東京都千代田区の暁星高校が実施したフランス語語学研修で、高校1年の男子生徒(15)が死亡した事故を巡り、海水浴に参加した生徒らが沖合から戻った際、引率教諭が男子生徒が戻っていないことに気付いていなかったことが、10月3日に公表された詳細調査報告書を基に新たに大きく報じられた。
事故当時、海水浴には生徒17人が参加し、引率教員は2人だった。
詳細調査報告書では、教員が生徒それぞれの位置を正確に把握できていなかったことや、当時の海の危険性を十分認識せず、沖合の浮き島へ向かうかどうかを生徒側の判断に委ねる状態になっていたことが指摘されている。
今回改めて浮かび上がったのは、海上での監視だけではなく、生徒が岸側へ戻る段階でも所在確認が十分に機能していなかったという問題だ。
海水浴は17人 引率教員は2人
事故が起きたのは2025年7月21日、フランス・カンヌ。
フランス語語学研修に参加していた高校1、2年生20人のうち、体調不良などで宿舎に残った3人を除く17人が海水浴へ向かった。
引率教員は2人だった。
報告書によると、海水浴開始後、教員の1人は主にテント付近で生徒のスマートフォンなどの荷物を管理。もう1人は開始から約10分後にビーチへ到着していた。
生徒が複数のグループに分かれていることは把握していたものの、一人ひとりがどこにいるのかを正確には確認できていなかったとされる。
生徒らが戻っても「1人いない」と気付かず
10月6日に新たに大きく伝えられた報告書の内容では、生徒たちが沖合から戻った際、引率教諭は亡くなった男子生徒が戻っていないことに気付いていなかった。
この点は事故当時の監視体制を検証する上で重要になる。
海へ入っている間に生徒全員の位置を継続的に把握できていなかっただけでなく、生徒が沖合から戻った段階でも、誰が戻り、誰が戻っていないのかを即座に把握できていなかったことになる。
一方、公表されている内容だけから「点呼を一切行っていなかった」と断定することはできない。
どの時点で人数確認を行う取り決めだったのか、事故当日に実際にどのような確認が行われていたのかは、さらに確認が必要な部分として残る。
浮き島まで少なくとも約50メートル 足が着かない区間も
事故当日の海は、安全管理上、慎重な判断が求められる状況だった。
詳細調査委員会によると、午後5時ごろの現場付近では風速毎秒7メートル、瞬間風速毎秒11メートル。
波高は0.7メートル、有義波高は0.9メートルで、沖合から斜め方向へ強い潮の流れも発生していた。
ライフセーバーや監視員も配置されていなかった。
沖合の浮き島までは波打ち際から少なくとも約50メートルあり、60メートルを超えていた可能性もある。
岸から約10メートル進むと水深は約2メートルとなり、浮き島へ向かう場合、長い区間を足が着かない状態で泳ぐ必要があった。
11人が浮き島へ 4人は途中で引き返す
浮き島を目指したのは11人だった。
このうち5人は往復できた一方、4人は危険を感じて途中で引き返した。
さらに別の生徒1人も、浮き島から岸へ戻る途中に強い潮の流れによって進行方向から外れ、波を何度もかぶって水を飲み、砂浜へ戻ることが難しい状態になった。
この生徒は周囲にいた人たちに救助された。
亡くなった男子生徒だけが危険な状態に陥ったわけではなく、複数の生徒が海況の厳しさを感じていたことになる。
遊泳範囲を明確に限定せず
詳細調査委員会は、引率教員2人が海況の危険性を十分に認識していなかったと指摘している。
教員は「無理をしない」「単独行動をしない」といった注意をしていたものの、
- 遊泳可能な範囲
- 浮き島へ行ってよいか
- 各生徒の泳力
- 海で泳いだ経験
- 波や潮流の危険性
などを踏まえた具体的な管理が十分ではなかった。
結果として、浮き島まで向かうかどうかの判断が生徒側に委ねられる状態になったとされる。
「単独行動をしない」も海上では徹底できず
教員は海水浴前、生徒に単独行動をしないよう注意していた。
しかし報告書では、海へ入った後、そのルールを十分に徹底できていなかったことも指摘されている。
多数の海水浴客がいる中で、17人全員の位置を継続的に把握することもできていなかった。
その状況で、生徒らが沖合から戻った後も、男子生徒が戻っていないことに引率教諭が気付いていなかった。
