、放課後児童クラブと新城ハートフルスタッフを同じ事業者へ包括的に委託した仕組みです。
直営時代には、それぞれの事業で人材を確保していました。民間委託後は、学校の長期休業中などに、普段はハートフルスタッフとして勤務する人材を児童クラブへ配置するなど、2事業の間で人員を動かせるようになりました。
約2年間で確認されたのは「人手不足がなくなった」という成果ではありません。
人手不足を抱えながらも、人員配置を工夫し、事業を縮小せず維持してきたという実績です。
研修機会は増加 市職員の労務負担も軽減
民間委託後に変わったのは、人員配置だけではありません。
受託事業者が全国規模で展開する研修などに参加できるようになり、現場スタッフの研修機会も増えました。
研修機会が増えただけで、サービスの質が向上したと断定することはできません。ただ、自治体単独では実施しにくい人材育成の仕組みを利用できるようになったことは、直営時代との違いの一つです。
市役所側の業務にも変化があります。
直営時代には、放課後児童クラブとハートフルスタッフを合わせて100人を超える現場スタッフについて、市の正規職員が募集、雇用、労務管理などを担っていました。
民間委託後は、こうした業務の多くを受託事業者が担っています。
市担当者は、担当する正規職員の労働時間について「相当減った」と説明しています。
民間委託の費用対効果を考える場合、委託料だけでなく、市職員がそれまで投入していた勤務時間も行政コストとして見る必要があります。
利用者側に「民間になって悪くなった」との目立った声なし
サービスを受ける側から見た変化も重要です。
児童クラブでは現在も、支援員との関係などをめぐって保護者から個別の相談や苦情が寄せられることがあります。
ただ、こうした相談は直営時代にも存在していました。
市担当者によると、民間委託に切り替わったこと自体を理由として「以前より悪くなった」とする目立った声は、これまで把握していないということです。
初回の契約期間を2年半とした段階では、運営上の問題があれば直営へ戻すことも選択肢として想定されていました。
約2年間の運用を経て、市は次期委託の期間を5年間とします。
この判断は、少なくとも現段階で、市が民間委託を継続できる運営方式と評価していることを示しています。
11億3910万3600円は「契約額」ではない
次期委託で最も大きく見える数字が、11億3910万3600円です。
内訳は、放課後児童クラブが9億529万2000円、新城ハートフルスタッフが2億3381万1600円。
ただし、これは2027年度から2031年度までの5年間について設定された提案上限額です。
契約額ではありません。
予定価格でもありません。
事業者が公募型プロポーザルで提案できる金額の上限です。
市によると、金額の設定には民間事業者から得た積算なども参考にしています。
したがって、「新城市が今後5年間で11億3910万3600円を支払うことが決まった」と捉えるのは正確ではありません。
実際の契約額は、事業者選定などを経て決まります。
価格は300点中15点 選定の95%は価格以外
次期事業者は、公募型プロポーザルで選定されます。
評価は300点満点。そのうち見積価格の配点は15点です。
割合にすると5%。
残る285点、全体の95%は、業務遂行力、事業内容、運営体制、安全対策、独自サービスなど、価格以外の項目で評価されます。
市担当者も取材に対し、単純に価格の安い事業者を選ぶのではなく「内容を見て選ぶ」と説明しています。
この配点は、今回の次期委託を考える上で重要です。
11億円を超える提案上限額だけを見ると、議論はどうしても「高いか、安いか」に向かいます。
しかし、選定制度そのものは価格競争を中心には設計されていません。
むしろ市に求められるのは、価格以外の285点で何を評価し、なぜその事業者を選んだのかを市民に説明できる選定です。
「民間にしていくら安くなったか」だけでは測れない
新城市は民間委託を導入した際、正規職員の効率的な配置や経費削減などを目的に掲げていました。
では、直営時代と比較して実際にいくら安くなったのでしょうか。
市担当者は、委託料だけを取り出して直営時代と比較し、「これだけ安くなった」と単純に評価することは難しいと説明しています。
理由の一つが、市役所内部の人的コストです。
直営時代には100人を超える現場スタッフの採用や労務管理を、市職員が直接担っていました。
民間委託後はその負担が大きく減っています。
一方で、市職員の勤務時間が減ったという一点だけで、民間委託が成功したと判断することもできません。
行政負担が減っても、利用者サービスが悪化していれば意味はありません。
逆に、委託料だけが増えたように見えても、人材確保、研修、サービス維持、市職員の業務削減まで含めれば評価は変わる可能性があります。
民間委託を検証するなら、「委託料」だけでは足りません。
次の5年間で問われるのは「何を成果として測るか」
ここが、前編で追った約2年間の運用と、後編で確認した次期5年間の公募条件をつなぐ最大の論点です。
