東京と伊豆諸島を結ぶ定期旅客船を運航する東海汽船で、船員による酒気帯び乗務、アルコール検査の肩代わり、舷門を閉鎖しない状態での運航など複数の不適切事案が確認され、国土交通省関東運輸局が事業停止などの行政処分を検討している。
関東運輸局は2026年8月21日、東海汽船側から意見や弁明を聴く「聴聞」を実施した。対象には一般旅客定期航路事業の停止だけでなく、安全統括管理者の解任も含まれている。
会社側は一連の事案を受け、独立した外部専門家による特別調査委員会を設置。さらに、再発防止策などを盛り込んだ「改善計画」を関東運輸局へ提出する方針で、行政処分の内容とともに今後の最大の焦点となる。
元日に10人以上が船内で飲酒か その後勤務した乗組員も
関係者への取材に基づく報道では、2026年1月1日、運航中の大型客船内で少なくとも10人以上の乗組員が集まり、ビールなどを飲んでいたとされる。
参加者には操船に関係する乗組員も含まれ、一部は飲酒後に運航業務に就いたとされている。
また、複数の乗組員から、元日の船内で以前から新年会が行われていたとの説明が出ており、関東運輸局は飲酒が一度限りだったのかを含め、安全管理の実態を確認している。
一方、「10人以上」「恒例化」といった具体的な人数や頻度については、会社が7月31日に公表した文書では明示されていない。
会社が公式に認めている行政手続きの対象は、船員による酒気帯び乗務、アルコール検査の肩代わり、舷門未閉鎖状態での運航などだ。
アルコール検査の「肩代わり」も 問題は飲酒だけではない
今回の問題で重く見られるのは、単純な船内飲酒にとどまらない点だ。
会社側が公表している不適切事案には、
- 船員による酒気帯び乗務
- アルコール検査の肩代わり
- 舷門を閉鎖しない状態での運航
が含まれる。
特にアルコール検査の肩代わりは、安全確認の仕組みそのものが形骸化していなかったかという問題につながる。
飲酒した本人だけの問題であれば個人の服務違反として整理できるが、別人による検査が可能だった場合、本人確認、管理者によるチェック、異常を把握した際の報告ルートなど、組織的な安全管理体制の検証が必要になる。
関東運輸局が21日に聴聞 「事業停止」はまだ決定していない
関東運輸局は21日、東海汽船に対する行政処分案について聴聞を行った。
聴聞は、行政庁が不利益処分を正式に決定する前に、対象となる事業者から意見や弁明を聴く手続きだ。
このため、現時点では「東海汽船の事業停止が決まった」とする段階ではない。
会社側は聴聞後、一連の問題について利用者や島民らに謝罪。外部専門家による特別調査委員会の提言を受けたうえで、再発防止策を取りまとめる考えを示している。
改善計画を提出へ 「事業停止回避」の可能性も制度上存在
今回、新たに重要となっているのが「改善計画」だ。
会社側は、特別調査委員会による検証結果などを踏まえ、改善計画を関東運輸局へ提出する方向で調整しているとされる。9月下旬までをめどに計画をまとめる方針も報じられている。
この改善計画は単なる社内向けの再発防止文書ではない。
国土交通省が定める「旅客運送船舶運航事業者に対する行政処分等の基準」には、事業停止によって地域住民の生活交通や移動手段など公共の利益に著しい障害が生じるおそれがある場合について、特例的な規定が設けられている。
事業者が、
「違反または事故の再発防止」
「安全確保」
「生活交通の確保」
について具体的な改善計画を文書で提出し、その計画に従った措置によって安全と利用者の利便が確保できると行政側が判断した場合、事業停止ではなく、警告や輸送の安全確保命令、船舶などの使用停止命令を選択できる。
つまり、改善計画の内容次第では、全面的な事業停止とは異なる処分となる余地が制度上ある。
ただし、改善計画を提出すれば自動的に事業停止を免れるわけではない。計画の具体性や実効性、安全を確保できるかどうかを行政側が審査する。
特別調査委員会に外部専門家3人
東海汽船は8月7日、一連の不適切事案を調査する特別調査委員会を設置した。
委員長は早稲田大学理工学術院の小松原明哲教授。委員には元東京高裁判事の弁護士を含む外部専門家2人が入り、計3人で構成されている。
会社は、事実関係と原因を徹底的に調査し、再発防止策について検証するとしている。
