新潟県教育委員会が10月23日に公表した部活動の実態調査で、生徒の28.6%が、競技力を高めるためなら不適切だと感じる指導も我慢すべきだと考えていることが分かった。
調査では、生徒259人が不適切な指導を受けた経験があると回答し、そのうち約4割は誰にも相談していなかった。県教委は、指導者との関係や学校への不信感などによって問題が表面化しにくい状況を踏まえ、部活動の管理体制と相談制度を見直す方針を示した。
今回の調査は、2024年6月に県立高校の男子生徒が自死し、第三者委員会が部活動での教員の指導を主な契機と判断した事案を受けて実施された。
生徒1万7251人が回答 259人が不適切な指導を経験
調査は5月20日から6月10日にかけて、県立高校と県立中等教育学校後期課程の部活動経験者、その保護者を対象に行われた。
無記名のオンライン方式で、生徒1万7251人、保護者1万3554人が回答。回答率はそれぞれ73.4%、57.7%だった。
生徒のうち、不適切な指導を受けたことがあると答えたのは259人で、回答者全体の1.5%。これとは別に、391人が不適切な指導を見たり聞いたりした経験があると回答した。
実際に指導を受けたと答えた259人に内容を尋ねたところ、最も多かったのは執拗な叱責で45.6%。次いで暴言が41.7%、無視や排除が28.6%だった。
また、65.6%が部活動に行きたくなくなったと回答し、42.1%は心が不安定になった、30.9%は強い不安や恐怖を感じたと答えている。
これらは生徒自身の認識に基づく回答であり、259件すべてについて県教委が個別に事実を認定したものではない。ただ、指導者の言葉や態度が、生徒の心理状態に深く関わっていることを示す結果となった。
約4割が誰にも相談せず 学校の教員より家族や友人に
調査で特に注目されるのは、問題を経験したと答えた生徒の相談状況だ。
259人のうち、誰かに相談したのは156人で60.2%。残る103人、約4割は相談していなかった。
相談した156人に相手を複数回答で尋ねたところ、家族が77.6%、友人が76.9%だったのに対し、学校の先生は30.8%にとどまった。
相談しなかった理由には、相談する必要を感じなかったという回答のほか、相談しても改善につながらないと思った、相談しづらかったといった声があった。
部活動では、顧問が日々の練習や大会への出場に大きな影響力を持つ。指導に疑問を感じた生徒が学校に相談しにくければ、管理職が問題を把握する機会も失われる。
県教委も今回の調査から、学校への相談を選びにくい背景には、改善への期待の低さや相談のしづらさがあると分析している。
「勝つためなら我慢」28.6% 保護者も10.5%
不適切な指導に対する受け止め方にも、課題が浮かび上がった。
試合に勝ったり記録を伸ばしたりするためには、不適切と感じる指導を「我慢すべき」「どちらかといえば我慢すべき」と回答した生徒は、合わせて28.6%だった。
保護者でも10.5%が同様の回答をしている。
この結果は、生徒の全員が不適切な指導を肯定していることを意味しない。しかし、競技成績の向上を理由に、本来認められない指導を受け入れてしまう考え方が一定程度存在することを示している。
県教委は10月23日、「不適切な指導根絶宣言」と再発防止策を公表した。
指導者が一方的に答えを与える指導から、生徒自身が考え、選択し、成長する指導への転換を掲げている。
柔道部員の自死を受け調査 学校の管理責任も指摘
今回の調査につながったのは、2024年6月に県立高校の柔道部に所属していた男子生徒が自死した事案だった。
県の第三者委員会は2026年4月、部活動での教員の指導を主な契機とする死亡事案、いわゆる「指導死」と判断した。
報告書では、指導者による不適切な言動だけでなく、学校側が部活動の実態を十分に把握し、問題を是正する体制を整えていなかったことも課題とされた。
県教委はこの提言を受け、指導者個人の意識改革に加え、学校の管理体制と相談制度を見直す必要があると判断した。
副顧問も生徒と面談 県教委は問題のある学校を訪問
再発防止策では、校長などの管理職が部活動の状況を定期的に確認し、副顧問も生徒との面談などを通じて実際の指導に関わる体制を整える。
不適切な指導に気づいた教職員が、校長らにためらわず報告できる仕組みも設ける。県教委は、問題が疑われる事案について速やかに学校を訪問し、深刻化の防止と改善を図る方針だ。
さらに、指導者向けの研修や自己点検を実施し、生徒に対しては相談窓口を繰り返し周知する。
スクールカウンセラーを含むすべての教職員が相談を受ける立場であることを明確にし、相談内容を管理職へ報告する組織的な対応も進める。
生徒の所在が確認できない場合には、学校がマニュアルに基づいて迅速に安全確認を行う体制も整えるとしている。
再発防止の鍵は「相談後に何が変わるか」
県教委が示した対策は、指導者への研修、複数顧問制の実質化、学校の監督強化、相談体制の整備という複数の柱からなる。
ただ、今回の調査で103人が誰にも相談していなかったことを考えれば、相談窓口を設けるだけでは十分とはいえない。
生徒が問題を訴えたとき、学校はどう対応するのか。指導者への事実確認や改善要求が行われた後、その指導が実際に改められたことを誰が確かめるのか。
部活動を顧問だけに任せず、管理職や複数の教員が日常的に状況を把握できるかどうかも重要になる。
再発防止策は公表されたばかりであり、現場でどこまで機能するかは今後の検証が必要だ。
競技成績の向上と、生徒の尊厳や安全を守ることは対立するものではない。今回の調査は、学校がその原則を日々の部活動で実現できているかを問い直す結果となった。
編集部まとめ
新潟県教委の調査で、生徒の28.6%が競技力向上のためなら不適切な指導も我慢すべきだと考え、実際に指導を受けたと回答した259人の約4割が誰にも相談していなかった。
県教委は複数顧問制の実質化や管理職への報告体制の整備を進める。今後は対策の実施状況だけでなく、生徒からの相談が問題の解決につながっているかを継続的に確認する必要がある。
特記事項
本記事は、新潟県教育委員会が2026年10月23日に公表した「部活動指導に関する実態調査」の結果、「第5号案件調査報告書」の概要および再発防止の取組に関する公式資料に基づき構成した。
週刊TAKAPI 編集部/黒木
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