現時点では、欠員による事業縮小がなかったこと、人材を2事業間で融通できるようになったこと、研修機会が増えたこと、市職員の労務負担が減ったこと、民間委託そのものを理由とする目立ったサービス悪化の声を市が把握していないことが確認されています。
次期契約は5年間です。
今後は「問題なく運営できています」という説明だけでは、5年間の成果を十分に評価できません。
職員を何人確保できたのか。
離職や定着はどう推移したのか。
研修はどの程度実施されたのか。
保護者からの相談や苦情はどう変化したのか。
事故や重大なトラブルは増えたのか、減ったのか。
市職員の業務時間は直営時代と比べてどの程度減ったのか。
利用者が感じるサービスの質はどう変化したのか。
こうした指標を継続して残せば、5年間の終了時に「民間委託が機能したのか」を数字で検証できます。
逆に、評価指標を持たないまま5年間を終えれば、再び「民間は良かった」「直営の方が良かった」という印象論に戻りかねません。
人材確保を考えるなら待遇も外せない
現場スタッフの雇用条件も、次期委託では重要になります。
2024年に直営から民間委託へ移行した際、市は、それまで市で勤務していた職員が民間事業者へ移ることを踏まえ、月給や賞与などが市在籍時の水準を下回らないよう条件を設けました。
一方、次期事業者が現在とは別の事業者になった場合、現在働いているスタッフの転籍や給与条件などは、基本的に民間事業者間の調整になります。
市は、委託開始後に各スタッフがどの程度昇給し、現在どの水準の給与で働いているのかまでは把握していません。
人材不足が続く状況では、待遇と人材確保は切り離せません。
人数をそろえられるかだけでなく、経験を積んだスタッフが継続して働ける環境を維持できるかも、次期5年間の安定運営を左右します。
民間へ委託しても「市の事業」であることは変わらない
民間委託をめぐって、最も重要なのは責任の所在です。
市担当者は取材で、放課後児童クラブと新城ハートフルスタッフについて「あくまで市の事業」だと説明しています。
運営実務を民間事業者へ委託しても、事業そのものを民間企業へ譲渡したわけではありません。
利用者から意見や苦情があれば、市へ伝えることができます。
事業者を選定するのも市です。
契約後の運営状況を確認し、必要があれば改善を求めるのも市です。
つまり、民間委託によって現場業務を外部化しても、行政としての説明責任まで外部化することはできません。
次の5年間では、受託事業者がどのようなサービスを提供するのかと同時に、新城市がそのサービスをどのように監督し、市民へ説明していくのかも問われます。
編集部まとめ
新城市の約2年間の民間委託で見えてきたのは、単純な「成功」「失敗」ではありません。
人材不足は残りました。しかし、事業縮小はなく、2事業間の人員融通や研修機会の拡大、市職員の業務負担軽減という変化もありました。
次期5年間の提案上限額は11億3910万3600円。ただし、これは契約額ではなく、事業者選定で価格が占める割合も5%にとどまります。
だからこそ、次の5年間で問われるのは「民間委託を続けることが正しいか」という抽象的な議論ではありません。
人材、待遇、サービス、行政負担、利用者評価をどの数字で測るのか。
そして、その結果を市民にどう示すのか。
民間委託は目的ではなく、新城市が行政サービスを維持するために選んだ手段です。
2027年度から始まる次の5年間は、その手段が本当に機能しているのかを数字で示す期間になります。
週刊TAKAPI 編集部
特記事項
本記事は、週刊TAKAPIが新城市への直接取材をもとに報じた前編「約2年間の民間委託の運用実態」と、後編「次期5年間の公募条件・提案上限額・事業者選定」を一本に統合し、次期委託で何を検証すべきかという観点から再構成したものです。
11億3910万3600円は、2027年度から2031年度までの5年間について設定された2事業の提案上限額の合計であり、契約額や予定価格ではありません。
また、現行の受託事業者との契約をそのまま5年間延長するという意味ではありません。次期受託事業者は公募型プロポーザルによって選定されます。
本文中で示した次期5年間の評価指標については、市がすべてを正式なKPIとして設定したという意味ではなく、約2年間の取材内容を踏まえて編集部が検証に必要と考える観点を整理したものです。
情報提供募集
新城市の放課後児童クラブ、新城ハートフルスタッフ、民間委託後の運営、現場スタッフの雇用環境、保護者や利用者が感じている変化について、公表可能な情報をお持ちの方は、メール(info@108takapi.jp)、各種SNSのDM、または公式LINEまでお寄せください。
利用児童、保護者、現場スタッフなどを特定する未確認情報はそのまま掲載せず、内容を確認したうえで取材・報道に活用します。
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