愛知県精神保健福祉センターで、精神障害者保健福祉手帳などの申請書類233件を紛失し、誤った等級の手帳4件を交付していた問題で、2025年11月に所在不明が判明していた99件の書類が、県が同年10月から12月に実施した15万1594件の事務処理を対象とする調査には含まれていなかったことが、週刊TAKAPIの独自取材で分かった。
さらに、この99件は、県が2026年2月10日に1034件の不適切な事務処理を公表した時点でも見つかっていなかった。
県担当者は週刊TAKAPIの取材に対し、当時は書類の探索を続けており、県として「紛失」と判断した段階ではなかったと説明。2026年8月になって、233件を紛失と整理したことも明らかにした。
また、県が2月の問題を受けて再発防止策として打ち出した「複数職員による確認」を実施していたにもかかわらず、同年6月と7月に認定された計3件について、誤った等級での手帳交付を見抜けなかったことも今回の取材で分かった。
「99件は15万1594件の調査に含まれていたのか」県は否定
県は2月10日、同センターに在籍していた職員Aをめぐる不適切な事務処理について調査結果を公表した。
県によると、2025年10月から12月にかけて、職員Aが在籍していた2023、2024年度の手帳などに関する「すべての事務処理」15万1594件を調査し、計1034件の不適切な処理を確認した。
一方、今回問題となっている最初の99件について、所在が確認できないことが判明したのは2025年11月だった。
つまり、15万1594件の調査が進められていた期間中に、別の申請書類99件が所定のファイルにないことが分かっていたことになる。
週刊TAKAPIは9月18日、県担当者に、この99件が2月に公表した15万1594件の調査に含まれていたのか直接確認した。
県担当者は「含まれてはいない」と回答した。
担当者によると、2月公表の調査では、センターで保管され、ファイルに綴られていた書類を確認した。一方、所在が分からず捜索していた書類については調査対象に含めず、不適切な事務処理の確認を進めたという。
県は2月の発表で「2023年度、2024年度の手帳等に係るすべての事務処理を調査」と説明していたが、今回の取材で、当時所在を確認できなかった申請書類は、その調査には含まれていなかったことが明らかになった。
2月公表時点でも99件は見つからず
週刊TAKAPIは続けて、県が1034件の問題を公表した2月10日の時点でも、99件が見つかっていないことを把握していたのか尋ねた。
県担当者は、当時も所在を確認できていない書類があったことを認めた。
では、なぜ2月の公表時に99件の所在不明を明らかにしなかったのか。
担当者は、当時は十分な探索を終えた段階ではなく、引き続き書類を探している最中だったと説明した。
その時点では、県として「紛失」と認定していたわけではなかったという。
2026年8月に「紛失」と判断
県の9月17日の発表によると、2025年11月、2023年度の簿冊を確認した際、精神障害者保健福祉手帳と自立支援医療受給者証の交付済み申請書類計99件が所定のファイルにないことが判明した。
県はその後、センター内の捜索や当時在籍していた職員への聞き取りを実施。
さらにほかの年度についても確認し、最終的に手帳申請書類79件、受給者証申請書類154件の計233件を紛失したと公表した。申請者の実人数は172人だった。
週刊TAKAPIが、県として正式に紛失と判断した時期を尋ねたところ、担当者は、2026年8月までに探索できる範囲を一通り確認し、この段階で「紛失」と整理したと説明した。
その後、公表のための準備を進め、9月17日の発表に至ったという。
最初の99件については、所在不明が判明した2025年11月から、県が紛失と判断するまで約9か月を要したことになる。
233件と職員Aの関係 県から明確な回答得られず
週刊TAKAPIは、今回紛失した233件の中に、2月に問題となった職員Aが担当していた案件が含まれているのかについても確認した。
県担当者は、書類が実際にいつ紛失したのか判然としていないことなどを説明。
