中国産冷凍ブロッコリーから殺菌剤「プロシミドン」相次ぎ検出 “発がん性食品”報道をどう見るべきか

中国から日本へ輸入された冷凍ブロッコリーなどから、殺菌剤「プロシミドン」が相次いで検出されていたとして、食品の安全性に関心が集まっている。

一部では「発がん性食品」と強い表現で報じられているが、プロシミドンが検出された食品を食べれば、直ちにがんになるという意味ではない。重要なのは、動物実験でどのような影響が確認されたのか、日本の残留基準をどの程度超えていたのか、違反品が市場に流通したのかを分けて考えることだ。

さらに、「日本では使用禁止、中国では使用可能」という単純な構図でもない。日本でもプロシミドンを有効成分とする農薬は登録されているが、使用できる作物や方法、残留基準が細かく決められている。


中国産ブロッコリーから検出された「プロシミドン」とは

プロシミドンは、灰色かび病や菌核病などを防ぐために使われるジカルボキシイミド系の殺菌剤だ。植物病原菌の菌糸の伸長を阻害する作用があるとされ、農作物の病害防除に用いられる。

中国ではブロッコリー栽培に使用できるケースがある一方、日本では農薬取締法に基づき、農薬ごとに使用できる作物、使用量、使用時期などが定められている。

そのため、中国国内では適法に使用された農薬であっても、残留した食品を日本へ輸出する際には、日本の食品衛生法に基づく残留基準を満たさなければならない。

生産国で使用できることと、日本で販売できることは別問題である。


厚生労働省は2019年に中国産ブロッコリーを検査命令の対象に

厚生労働省は2019年4月、輸入時のモニタリング検査で中国産ブロッコリーからプロシミドンが検出されたことを受け、中国産ブロッコリーとその簡易加工品を検査命令の対象に追加した。

当時の通知では、ブロッコリーの基準値は0.01ppm。これを超えるプロシミドンが検出される恐れがあるとして、輸入者に検査を命じる措置が取られた。

検査命令の対象となった食品は、輸入者が検査を行い、食品衛生法に適合していることを確認しなければ輸入手続きを進められない。基準を超えた食品は、原則として廃棄、積み戻しなどの措置が取られる。

つまり、検疫段階で違反が確認された事例と、違反品が一般のスーパーなどで販売された事例を同じものとして扱うことはできない。


報道ではプロシミドンの検出事例が計54件

一部報道は、厚生労働省が公表した輸入食品の違反事例を独自に集計し、プロシミドンについて計54件の検出事例があったと伝えている。

ただし、この数字を見る際には注意が必要だ。

「54件」は、必ずしも市販された商品数や健康被害の件数を表しているわけではない。輸入時の検査で発見され、国内流通前に止められた貨物が含まれる可能性があるほか、ブロッコリー以外の食品が集計対象となっている可能性もある。

正確に評価するには、少なくとも次の情報が必要になる。

  • 集計期間
  • 対象となった食品と原産国
  • 冷凍品、生鮮品などの区分
  • 検出された濃度
  • 日本の基準値に対する超過倍率
  • 貨物が国内流通前だったか、流通後だったか
  • 廃棄、積み戻し、回収などの措置

件数だけを取り上げて「危険な食品が54件流通した」と受け止めるのは正確ではない。


プロシミドンには本当に発がん性があるのか

食品安全委員会の評価では、プロシミドンを投与した動物実験において、雄ラットの精巣間細胞腫や、雄マウスの肝芽腫などが確認されている。

一方、食品安全委員会は、これらの腫瘍について遺伝子を直接傷つける遺伝毒性によって発生したとは考えにくいと評価している。そのため、一定量以下であれば健康影響が生じないと考えられる「閾値」を設定できるとしている。

食品安全委員会が設定したプロシミドンの許容一日摂取量(ADI)は、体重1キログラム当たり1日0.035ミリグラム。これは、人が生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと考えられる量だ。

したがって、動物実験で発がん性が確認されたことと、残留農薬が検出された食品を一度食べただけでがんになることは、科学的には同じ意味ではない。

「発がん性食品」という表現は強い印象を与えるが、実際のリスクは、検出濃度、食べた量、摂取期間、体重などによって変わる。


「日本では禁止、中国では使用可能」は正確なのか

プロシミドンについて、「日本では規制されているが、中国では使用できる」と説明されることがある。

しかし、より正確には、次のように整理する必要がある。

日本でもプロシミドンを有効成分とする農薬は存在し、特定の作物に使用できる。一方で、ブロッコリーについてプロシミドンの個別残留基準が設定されていない場合、食品衛生法の一律基準0.01ppmが適用される。

