佐賀県唐津市の私立「城内シオン保育園」で、女性園長が園児の頬をたたき、県から虐待と認定された。同園では2026年7月にも別の保育士による園児への虐待が認定され、県が再発防止を指導していた。改善に取り組む中で、今度は保育士を指導する立場の園長自身が園児に手を上げたことになる。
新たな行為があったのは9月30日昼ごろ。園長は10月2日に自ら県へ申告し、県は関係者への聞き取りを経て、9日に身体的虐待と認定した。園児にけがはなく、園長は本人と保護者に謝罪したという。
県は同日付で業務改善を求める行政指導を行うとともに、調査を特別指導監査へ切り替えた。職員や保護者らへの聞き取り、アンケートなどを通じて、個別の虐待行為にとどまらず、園の保育体制全体を調べる方針だ。
愛知県豊橋市でも今年4月、公益通報によって保育施設での不適切保育が確認され、市が児童福祉法に基づく改善勧告を出している。
二つの事案は行為の内容も行政の対応も異なるが、共通するのは、問題を把握した行政が改善を求めた後、その内容が現場で実行されているかをどう確認するかという課題だ。
保育士による虐待を認定 7月から再発防止を指導
城内シオン保育園で最初の虐待問題が明らかになったのは、2026年7月だった。
保育士が園児を押し倒すなどした疑いが浮上し、園児が頭にけがをしていたことから、保護者が園へ連絡した。園長が監視カメラの映像を確認し、園は7月4日に保護者説明会を開いた。
佐賀県と唐津市は立ち入り調査や職員への聞き取り、映像の確認を実施し、職員による行為のうち1件を虐待と認定した。県は園に対し、再発防止に向けた職員研修や改善状況の報告などを求めていた。
しかし、園の説明に納得できない保護者らからは、調査が十分だったのかという疑問が出ていた。
9月2日には保護者らの有志が記者会見を開き、県による直接の説明や再調査を求めた。関係者が元職員19人に行ったアンケートでは、18人が園内で不適切な保育が行われていたと思うと回答したと報じられている。
ただし、この回答は元職員の認識を集めたものであり、18件の虐待行為が行政によって確認されたという意味ではない。
県は9月11日付の回答で、既に把握した行為について確認と指導を行ったとして、改めて説明会や再調査を実施する予定はないとの考えを示した。
その19日後、園長による新たな虐待が発生した。
9月30日に園長が園児の頬をたたく 本人が県へ申告
県によると、9月30日昼ごろ、女性園長が園児1人の頬をたたいた。園長は10月2日、自ら県に行為を申告した。
通報を受けた県は、園長本人や職員への聞き取りを進め、10月9日に虐待と認定。園児にけがはなかったとされる。
園長がなぜ園児をたたいたのか、どのような状況で行為に及んだのかについて、県は詳細を明らかにしていない。
この事案で重く受け止められているのは、行為に及んだのが園全体の保育を監督し、再発防止を主導する園長だったという点だ。
園長は保育士の指導や安全管理に関わる立場にある。職員による虐待が発覚した際には、再発を防ぐための改善を進める役割も担う。その園長自身が新たな虐待を起こしたことで、園内の管理体制が十分に機能していたのかという問題が生じた。
自ら県へ申告したことは事実として重要だが、申告したことによって虐待行為そのものが正当化されるわけではない。
県は今回の行為を身体的虐待と認定し、園全体の保育体制を調べる必要があると判断した。
県は特別指導監査へ 9月の「再調査予定なし」から方針変更
佐賀県は10月9日、城内シオン保育園への調査を特別指導監査へ切り替えた。
それまで県は、7月に確認した虐待について再発防止を指導し、保護者側から求められた再調査には応じない方針を示していた。しかし、新たに園長の虐待が認定されたことで、園の保育体制をより広く調査することになった。
県は職員を増員し、園内の職員への聞き取りや保護者らへのアンケートを進め、10月中をめどに調査結果を取りまとめる方針を示している。
ここで検証すべきなのは、7月の行政指導がどのような内容だったかという点だ。
県は職員研修や改善状況の報告を求めていたが、それが実際にどの程度行われ、園長や職員の保育方法にどのような変化があったのか。再発防止策の実施状況と、今回の虐待に至る経緯を分けて確認する必要がある。
また、9月11日の県の判断についても、当時どのような情報を把握し、再調査は不要と判断したのかを検証する余地がある。
ただし、再調査を実施しなかったことが園長の虐待を引き起こしたと断定することはできない。今回の問題で重要なのは、県の当時の判断根拠と、その後の新たな事実を照らし合わせることだ。
豊橋でも不適切保育 保育士が「うるさい」と怒鳴る
愛知県豊橋市では2026年4月30日、市内の保育施設1園に対し、児童福祉法第46条第3項に基づく改善勧告が出された。
発端は公益通報だった。市が調査した結果、施設内で不適切な保育が行われていたことが確認されたという。
報道によると、女性保育士が泣いている園児に「うるさい」と怒鳴ったほか、別の保育士が園児の身体的な特徴を揶揄するような呼び方をしていたことなどが確認された。
市は施設の設置者に対し、不適切保育が生じた原因を検証し、保育内容や管理体制を改善するよう勧告した。
豊橋市が保育施設に対して改善勧告を出したのは初めてと報じられている。市は公益通報者の保護などを理由に、施設名や詳しい情報を公表していない。
今回の豊橋市の事案は、佐賀県のように同一施設で再び虐待が認定されたものではない。公表されているのは、公益通報に基づく調査で不適切保育を確認し、法令に基づく改善勧告を行ったという事実だ。
そのため、佐賀県と同様の虐待が起きたかのように扱うことはできない。
