【独自・岩手】県教委「注意喚起だけでは十分でなかった」教職員不祥事を検証 対策を具体化、効果検証はこれから

岩手県教育委員会が教職員不祥事対策について週刊TAKAPIの独自取材に回答した記事のアイキャッチ

岩手県で教職員の懲戒処分が相次いでいる問題をめぐり、岩手県教育委員会が週刊TAKAPIの取材に対し、これまでの不祥事防止策について、服務規律の周知や注意喚起にとどまっていた部分が多く、「十分ではなかった」とする認識を明らかにした。

県教委によると、2026年8月時点の懲戒処分件数・人数は前年同期より6件増えている一方、前々年同期と比べると5件少ない。ただ、件数の多寡だけで深刻さを判断するものではなく、懲戒処分に至る事案が発生すること自体を「教育に対する信頼を損なう重大な問題」と認識している。

週刊TAKAPIは8月25日、県立学校の40代男性教職員が女性2人へのわいせつ・セクハラ行為で懲戒免職となり、勤務先の校長も戒告処分を受けた事案を報じた。この処分を含め、2026年度の学校職員の懲戒処分は9人に達した。

その2日後の8月27日、編集部は県教委に対し、不祥事の原因分析、7月にまとめた再発防止策の実効性、性的な非違行為への対策、12月に施行されるこども性暴力防止法への対応など9項目を文書で質問した。

今回の記事では、その回答と県教委の公開資料を突き合わせ、何を問題と認識し、何を変えたのか。そして、なお何が確認できていないのかを検証する。

「個人の意識」だけではない ストレスや孤立も要因と分析

県教委は、不祥事が発生する背景を職員個人の規範意識だけの問題とは捉えていない。

週刊TAKAPIへの回答では、個人の意識に加え、学校など職場でのストレスや孤立といった要因が相互に影響し、不祥事につながっていると分析しているとした。

さらに、これまでの対策について、服務規律の周知や注意喚起にとどまっていた点が十分ではなく、教職員一人ひとりに不祥事を「自分事」として捉えさせることができていなかったとの認識も示した。

県教委が7月にまとめた不祥事防止対策でも、教職員の意識改革だけでなく、組織的・構造的な観点から対策を進める方針が示されている。

8月下旬に新研修を配布 10月31日までに全職員

具体的に動き始めた対策の一つが、犯罪社会学などの理論を取り入れた研修だ。

県教委は、不祥事がなぜ発生するのかを過去事例から分析する研修動画を作成し、8月下旬に県内の各学校などへ配布した。10月31日までに全職員が動画を視聴し、その内容について意見交換するグループワークまで実施するよう指示している。

県公式ホームページでも8月28日に不祥事防止対策に関する情報が更新され、研修動画を学校現場を含む組織全体で使用していることが公表された。第1弾の動画には、岩手県立大学社会福祉学部の秋本光陽准教授が出演・監修している。

一般公開されている動画では、関係者のプライバシーに配慮し、過去事案を分析する部分が削除されている。

従来の「ルールを守るように」という注意喚起だけではなく、不祥事に至る心理や環境、実際の事例を考える内容へ踏み込んだ点が今回の変更となる。

わいせつ事案も分析 SNS、密室、個人端末に具体的ルール

性的な非違行為についても、県教委は具体的な場面を想定した対応を示した。

新たな研修では、わいせつ関係の過去事案も取り上げ、教職員が実際に児童生徒と接する場面を想定した研修を行うとしている。

現場には、児童生徒とSNSを使った私的なやりとりをしないこと、密室で1対1の指導を行わないこと、原則として個人所有の機器や端末で児童生徒を撮影しないことを周知している。

飲酒運転対策では、職員面談で飲酒習慣を確認し、飲酒運転につながるリスクを把握した場合には必要に応じて指導するようにしている。

一方、どの程度の飲酒習慣を「リスク」と判断するのか、SNSや密室指導などのルールが現場で守られているかを誰がどのように確認するのかなど、具体的な運用基準までは今回示されていない。

9人の「発生・把握・処分」を一つの時系列では示さず

今年度の懲戒処分が9人に達したことを検証する上で、処分人数だけでは見えない問題がある。

懲戒処分が2026年度に行われたからといって、問題行為そのものが今年度に発生したとは限らない。

8月24日に公表された県立学校男性教職員の懲戒免職事案でも、問題となった行為は2025年に発生し、2026年4月下旬の情報提供をきっかけに発覚している。

そこで週刊TAKAPIは県教委に対し、今年度処分された9人について、「問題行為が発生した時期」「学校または県教委が把握した時期」「懲戒処分を決定した時期」を、個人が特定されない形で示すよう求めた。

県教委は、教育委員会議で決定した各懲戒処分の公表資料を県公式ホームページで確認するよう回答し、9人を横断して比較できる時系列一覧は示さなかった。

このため、今年度の「9人」という数字が、新たな不祥事そのものの増加をどこまで意味するのか、それとも過年度に起きた事案の発覚・処分が今年度に集中しているのかは、現時点では単純に判定できない。

