愛知県東三河農林水産事務所の課長補佐級職員が、職場の懇親会で部下にキスをしたりホテルへ誘ったりしたとして、2026年3月に懲戒処分を受けた問題で、週刊TAKAPIは処分後の再発防止策を愛知県人事課監察室に独自取材した。
県は処分当日に臨時の監察会議を開き、各局の人事担当者を通じて全職員への注意喚起を求めた。一方、今回の事案を受けて懇親会に関する新たな統一ルールは設けていないことも分かった。
さらに監察室への取材で、2023年度から2025年度までの3年間に、パワハラ64件、セクハラ7件の計71件の相談があったことが明らかになった。
部下にキス、ホテルへ誘う 減給10分の1・6か月
愛知県の発表によると、処分を受けたのは農業水産局東三河農林水産事務所の課長補佐級の男性職員。当時53歳だった。
男性職員は2025年5月と11月、職場の懇親会で部下職員にキスをしたほか、ホテルへ誘うなどのセクシュアル・ハラスメントに該当する行為をした。
県は2026年3月27日付で、男性職員を減給10分の1、6か月の懲戒処分とした。
今回、週刊TAKAPIが確認したのは処分内容の再確認ではない。
処分後、県は再発を防ぐために何をしたのか。逆に、何を変えなかったのか。
その「処分後」を監察室に聞いた。
処分当日に臨時監察会議 全職員への注意喚起求める
監察室によると、県は処分当日の3月27日、臨時の監察会議を開催した。
会議には各局の主管課で人事を担当する職員が参加。今回の事案の概要を説明し、改めて全職員へ注意喚起するよう各局に周知徹底を求めたという。
県では従来からコンプライアンス研修を実施しており、管理職向けの研修でもセクハラを含むハラスメントを取り上げている。
ただし、今回の事案を受けて管理職向け研修を新たに追加・強化したわけではない。
問題となる行為が確認された職員には個別に注意・指導する一方、問題行為をしていない管理職全員を一人ずつ個別指導するのではなく、管理職向け研修などを通じて必要な周知を図っているという。
懇親会の新たな統一ルールは設けず
今回のセクハラ行為は、職場の懇親会で起きていた。
週刊TAKAPIは、処分後、飲酒を伴う懇親会などについて県が新たなルールを設けたのかを確認した。
監察室は、今回の事案を受けて、県全体で新たな統一ルールを設ける対応はしていないと説明した。
相談体制についても、新しい窓口を設けたり、今回の事案を受けて仕組みそのものを作り直したりしたわけではない。
県では所属での相談に加え、監察室でもハラスメント相談を受け付けている。コンプライアンス研修などでも相談窓口を案内し、必要な場合には相談するよう職員に周知しているという。
今回の処分後に確認できた対応は、新たな規制や相談制度の導入ではなく、臨時監察会議による注意喚起と、既存の研修・相談体制の継続が中心となっている。
パワハラ64件、セクハラ7件 3年間で計71件
では、県には実際にどの程度の相談が寄せられているのか。
週刊TAKAPIは監察室に、直近3年間のパワハラ・セクハラ相談件数を確認した。
2023年度(令和5年度)はパワハラ22件、セクハラ1件の計23件。
2024年度(令和6年度)はパワハラ23件、セクハラ3件の計26件。
2025年度(令和7年度)はパワハラ19件、セクハラ3件の計22件だった。
3年間の合計は、パワハラ64件、セクハラ7件の計71件となる。
セクハラ相談は2023年度の1件から2024年度に3件となり、2025年度も3件だった。
週刊TAKAPIが「セクハラが増えてきているとみるべきか」と尋ねたところ、担当者は、おおむね同程度の件数で推移しているとの認識を示した。
ここで数字の意味には注意が必要だ。
71件は監察室から回答を受けたパワハラ・セクハラの「相談件数」であり、71件すべてでハラスメントが認定されたことを意味しない。懲戒処分の件数でも、被害者の実人数でもない。
監察室の調査開始から処分まで約3〜4か月
今回の事案について、調査開始から処分までの経過も確認した。