一方で、職員Aが担当していた案件が233件に含まれるのかについては、明確な回答を示さなかった。
このため現時点で、今回の233件の紛失と、職員Aによる1034件の不適切な事務処理との直接的な関連は確認できていない。
「なぜ233件もなくなったのか」県も原因特定できず
週刊TAKAPIは県担当者に、そもそもなぜ233件もの申請書類が所在不明になったのかを尋ねた。
担当者は、具体的な原因について「特定には至っていない」と説明した。
そのうえで、センター内で適切な文書管理ができていなかったことは間違いないとの認識を示した。
県の公表でも、原因は特定できておらず、適切な文書管理が行われないまま誤って廃棄された可能性などがあるとしている。
2月に「全工程を複数確認」 それでも3件の誤交付
今回の独自取材で、もう一つ重要な事実が明らかになった。
県は2月の1034件問題を受け、審査やシステム入力、手帳作成などの工程について、複数職員による確認を行う再発防止策を打ち出していた。
しかし、その後の2026年6月と7月に認定された計3件で、再び誤った等級の手帳が交付された。
週刊TAKAPIは、この3件について「複数職員による確認は実際に行われていたのか」と尋ねた。
県担当者は、別の職員によるチェックも行っていたと回答した。
それでも誤りを発見できず、手帳を交付した後、対象者やグループホームからの問い合わせをきっかけに発覚したという。
県の9月17日の発表によると、6月認定の2件では障害年金の等級を確認する際に同姓の対象者を取り違えて転記。7月認定の1件では、日本年金機構のオンライン照会結果を書類に転記する際、等級を誤記していた。
2月に掲げた複数確認を実際に行っていたにもかかわらず、今回の3件では誤交付を防げなかった。
「ダブルチェックだけでは厳しいのでは」県に直接問う
週刊TAKAPIは県担当者に対し、複数職員による確認を実施しても誤りを発見できなかった以上、単に「チェックを徹底する」だけでは再発防止策として十分ではないのではないかと尋ねた。
県担当者は、有効な手段を講じることの難しさにも言及。
今回の事例を職員全員に伝えたうえで、改めてチェック体制を徹底していく考えを示した。
県は公式の再発防止策として、システムに入力した等級と判定結果を改めて確認することや、日本年金機構のオンライン照会結果と転記内容を再度照合することなどを挙げている。
一方、今回の取材では、6月と7月認定分の3件について、こうした確認の徹底とは別の新たな仕組みについて具体的な説明はなかった。
2024年の誤交付 手書き名簿は現在廃止
4件のうち、2024年に本来2級とすべき対象者へ3級の手帳を交付していた事例は原因が異なる。
県担当者によると、当時、市町村へ通知する際に使用する名簿へ職員が等級を記載する過程で誤りが生じた。
県は現在、職員が手書きした名簿を使用する方式をやめ、システムから出力した交付者名簿を使用している。
県の発表では、この運用を2026年4月から導入したとしている。
ただし、6月と7月の3件は、この手書き名簿とは別の工程で発生している。
本来2級を約2年間3級で交付 賠償は「申し出があれば対応」
2024年の事例では、本来2級として交付すべき対象者に3級の手帳が交付され、その状態が約2年間続いた。
県は2026年6月の更新後に誤りを把握し、その後、本人へ謝罪して正しい等級の手帳を交付している。
週刊TAKAPIは、約2年間にわたり誤った等級の手帳が交付されたことで、医療費助成など本人に実際の不利益が生じていないかを県に確認した。
担当者は、手帳によって利用できるサービスには自治体や団体などが独自に実施しているものがあると説明した。
そのうえで、現時点で直ちに賠償を行うことは考えていないものの、対象者から具体的な賠償請求に関する申し入れがあった場合には適切に対応するとした。
233件と4件の調査「一旦これで区切り」
週刊TAKAPIは、233件の紛失と4件の誤交付について調査は終了したのか、今後さらに件数が増える可能性があるのかも確認した。
県担当者は、今回の調査について「一旦これで区切り」とする趣旨の説明をした。