現時点で「検証できていないこと」

県教委から具体策は示された。一方、対策の実効性を検証するために編集部が求めた情報には、なお空白が残っている。

  • 9人について「発生→把握→処分」を横断比較できる時系列
  • 懲戒処分、飲酒運転、性的非違行為、相談件数など、効果を測定する具体的なKPI
  • 対策をいつ評価するのかという検証期限
  • 誰が効果を判定し、追加対策を決めるのかという評価主体
  • 新たなルールや面談が現場で機能しているかを確認する方法

県教委は「不祥事の根絶を目指して取組を進める」「取組内容は不断に見直す」としているが、対策を実施したことと、効果が確認されたことは別だ。

次の明確な確認点は10月31日となる。全職員の動画視聴とグループワークの期限を迎えた段階で、実施率だけでなく、研修後に何を検証し、どのように次の対策へ反映するのかが問われる。

3月には教育長が給与10%を3カ月自主返納

教育長や教育委員が現在の状況をどう評価しているのかについても質問した。

県教委側は、教育委員に対する個別の質問には対応していないとして回答せず、教育長についても服務管理担当への質問と内容が重なるほか、県議会や定例記者会見などで説明しているとして、今回の個別回答を控えた。

ただ、教育長自身が不祥事問題について発言していないわけではない。

3月27日の定例記者会見では、盗撮や不同意わいせつなどの逮捕事案が相次いだ状況を受け、教育への信頼を損なう事態だとして謝罪。結果責任を明確にするとして、2026年4月から6月までの3カ月間、給料月額の10分の1を自主返納することを表明している。

同会見では、相次ぐ法令違反について「由々しき事態」との認識も示していた。

その後も処分は続き、8月には今年度の懲戒処分が9人に達した。今回、教育長から新たな個別回答が得られなかったことで、3月に示した危機認識と、その後の対策を現在どう評価しているのかを直接確認することはできなかった。

こども性暴力防止法 犯罪歴確認だけでなく早期把握へ

2026年12月25日に施行されるこども性暴力防止法について、県教委は現職教職員や採用予定者の犯罪歴確認など、法律に基づいて対応すると回答した。

同時に、児童生徒からの相談窓口を周知し、非違行為の早期把握につなげるとしている。

被害相談があった場合には速やかに事実確認を行い、非違行為を確認した場合は、被害者と加害者が接触しないよう加害者側の勤務内容を変更するなどの対応を取る方針も示した。

一方、法施行に合わせて新設する岩手県独自の早期発見制度や追加対策については、今回の回答では具体策までは示されなかった。

編集部まとめ

今回の独自取材で確認できたのは、岩手県教育委員会が従来の「服務規律の周知・注意喚起」だけでは十分でなかったと認め、犯罪社会学による事例分析、職員面談、児童生徒との接触ルールなど、対策を具体化し始めたことだ。

一方、今年度処分された9人の「発生・把握・処分」の全体像や、新たな対策が実際に効いたかを測る指標と期限はまだ見えない。

3月には教育長が給与の一部を自主返納し、7月には不祥事防止策を取りまとめ、8月下旬には新たな研修を始めた。それでも重要なのは、対策を重ねた数ではなく、学校現場が実際に変わったかどうかだ。

保護者が知りたいのは、研修動画が何本作られたかではない。子どもが学校で異変を感じたとき、誰がそれに気付き、誰が止め、被害が広がる前に学校が動けるのか。そして県教委が、その仕組みが機能したかを数字と事実で示せるのか。10月31日は、その最初の検証点になる。

週刊TAKAPI編集部/成田

特記事項

この記事は、週刊TAKAPIが2026年8月27日に岩手県教育委員会事務局・服務管理担当へ送付した9項目の取材質問と、県教育委員会から得た文書回答を基礎に構成した独自記事です。

8月24日に公表された県立学校男性教職員の懲戒免職については、週刊TAKAPIが8月25日に報道しています。

犯罪社会学等を用いた研修動画については、岩手県が8月28日に更新した公式情報で、岩手県立大学社会福祉学部・秋本光陽准教授が出演・監修していることを確認しています。

教育長による2026年4月から6月までの給与月額10分の1の自主返納、不祥事への危機認識、新年度の職員面談については、3月27日の教育長定例記者会見の公表内容を確認しています。

Q岩手県教育委員会は、これまでの不祥事防止策が十分ではなかったと認めたのですか?
Aはい。週刊TAKAPIへの文書回答で、服務規律の周知や注意喚起にとどまっていた部分について、十分ではなかったとの認識を示しました。
Q新しい不祥事防止研修では何を行うのですか?
A犯罪社会学などの理論と過去事案分析を扱う研修動画を使用します。県教委は8月下旬に各学校などへ配布し、10月31日までに全職員が視聴してグループワークを行うよう指示しています。
Q性的な非違行為への具体的な対策はありますか?
A児童生徒とのSNSによる私的なやりとりをしない、密室で1対1の指導を行わない、個人所有端末で児童生徒を原則撮影しないといったルールを周知しています。
Q今年度9人の処分は、すべて今年度に起きた不祥事なのですか?
Aそうとは限りません。8月24日に公表された懲戒免職事案でも、問題となった行為は2025年に発生しています。県教委に9人分の発生・把握・処分時期を横断した一覧を求めましたが、一覧は示されませんでした。
Q今後、最初の検証点はいつですか?
A新たな研修は10月31日までに全職員が視聴し、グループワークを行うことになっています。終了後、実施状況だけでなく、県教委が効果をどのような指標で検証するのかが次の確認点となります。

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