監察室によると、2025年12月ごろ、局の人事担当者から連絡を受けて調査を開始した。
その後、事実確認などを行い、2026年3月27日の懲戒処分に至った。担当者は、事実確認が必要だったため一定の時間を要したと説明している。
一方、2025年12月ごろというのは、監察室が局の人事担当者から連絡を受けた時期だ。
被害を受けた職員が最初に相談・申告した時期については、今回の取材では確認できていない。
そのため、「被害申告から処分まで約4か月」ではなく、「監察室の調査開始から処分まで約3〜4か月」とするのが今回確認できた事実に即した表現となる。
県「コンプライアンス意識がまだまだ不十分」
処分後に何をしたのかだけではなく、今回の事案から組織として何が課題だったと考えているのかも尋ねた。
監察室は、こうしたハラスメント事案が起きたことについて、職員のコンプライアンス意識が「まだまだ不十分であった」との認識を示した。
県は今後も、研修などを通じてハラスメントを含むコンプライアンス意識を高め、繰り返し注意喚起していく必要があるとしている。
ただ、研修も従来と全く同じ内容を繰り返すという説明ではなかった。
監察室によると、受講者からは「もっと実践的な内容にした方がいい」といった趣旨の意見も寄せられており、そうした声を取り入れながら、その時々に合わせて研修内容を変えていく考えだ。
また、ハラスメントに限定したものではないが、公務員の不祥事や会計事務に関係する不正などをテーマに外部講師を招いた研修実績もあり、必要に応じて他の研修での活用も検討していくとしている。
担当者は近年の事案について、AIなど新しい技術を利用したものというより、身近な人間関係や近しい間柄の中で発生するケースがみられるとの認識も示した。
編集部まとめ
今回の独自取材で、処分後に県が実施したことと、今回の事案を受けても変更していないことの双方が見えてきた。
県は処分当日に臨時監察会議を開き、各局の人事担当者を通じて全職員への注意喚起を求めた。既存のコンプライアンス研修や相談窓口の周知も継続し、研修については受講者の意見を取り入れながら内容を見直していく考えを示している。
一方、今回の事案を受けた懇親会の新たな統一ルール、問題行為をしていない管理職全員への個別指導、新しい相談制度の導入は確認されなかった。
これだけで対策が十分か不十分かを判断することはできない。
県自身が「コンプライアンス意識がまだまだ不十分」との課題認識を示している以上、次に確認すべきなのは、注意喚起や研修を実施したという事実だけではなく、それが職員の行動変化や早期相談につながっているかという実効性だ。
3年間で監察室から回答を受けたパワハラ・セクハラ相談は71件。
相談件数の増減だけで対策の効果を測ることもできない。相談しやすくなれば、把握される件数が増える可能性もあるからだ。
処分を公表して終わりではなく、その後の取り組みが職場でどう機能しているのか。そこまで継続して確認することが、再発防止を検証するうえで重要になる。
週刊TAKAPI編集部/成田
特記事項
本稿の処分対象者の所属、職級、年齢、行為の概要、処分内容、処分年月日は、愛知県が2026年3月27日に公表した懲戒処分資料に基づく。
処分当日の臨時監察会議、全職員への注意喚起、懇親会をめぐる新たな統一ルールの有無、管理職への対応、2023~2025年度のパワハラ・セクハラ相談件数、監察室の調査開始時期、相談体制、研修内容の見直し、外部講師の活用実績、近年の事案に関する認識、県が認識する組織上の課題については、週刊TAKAPIによる愛知県人事課監察室への複数回の独自電話取材に基づく。
71件はパワハラ・セクハラの相談件数であり、ハラスメントの認定件数、懲戒処分件数、被害者の実人数を示すものではない。同一案件について複数回相談した場合の集計方法など、詳細な集計基準は今回の取材では確認していない。
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