事故を防ぐための監視だけではなく、異常が起きた際にどれだけ早く把握できる体制だったのかも問われる。
学校安全計画を策定せず
調査委員会が問題視したのは、事故当日の引率教員2人の判断だけではない。
事故当時、暁星高校では学校保健安全法に基づく学校安全計画が策定されておらず、危機管理マニュアルも十分な内容ではなかったとされた。
安全教育や安全管理を横断的に統括する体制も十分ではなく、教職員への危機管理研修、生徒への体系的な安全教育にも課題があったという。
調査委員会は、学園の危機管理意識や安全管理体制について厳しい指摘を行っている。
過去のヒヤリハットも十分に共有されず
過去のフランス語研修では、複数のトラブルやヒヤリハットも発生していた。
2023年の研修では、市バス同士の衝突事故にも遭遇していた。
しかし、こうした経験を次の担当教員へ安全上の情報として体系的に引き継ぐ仕組みは十分ではなかったとされた。
また、過去にも生徒が海水浴をしたり沖合の浮き島まで泳いだりしていた一方、大きな事故が起きていなかったことで、危険性への認識が弱まった可能性も指摘されている。
学園「本法人に全ての責任」
暁星学園は2025年11月、遺族の要望も踏まえて詳細調査委員会を設置した。
調査委員会は2026年4月30日付で報告書をまとめ、学園が受領。
遺族との協議を経て、10月3日に詳細調査報告書を公表した。
学園は事故について「本法人に全ての責任がございます」との認識を示している。
2026年6月には安全委員会を設置し、安全管理体制の構築を進めているとしている。
引率教員・管理職への処分は公表されず
一方、10月6日時点で確認できる学園の公表内容では、事故当日の引率教員2人や校長、その他の管理職に対して懲戒処分や人事上の措置を行ったのかは明らかになっていない。
安全委員会が具体的にどのような安全基準を決定したのか、学校安全計画や危機管理マニュアルが現在どこまで整備されたのかについても、詳細な内容は公表されていない。
海外研修で海水浴など水辺の活動を実施する場合、今後どのような人数配置、点呼、泳力確認、遊泳範囲の設定を行うのかも重要な確認事項となる。
編集部まとめ
今回改めて大きく伝えられた「男子生徒が戻っていないことに引率教諭が気付いていなかった」という事実は、この事故の安全管理を検証する上で重い。
当時は生徒17人に対して引率教員2人。
海は強い風や波、潮流があり、沖合の浮き島へ向かうには長い区間を足が着かない状態で泳ぐ必要があった。
実際、浮き島を目指した11人のうち4人が途中で引き返し、別の生徒も溺れかけている。
その中で、生徒一人ひとりの位置を継続的に把握できず、戻った段階でも男子生徒がいないことを把握できていなかった。
事故当日の判断だけではない。
学校安全計画の未策定、危機管理マニュアルの不足、過去のヒヤリハット共有、海外研修における安全管理体制など、詳細調査委員会は学園全体の問題を指摘している。
今後問われるのは、報告書を公表したことだけではなく、海外で17人の生徒を水辺へ連れて行く際、誰が、いつ、どの方法で、一人ひとりの所在を確認するのかまで具体化した安全管理へ変えられるかだ。
週刊TAKAPIでは、安全委員会の具体的な対応、学校安全計画や危機管理マニュアルの整備状況、海外研修の安全基準、引率体制について今後も確認・検証を続ける。
週刊TAKAPI 編集部
特記事項
本稿は、2026年10月3日に学校法人暁星学園が公表した詳細調査報告書と学園の説明に加え、10月6日に新たに大きく報じられた「生徒らが沖合から戻った際、引率教諭が亡くなった生徒が戻っていないことに気付いていなかった」とする内容を反映した続報です。
10月6日に新たな第三者委員会報告書や別の調査結果が公表されたという意味ではありません。
亡くなった生徒や関係する未成年者の特定につながる情報は掲載していません。
また、公表内容だけから「点呼を一切行っていなかった」とは断定せず、確認できた事実の範囲で記載しています。
独立メディアだからこそできる、忖度しない報道を。

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