中国国内で認められた農薬使用であっても、日本へ輸出する食品は日本側の残留基準に合わせなければならない。ここに、生産国と輸入国の制度差による違反が生じる余地がある。

問題の本質は「中国だけが危険な農薬を使っている」という国別の単純な話ではなく、輸出先ごとに異なる基準を、生産・加工・輸出の各段階で管理できているかにある。


2026年5月には強化モニタリングの対象から削除

厚生労働省は2026年5月15日、これまでの検査実績を踏まえ、中国産ブロッコリーとその簡易加工品のプロシミドンを、輸入食品モニタリング通知の「別表第2」から削除した。

別表第2は、通常より検査頻度を引き上げる対象を示すものだ。削除は、直近の検査実績などを踏まえ、強化モニタリングを継続する必要性が低下したと判断されたことを意味する。

ただし、対象から削除されたからといって、日本の残留基準そのものがなくなったわけではない。通常の輸入食品監視や事業者による自主検査の対象であることに変わりはない。

過去の違反件数だけでなく、その後の検査結果と監視措置の変更まで含めて評価する必要がある。


冷凍ブロッコリーを食べても大丈夫なのか

基準を超えた違反品は、輸入時に確認された場合、廃棄や積み戻しなどの対象となる。違反が判明した貨物すべてが、そのまま国内の店頭に並ぶわけではない。

また、残留基準を超えたことは食品衛生法上の違反を意味するが、基準超過と直ちに健康被害が発生することも同義ではない。

一方で、同じ農薬による違反が繰り返される場合には、生産地での使用管理、輸出前検査、輸入者の品質管理が十分だったのかを検証する必要がある。

消費者が過度な不安を抱かないためにも、行政には違反件数だけでなく、検出濃度、超過倍率、流通の有無、貨物の措置を分かりやすく公表することが求められる。


編集部の考察 問題は「中国産かどうか」より検査情報の見えにくさ

今回の問題で警戒すべきなのは、「中国産食品はすべて危険だ」という短絡的な受け止め方である。

輸入食品の違反は中国産に限らず、日本から海外へ輸出した食品でも、相手国との基準の違いによって起こり得る。原産国名だけでは、個々の食品の安全性を判断できない。

一方、過去に同じ農薬の違反が重なり、検査命令や強化モニタリングが行われてきた事実は軽視できない。なぜ違反が繰り返されたのか、どの生産地域や事業者に集中していたのか、改善後の違反率がどう変化したのかまで検証する必要がある。

「発がん性」という言葉だけを強調する報道は、消費者の関心を集めやすい。しかし、本当に必要なのは恐怖をあおることではなく、どれほど検出され、健康上どの程度のリスクがあり、流通を防ぐ仕組みが機能したのかを具体的に示すことである。


Q冷凍や加熱でプロシミドンを完全に除去できますか?
A洗浄や加熱によって残留量が減る可能性はありますが、家庭での調理によって必ず完全に除去できるとは限りません。基準を超えた食品は、調理を前提に販売を認めるのではなく、輸入・流通段階で排除することが基本です。
Q商品のパッケージを見れば農薬検査の結果が分かりますか?
A通常、個別商品の残留農薬検査結果までは表示されません。原産国、輸入者、販売者、賞味期限、ロット番号を確認しておくと、回収情報が公表された際に対象商品か判断しやすくなります。
Q基準違反の商品を購入した可能性がある場合はどうすればよいですか?
A厚生労働省や自治体、輸入者、販売事業者が公表する自主回収情報を確認してください。対象商品が手元にある場合は食べずに保管し、販売店または記載された問い合わせ窓口へ連絡するのが適切です。
Q国産ブロッコリーなら残留農薬の心配はありませんか?
A国産・輸入品を問わず、農薬が使用される場合があります。食品衛生法の残留基準は国内産にも輸入品にも適用されるため、原産国だけで安全性を断定することはできません。

※本記事は公開されている企業情報、報道内容、地域特性、市場動向などをもとに編集部が独自に考察した内容です。企業や関係者が公表している出店理由・経営方針を断定するものではなく、一部に編集部の見解や推測が含まれます。最新かつ正確な情報は、各企業・自治体の公式発表をご確認ください。

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