焦点となるのは、誰が飲酒したかという個別の事実だけではない。
飲酒を防止する社内規則は機能していたのか、アルコール検査の本人確認に穴がなかったのか、管理職は実態を把握していたのか、不適切な慣行を内部で止める仕組みがあったのか。
改善計画の実効性を判断するうえでも、特別調査委員会が組織的な原因にどこまで踏み込むかが重要になる。
2025年にも安全管理を巡る行政処分
さらに今回、会社の安全管理体制が厳しく問われる背景には、過去の行政処分がある。
東海汽船は2025年4月にも、船員の労働時間や必要な教育訓練、操練の実施などを巡る問題で、船員法に基づく是正命令と海上運送法に基づく輸送の安全確保に関する命令を受けている。
今回の行政判断では、過去に改善を求められた後、なぜ再び複数の安全上の問題が確認されたのかも重要な論点となる。
単発の違反ではなく、安全管理を継続的に機能させる組織体制が構築されていたのかが問われることになる。
伊豆諸島の「生活交通」 東京都も影響抑制へ
処分判断を複雑にしているのが、東海汽船が担う公共交通としての役割だ。
東京・竹芝と大島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島などを結ぶ航路は、観光客だけでなく島民の日常的な移動や物流を支えている。
東京都も東海汽船について「島民生活に不可欠な航路を担っている」との認識を示し、国の行政処分手続きを注視するとともに、島民生活への影響を可能な限り抑える考えを示している。
安全上の重大な違反に対して行政がどこまで厳しい処分を科すのか。
一方で、その処分によって島の生活交通そのものが止まる事態をどう避けるのか。
今回提出される改善計画は、この二つを両立できる内容になっているかが問われる。
今後の焦点は3つ
今後、確認すべきポイントは明確になっている。
第一は、関東運輸局が最終的にどの行政処分を選択するか。
第二は、特別調査委員会が飲酒や検査の肩代わりを個人の問題としてではなく、組織的な安全管理の問題としてどこまで検証するか。
第三は、会社が提出する改善計画が、再発防止と安全確保だけでなく、伊豆諸島の生活交通を維持できる具体的な内容になっているかだ。
22日午後5時前までに確認できた公表情報では、事業停止の期間や対象航路を含む最終処分は決定していない。
編集部まとめ
今回の問題は、船内飲酒だけではなく、酒気帯び乗務、アルコール検査の肩代わり、舷門未閉鎖運航など、複数の安全管理上の問題が重なっている点が重大だ。
21日の聴聞を経て、焦点は「処分されるか」から「どの処分になるのか」に移っている。
特に重要なのが改善計画だ。国の行政処分基準では、離島などの生活交通に著しい影響が出る場合、実効性のある改善計画を条件に、事業停止以外の処分を選択できる仕組みがある。
今後は改善計画の内容と、関東運輸局の最終判断が最大の焦点となる。
週刊TAKAPI編集部:松本
特記事項
この記事は2026年8月22日午後5時前までに確認した会社公表、国土交通省・関東運輸局の行政処分基準、東京都の公表内容、聴聞後に明らかになった情報を基に構成した。
会社が公式に公表しているのは、酒気帯び乗務、アルコール検査の肩代わり、舷門未閉鎖状態での運航などについて行政手続きが進められていること。
「少なくとも10人以上の飲酒」「元日の新年会が以前から行われていた」といった具体的内容は関係者への取材に基づく情報で、会社の7月31日公表文には人数や頻度の記載はない。
また、改善計画の提出によって事業停止を回避できる可能性は行政処分基準上存在するが、実際に処分が軽減されるかどうかは関東運輸局の判断であり、現時点では確定していない。
東海汽船の飲酒・安全管理問題で現在までに分かっていること
東海汽船では、船員による酒気帯び乗務、アルコール検査の肩代わり、舷門未閉鎖状態での運航などが問題となっている。
関東運輸局は8月21日、事業停止や安全統括管理者の解任などを巡り聴聞を実施した。
会社は外部専門家3人による特別調査委員会を設置し、原因究明と再発防止策を検討。改善計画を関東運輸局へ提出する方針で、最終的な行政処分はまだ決まっていない。
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