愛知県田原市が、相続した空き家の売却時に使える「譲渡所得の3,000万円特別控除」に必要な確認書を交付した空き家は、令和3年度から令和7年度までの5年間で計9物件だったことが、週刊TAKAPIの取材で分かった。
ただし、9件は実際に売却された空き家の数でも、税務署が控除を認めた件数でもない。市が把握しているのは確認書を交付した段階までで、その後に売買が成立したか、確定申告で特別控除が適用されたかは追跡していない。
制度が田原市内の空き家解消にどの程度つながったかについても、個別の効果検証は行っていないという。
この記事の要点
- 田原市が令和3年度から令和7年度の取材時点までに確認書を交付した相続空き家は、物件単位で計9件
- 市が確認した記録の範囲では、申請後に確認書を交付できなかった事例は0件
- 市は交付後の売却成立や控除適用を追跡しておらず、制度単独の空き家解消効果も評価していない
田原市の相続空き家3,000万円控除、確認書交付は5年間で9件
田原市の空き家担当者によると、相続空き家の3,000万円特別控除に関連する確認書の交付実績は、令和3年度から令和7年度の取材時点までで計9件だった。
年度別では、令和5年度の4件が最も多く、令和6年度が3件、令和3年度が2件。令和4年度は0件で、令和7年度も2026年9月18日の取材時点では0件だった。
令和7年度は年度途中のため、0件は年度全体の確定値ではない。今後、年度末までに件数が増える可能性がある。
「9件」は申請者数ではなく、空き家の物件数
田原市が回答した9件は、申請書の枚数や相続人の人数ではなく、空き家の物件単位で集計した数字だ。
一つの空き家を複数人で相続していても、同じ物件であれば1件として数える。このため、確認書を受け取った相続人の延べ人数や、市が発行した書類の総数とは一致しない可能性がある。
「9人が控除を利用した」「確認書を9通発行した」という意味ではない点に注意が必要だ。
確認書を交付できなかった事例は0件 市が確認した記録の範囲
市が過去の記録を確認した範囲では、申請を受け付けたものの、要件を確認できずに確認書を交付しなかった事例はなかった。
今回確認できた申請は、いずれも確認書の交付に至ったことになる。ただし、市が示した実績は物件単位であり、申請者単位の受付件数や発行書類数とは異なる。
また、「不交付0件」は、制度の対象になり得るすべての相続空き家所有者が申請したことを意味しない。申請前の相談段階で手続きを見送ったケースや、制度を知らずに申請しなかったケースの有無までは、この数字から判断できない。
確認書9件は「売却実績」でも「控除適用実績」でもない
今回の取材で最も重要なのは、確認書交付9件を、相続空き家の売却件数や控除適用件数に置き換えることはできないという点だ。
田原市が確認しているのは、特別控除の手続きに必要な確認書を交付した段階まで。担当者は「確認書を発行した件数であり、その後の調査は特に行っていない」と説明した。
市は、確認書交付後の次の状況を把握していない。
- 空き家の売買契約が成立したか
- 所有者が税務署で確定申告したか
- 税務署の審査を経て3,000万円特別控除が適用されたか
したがって、9件すべてが売却や控除適用に至ったかは分からない。
一方、確認書を必要としない形で売却された相続空き家を含め、市内で相続空き家が実際に何件売却されたかも、空き家担当部署では把握していない。
家屋付き売却と解体後の土地売却、市は内訳を把握せず
確認書を交付した9件のうち、相続した家屋を残したまま売却したケースと、家屋を取り壊して土地として売却したケースがそれぞれ何件あったかについても、田原市の空き家担当部署は把握していない。
市は、建物を取り壊した場合には税務担当部署へ連絡するよう市民に周知している。しかし、その情報は空き家担当部署と共有されておらず、取り壊された建物が空き家だったかどうかも判別できないという。
所有者の変更を登記情報などから確認できる可能性はあるものの、売却された物件が相続空き家だったかどうかまで一体的に把握する仕組みにはなっていない。
田原市で申請は増えている? 年間0~4件、市は傾向を分析せず
田原市は、確認書の申請・交付件数が増えているのか、減っているのかについて分析していない。
交付実績は令和3年度の2件から令和5年度に4件となり、令和6年度は3件だった。令和7年度は取材時点で0件だが、年度途中の数字である。
各年度0~4件と母数が小さいため、この5年間だけで明確な増減傾向を判断するのは難しい。
担当者は、制度の申請について「数件あるかないか」で、決して多くはないとの認識を示した。一方、実際に売却される相続空き家は、確認書の交付件数より多い可能性があるとしている。
3,000万円控除で田原市の空き家は減った? 制度単独の効果検証なし
田原市は、この特別控除が相続空き家の売却を促し、市内の空き家解消にどの程度寄与したかについて、個別の分析や評価を行っていない。
市内全体の空き家件数の推移や、補助金を含むほかの空き家対策は把握しているものの、3,000万円特別控除だけを切り分けた効果検証は実施していないという。
確認書の交付後を追跡していない以上、9物件のうち何物件が市場に流通したのか、解体によって管理不全の空き家が解消されたのかを、市の保有データだけで確かめることはできない。
編集部まとめ
行政が把握する「入口」と、政策の成果は分けて見る必要
5年間で9件という実績は、田原市内で制度利用に向けた手続きが行われたことを示す。一方、確認書は控除を受けるために必要な書類の一つであり、その交付自体が売却成立や控除適用を証明するものではない。
行政が把握しているのは、確認書交付という「制度利用の入口」までだ。その後に空き家が市場へ流通したのか、建物が除却されたのかが見えない状態では、制度が地域の空き家問題に与えた効果を数値で検証するのは難しい。
もっとも、税務情報には取り扱い上の制約があり、市が個別の控除適用結果を単純に共有・追跡できるとは限らない。効果検証を進める場合も、個人情報や税務情報に配慮しながら、匿名化した集計や任意アンケートなど、実行可能な方法を検討する必要がある。
制度の実績を示す際には、少なくとも次の三つを区別すべきだ。
- 自治体による確認書の交付件数
- 相続空き家の実際の売却件数
- 税務署による特別控除の適用件数
今回明らかになった9件を「田原市で売れた相続空き家の数」や「3,000万円控除が認められた件数」と表現することはできない。
確認書交付実績を公表する際は、数字が何を示し、何を示さないのかを明確にすることが重要だ。
令和7年度が0件なら、相続空き家の売却も0件ですか?
そうとは限らない。0件だったのは、2026年9月18日の取材時点で市が確認書を交付した空き家の数であり、市内で売却された相続空き家全体の件数ではない。令和7年度も年度途中の数字だ。
確認書の交付件数から、控除を利用した人数は分かりますか?
分からない。田原市は空き家の物件単位で集計しており、同じ物件を複数人で相続した場合も1件としている。相続人や制度利用者の延べ人数とは一致しない可能性がある。
確認書を交付した9件は、すべて売却済みですか?
確認できない。田原市は確認書交付後の売買成立を追跡していないため、9件のうち何件が実際に売却されたかを把握していない。
9件のうち、家を解体して土地を売ったケースは何件ですか?
田原市の空き家担当部署は、家屋付きの売却と、解体後の土地売却の内訳を把握していない。
田原市は控除が実際に適用されたか確認していますか?
確認していない。市は、確定申告の有無や税務署による3,000万円特別控除の適用結果を追跡していないと回答している。
取材日:2026年9月18日
取材先:田原市・空き家担当部署
取材・文:週刊TAKAPI 編集部/黒木
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