ただし今後、手帳の等級などについて問い合わせがあり、新たな誤りが確認された場合には、その都度確認して対応するとしている。
現時点では、今回公表した4件以外に同様の誤交付は確認されていないという。
マイナンバー「何件に記載されていたか分からない」
紛失した233件の申請関係書類には、氏名や住所、電話番号だけではなく、個人番号、病名、病歴、病状、検査所見、治療内容などの情報が記載される場合がある。
県の発表でも、こうした情報が紛失書類に含まれることを明らかにしている。
週刊TAKAPIは、233件のうち実際に何件へマイナンバーが記載されていたのかを県に確認した。
県担当者は、申請書には個人番号を記載する欄があるものの、すべてに記載されているとは限らないと説明。
さらに、書類そのものを紛失しているため、実際に何件へ個人番号が記載されていたのかについては確認できないとした。
県の公表資料によると、申請者本人だけでなく、場合によっては保護者や同一の健康保険に加入する人の個人番号が記載される書類もある。
病名、病歴、病状などの情報も
週刊TAKAPIは、紛失書類に診断書や病名、病歴、病状などの情報が含まれているのかについても県担当者に確認した。
担当者は、こうした情報を含む書類も紛失対象となっていることを認めた。
県の資料でも、手帳申請関係書類には病名、初診年月日、病歴、病状、検査所見、生活能力の状態など、自立支援医療受給者証の関係書類には病名、病歴、現在の治療内容、今後の治療方針などが含まれるとしている。
ただし、紛失した233件すべてに同一の情報が記載されていたという意味ではない。
県「外部に流出した形跡がないというだけ」
個人情報の扱いについても、今回の取材で県側の説明を確認した。
県は9月17日の発表で、現時点で個人情報の漏えいは確認されていないとしている。
週刊TAKAPIが電話取材で「現時点では個人情報の漏えいはないということか」と確認したところ、県担当者は「外部に流出した形跡がないというだけ」と説明した。
対象者には、何らかの問題があった場合にはセンターへ情報を寄せるよう伝えているという。
紛失した233件の書類そのものは、現在も発見されていない。
現時点で確認されているのは、外部流出を示す形跡が見つかっていないというところまでとなる。
編集部まとめ
今回の独自取材では、2025年11月に所在不明が判明していた99件が、同じ時期に県が行っていた15万1594件の調査には含まれていなかったことが分かった。
県は2月10日の公表時点でも書類を発見できていなかったが、当時は探索中で、紛失と判断する段階ではなかったと説明している。最終的に県が紛失と整理したのは2026年8月だった。
さらに、県が2月に再発防止策として掲げた複数職員による確認を実際に行っていた6月、7月認定分の3件でも、等級の誤りを見抜けなかった。
233件の紛失原因は現在も特定されておらず、実際に何件の書類へ個人番号が記載されていたのかも県は確認できていない。
今回の問題では、紛失した書類の所在だけでなく、15万1594件の調査がどの範囲まで実態を確認できていたのか、そして2月に導入した再発防止策が現場で実際に機能しているのかが今後の検証点となる。
週刊TAKAPI編集部/成田
特記事項
本記事は、愛知県が2026年2月10日及び9月17日に公表した資料と、9月18日に週刊TAKAPIが愛知県精神保健福祉センターへ行った独自の電話取材を基に構成しています。
99件が15万1594件の調査に含まれていなかったこと、2月公表時点でも書類が発見されていなかったこと、県が2026年8月に紛失と整理したこと、6月と7月認定分の3件で別の職員による確認も行われていたこと、個人番号の実際の記載件数を県が確認できないこと、賠償への県の考えは、今回の取材で県担当者に直接確認しました。
今回紛失した233件と、2月に公表された職員Aによる1034件の不適切な事務処理との直接的な関連は、現時点では確認されていません。
個人情報についても、外部流出を示す形跡は現時点で確認されていませんが、紛失した書類自体は発見されていません。
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