改善報告書の確認と継続監督 豊橋市が示した対応
豊橋市は改善勧告の公表にあたり、施設から提出される改善報告書の内容確認と、改善策が確実に実施されているかの確認を行う方針を示した。
さらに、当該施設に対する継続的な指導・監督に加え、市内の全保育施設へ適切な保育の徹底を求める文書を出し、保育士らを対象とする研修も実施する方針を公表している。
この対応は、不適切保育が確認された施設だけでなく、市内の保育全体で同様の問題を防ごうとするものだ。
ただし、5月に公表された方針と、その後の実施結果は区別する必要がある。改善報告書が提出されたか、内容が十分だったか、現場で改善が定着したかについて、今回確認できた公式資料からは最終的な状況まで判断できない。
また、豊橋市では公益通報をきっかけに問題が発覚している。保育施設の内部で不適切な対応に気付いた職員が、安全に情報を伝えられる仕組みを維持することも、早期発見の観点から重要になる。
佐賀と豊橋を比較 行政指導と改善勧告の違い
両自治体では行政対応の前提が異なる。
佐賀県の城内シオン保育園では、7月に保育士による虐待を認定し、行政指導を行っていた。その後、園長による新たな虐待を認定したため、特別指導監査へ調査を拡大した。
一方、豊橋市では公益通報によって不適切保育を確認し、児童福祉法に基づく改善勧告を出した。
行政指導と法令に基づく改善勧告では、手続きや法的位置付けが異なる。また、佐賀県では虐待認定後の新たな虐待が確認されているのに対し、豊橋市について同様の再発を示す情報は確認されていない。
単純にどちらの行政対応が厳しいかを比較することは適切ではない。
それでも、改善を求めた後に何を確認するかという点では共通する課題がある。
職員研修の実施、管理体制の見直し、保護者への説明、改善報告書の提出などは、いずれも再発防止につながる可能性のある取り組みだ。しかし、それらが実施されたことだけで、保育現場の安全が確保されたとは限らない。
改善を求める行政と、改善を実行する施設が、それぞれの役割をどこまで果たしているかを確認する必要がある。
園長自身が虐待したとき、誰が再発防止を担うのか
城内シオン保育園の事案では、園長が新たな虐待を起こしたことによって、施設の内部管理という問題も浮かび上がった。
一般に、保育園長は保育士への指導や日常の保育状況の把握に関わる。職員による不適切な行為を発見した場合には、その是正と再発防止に取り組む責任がある。
しかし、その園長自身が不適切な行為に及んだ場合、内部の職員が問題を指摘し、必要な対応を求められる仕組みがなければ、問題の発見が難しくなるおそれがある。
今回の佐賀県の事案では、園長自ら県に申告したことが確認されている。ただし、それとは別に、職員や保護者が園長の行為を相談・通報できる環境が整っていたかという点も検証が必要だ。
また、園長個人の行為だけでなく、法人による監督、職員間の情報共有、保護者から寄せられる訴えの扱いなども、園全体の安全管理に関わってくる。
虐待の再発を防ぐには、特定の職員だけに改善を任せるのではなく、施設内外から問題を把握できる仕組みを持つことが求められる。
10月の監査結果が焦点 改善の実効性は確認できるか
佐賀県は特別指導監査の結果を10月中に取りまとめる方針を示している。10月24日時点で、今回確認した公表情報からは最終結果を確認できていない。
今後は、新たな調査で何が明らかになったかに加え、7月の行政指導後に実施された改善策と、その履行状況が重要になる。
特に、保護者らが以前から求めていた調査や説明について、県がどのような判断を行い、今回の監査でどこまで確認するのかが注目される。
豊橋市についても、改善勧告後に実施した確認の内容や、施設側の改善状況が今後の検証対象となる。
保育施設は、子どもが日常生活の長い時間を過ごす場所だ。施設に対する行政指導や改善勧告は、問題を指摘して終わりではなく、子どもが安心して過ごせる環境を回復するための手段でなければならない。
佐賀県では指導後に新たな虐待が確認された。豊橋市では改善勧告後の対応が公表されているものの、その最終的な履行状況については確認が必要だ。
二つの事案は、行政が改善を求めた後、現場で何が変わったのかを継続的に確かめる重要性を示している。
編集部まとめ
佐賀県唐津市の城内シオン保育園では、7月に別の保育士による虐待が認定され、県が再発防止を指導していたにもかかわらず、9月30日に女性園長が園児の頬をたたいた。県は10月9日に虐待と認定し、特別指導監査へ切り替えた。
豊橋市でも4月30日、市内の保育施設に対し、不適切保育を理由とする改善勧告が出されている。ただし、豊橋市で同様の虐待が再発したという事実は確認されていない。
両事案の内容や行政手続きには違いがあるものの、改善を求めた後、その対策が現場で機能しているかを確認することが共通の課題となる。
特記事項
本記事は、佐賀県の虐待認定と特別指導監査に関する確認済みの報道、豊橋市が2026年5月1日に公表した改善勧告の公式資料などに基づき構成した。両自治体への新たな独自取材は実施しておらず、調査結果や履行状況について未確認の事項は断定していない。
週刊TAKAPI 編集部/成田
WEEKLY TAKAPI — OFFICIAL CONTACT
TAKAPI LEAKS
その情報が、社会を動かす。
情報提供・取材相談・記事の訂正や削除依頼を
全国から受け付けています。
◆ ご連絡内容は慎重に取り扱います
情報提供・各種お問い合わせ ↗記事の訂正・削除依頼もこちらから

コメント
0件まだコメントはありません。最初のコメントを投稿してみませんか。