生成AIが変えたのは「拡散」から「再生成」
従来の児童性的画像対策では、一度確認された違法画像のデジタル上の特徴を登録し、同じ画像や類似画像の再投稿を検知する手法が重要だった。
ところが生成AIでは、元となる画像から異なる画像を次々に生成できる。
問題は、単に「一度流出した画像が消えない」だけではない。
元の普通の写真から、新しい性的偽画像を繰り返し作れる。
ここが従来の拡散被害との決定的な違いになる。
NCMECによると、2025年には生成AIとの関係が確認されたCyberTipline通報が40万件を超え、このうち18万2000件超がAI生成の児童性的虐待コンテンツを所持、生成、または生成しようとする行為に関連していた。
英国のInternet Watch Foundation(IWF)も、2025年に現実的なAI生成児童性的虐待画像・動画8029点を確認した。AI生成動画は3443点に達し、2024年の13点から260倍以上に増えたとしている。
生成AIによって、対策は**「既知画像を消す」だけでは足りない段階**へ移っている。
日本では半年で123件 約7割が同級生や同じ学校
日本国内でも変化は数字に表れている。
警察庁によると、実在する18歳未満の写真などをAIや画像加工技術で性的な画像に変える「性的ディープフェイク」について、2026年上半期に全国の警察が把握した事案は123件だった。
前年同期の60件から倍増し、2025年1年間の114件も半年間で上回った。
被害者は中学生が79件で最多。高校生38件、小学生3件などで、中高生が大半を占めた。
さらに、加害者側が被害者の同級生や同じ学校の児童生徒だったケースは83件。全体の約7割に上る。
ここは、今回のX上の問題とは別の重要な側面だ。
児童の性的画像をめぐる問題は、
「匿名の大人がネット上で違法画像を拡散する」
だけではない。
学校生活で撮影された写真やSNSのプロフィール画像などが使われ、身近な同級生によって性的偽画像へ加工される被害も起きている。
Xの削除対応だけを強化しても、この被害すべてを防ぐことはできない。
「見る」「いいね」「保存」「拡散」は分けて考える
法律についても整理が必要だ。
日本の児童ポルノ禁止法では、自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持したり、電磁的記録として保管したりする行為は処罰対象となる。
警察庁は、自己の性的好奇心を満たす目的での所持・保管について、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科され得るとしている。
一方、ネット上で偶然画像を目にしたことや、「いいね」を押したという行為だけをもって、直ちに児童ポルノ所持罪が成立すると一般化することはできない。
ここは刑事法とSNS規約を分ける必要がある。
Xの規約では「いいね」やリポストも禁止されているが、それと日本の刑事責任が同じという意味ではない。
違法性が疑われる画像を発見した場合、注意喚起目的であっても自分の端末へ保存したり、画像付きで再投稿したりせず、プラットフォームの通報機能や警察など適切な窓口へ届けることが重要になる。
AIで「架空の子ども」を作った場合はどうなるのか
生成AIでは、法制度との境界も複雑になる。
2025年4月の国会答弁で法務省側は、AI生成画像でも、実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合には児童ポルノ禁止法上の児童ポルノに該当し得るとの一般論を示した。
一方、最高裁判例を踏まえた政府答弁では、同法上の「児童ポルノ」は実在する児童の描写を対象とし、実在しない児童の描写は含まないとの整理が示されている。
ただし、これは
「完全な架空画像なら何をしても合法」
という意味ではない。
画像の内容や流通方法によっては別の法令が問題になる可能性があり、SNSやAIサービス側も法律より広い範囲で禁止規定を設けている。
実在児童を使った生成画像と、完全に架空の画像は、法的評価を分けて記述する必要がある。
Xだけを規制しても被害構造は残る
今回報じられたX上の児童性的画像の拡散は、重大な問題だ。
削除されるまで閲覧できる状態が続けば、コピー、保存、再投稿によって被害が長期化する。
しかし、公開データから見える問題はさらに広い。
NCMECの日本関連データでは、XだけでなくInstagramやTikTokなど複数のサービスから大量の通報が行われている。世界全体ではThreadsからの通報も確認されている。
そして生成AIによって、被害は「既存画像の拡散」から「新しい性的偽画像を繰り返し作られる再生成」へ広がった。
さらに国内では、被害者と同じ学校の児童生徒が関係するケースが約7割を占める。
対策をX一社の削除体制だけに求めれば、
生成、投稿、再拡散、別サービスへの移動、学校内での加害
という一連の被害構造の一部しか捉えられない。
編集部まとめ
X上で18歳未満とみられる性的画像が拡散しているとの報道は、SNSの児童保護対策が抱える問題を改めて浮かび上がらせた。
ただ、検証すると問題はXだけではない。
NCMECの2025年データでは、日本関連の児童性的搾取に関する通報は約19万件に上り、X、Instagram、TikTokなど複数のサービスが通報元となっている。世界全体ではThreadsからの通報も確認されている。
さらに生成AIの普及によって、普通の写真から新しい性的偽画像を繰り返し作成できるようになった。日本では2026年上半期だけで性的ディープフェイク事案123件が把握され、約7割で同級生や同じ学校の人物が関係していた。
児童の性的画像対策は、特定SNSの削除問題だけでは解決しない。
SNS横断の検知と削除、生成AI側の安全設計、法制度、そして学校内で起きる性的ディープフェイクへの対応まで一体で考える必要がある。
週刊TAKAPI 編集部/成田
特記事項
この記事は2026年9月28日時点で確認できた国内外の公開情報、警察庁、NCMEC、IWF、Xの公開規約、国会答弁などをもとに構成しています。
本稿では児童の性的画像の内容、検索方法、入手方法、生成方法、投稿方法など、模倣や取得につながる情報は掲載していません。
NCMECの通報件数は、違法画像の投稿数、利用者数、被害児童数を示すものではありません。各サービスの検知・通報方法が異なるため、サービスの安全性を順位付けする数字としては使用できません。
本稿で扱う「性的ディープフェイク」は、実在する児童の写真などを利用した性的偽画像を中心としています。AIで生成された画像の法的評価は、実在児童との関係や具体的な内容によって異なります。
主な出典
- NCMEC(全米行方不明・被搾取児童センター):2025年CyberTipline統計、日本に分類された児童性的搾取関連通報、生成AI関連通報
- 警察庁:2026年上半期の18歳未満を対象とした性的ディープフェイク事案、児童ポルノ禁止法に関する注意喚起
- Internet Watch Foundation(IWF):2025年のAI生成児童性的虐待コンテンツに関する年次データ
- X公開ポリシー:成人向けコンテンツおよび児童性的搾取コンテンツに関する規約
- 衆議院会議録・政府答弁:生成AI画像と児童ポルノ禁止法上の「実在する児童」の扱い
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