「いじめ」という言葉で犯罪を軽くしていないか?海外のbullyingとの違いと学校問題を考える

学校で子どもが殴られる。
持ち物を壊される。
金品を要求される。
SNSで悪口や個人情報を広められる。
脅され、無理やり嫌なことをさせられる。

こうした行為が学校で起きたとき、日本では多くの場合「いじめ」と呼ばれます。

しかし、冷静に見ると、その中には暴行、傷害、脅迫、恐喝、強要、名誉毀損、侮辱、器物損壊など、犯罪にあたる可能性がある行為が含まれています。

それでも「いじめ」という言葉でまとめられると、どこか学校内の人間関係の問題、子ども同士のトラブル、指導で解決すべき問題のように見えてしまいます。

そもそも「いじめ」とは何なのか。
海外にも同じ言葉はあるのか。
そして、「いじめ」という言葉は、犯罪行為をオブラートに包んでしまっていないのか。

この記事では、言葉の成り立ち、海外で使われるbullyingとの違い、学校現場で起きる行為の法的な意味を整理します。

「いじめ」という言葉の成り立ち

「いじめ」は、動詞の「いじめる」を名詞化した言葉とされています。

語源については、「いじる」から来たという説や、「意地」に関係するという見方がありますが、断定は難しいとされています。語源由来辞典では、「いじめ」は「いじめる」を名詞化した語であり、「いじめる」の語源は「いじる」または「意地」との関係が考えられるものの、はっきりしないと説明されています。(語源由来辞典)

もともと「いじめる」には、相手を苦しめる、つらく当たる、弱い立場の者を攻撃するという意味があります。

つまり、「いじめ」という言葉自体は、単なる悪ふざけではなく、相手に苦痛を与える行為を指す言葉です。

しかし、学校現場ではこの言葉が広く使われすぎた結果、具体的に何が行われたのかが見えにくくなることがあります。

「いじめがあった」と聞いても、それが無視なのか、暴力なのか、金銭要求なのか、性的な被害なのか、SNSでの名誉毀損なのかは分かりません。

ここに、「いじめ」という言葉の大きな問題があります。

法律上の「いじめ」の定義

日本では、いじめ防止対策推進法で「いじめ」が定義されています。

同法では、児童生徒に対して、一定の人的関係にある他の児童生徒が心理的または物理的な影響を与える行為で、対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものを「いじめ」としています。インターネットを通じて行われる行為も含まれます。(文部科学省)

この定義の重要な点は、被害を受けた側が心身の苦痛を感じているかどうかです。

つまり、「加害側に悪気があったか」「遊びのつもりだったか」だけで判断するものではありません。

一方で、この法律上の定義はかなり広いものです。

広く拾えることは、早期発見や被害者保護の面では重要です。

しかし、すべてを「いじめ」と呼ぶことで、犯罪にあたる可能性のある行為まで、学校内の指導問題として処理されてしまう危険もあります。

海外にも「いじめ」はあるのか

海外にも、日本の「いじめ」に近い言葉はあります。

英語では一般的に「bullying」という言葉が使われます。

学校での嫌がらせ、暴力、脅し、仲間外れ、ネット上の攻撃などを指す言葉です。

UNESCOも、学校での暴力やbullyingを重要な問題として扱っており、bullyingは学校における暴力の一形態として認識されています。(ユネスコ)

また、UNESCOの報告書では、日本語の「ijime」について、児童生徒の社会的排除を伴ういじめの一類型として紹介されています。(ユネスコの文書)

つまり、海外にも「いじめ」にあたる概念はあります。

ただし、日本語の「いじめ」は、学校文化や集団内の空気、人間関係の圧力と結びついて使われることが多く、英語のbullyingとは完全に同じではありません。

bullyingという言葉の背景

英語のbullyという言葉は、現在では「弱い者をいじめる人」「威圧する人」という意味で使われます。

ただし、語源をたどると少し複雑です。

Oxford English Dictionaryでは、bullyの語源は不確かで、最も古い使用例は1500年代後半とされています。(oed.com)

Merriam-Websterは、bullyの初期の意味は「恋人」や「親しい人」に近く、のちに現在のような威圧的な意味へ変化したと説明しています。(メリアム・ウェブスター辞典)

言葉は時代とともに意味が変わります。

日本の「いじめ」も、もともとは相手を苦しめる行為を指す言葉でありながら、学校問題の文脈で多用されることで、逆に行為の深刻さをぼかす言葉になってしまうことがあります。

「いじめ」という言葉が犯罪をオブラートに包んでいないか

ここが一番大事です。

「いじめ」という言葉は、被害を広く拾うためには必要です。

しかし、同時に犯罪行為をやわらかく見せてしまう危険があります。

たとえば、学校外で同じことが起きたらどうでしょうか。

殴れば暴行や傷害。
脅して金を取れば恐喝。
物を壊せば器物損壊。
裸や下着姿を撮影すれば重大な性加害。
SNSに悪口や個人情報を投稿すれば名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害。

それなのに、学校の中で起きた瞬間に「いじめ」と呼ばれる。

この言葉の変換によって、被害の重さが一段下げられてしまうことがあります。

本来なら「暴行事件」「恐喝事件」「名誉毀損」「性加害」として扱うべき行為まで、「いじめ事案」と表現されることで、学校内の指導や話し合いで済ませる空気が生まれることがあります。

これは、被害者保護の観点から非常に危険です。

「いじめ」は便利すぎる言葉になっている

「いじめ」という言葉は便利です。

学校も、教育委員会も、報道も、保護者も使いやすい言葉です。

しかし、便利だからこそ問題があります。

暴行と書くより、いじめと書いた方が柔らかく見える。
恐喝と書くより、金銭トラブルと書いた方が穏やかに見える。
性加害と書くより、不適切行為と書いた方が学校の責任が軽く見える。

このように、言葉の選び方によって、事案の見え方は大きく変わります。

もちろん、未成年が関係する学校問題では、加害児童生徒の将来や教育的配慮も重要です。

しかし、それ以上にまず守られるべきなのは、被害を受けた子どもの安全と尊厳です。

「いじめ」という言葉を使う場合でも、その中身を具体的に見る必要があります。

どんな行為が犯罪になり得るのか

いじめと呼ばれる行為の中には、刑法上の犯罪にあたる可能性があるものがあります。

相手を殴る、蹴る、突き飛ばす行為は、暴行や傷害にあたる可能性があります。

脅して金品を要求する行為は、恐喝にあたる可能性があります。

相手に無理やり謝罪文を書かせたり、嫌な行為をさせたりする場合は、強要が問題になることがあります。

持ち物を壊したり、隠したり、捨てたりする行為は、器物損壊や窃盗が問題になることがあります。

SNSで悪口や事実と異なる内容を広める行為は、名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害につながる可能性があります。

法務省も、暴行、脅迫、傷害、恐喝のほか、名誉毀損や侮辱が犯罪になり得ることを示しています。(コトバンク)

大切なのは、「これはいじめかどうか」だけで判断しないことです。

「具体的に何が行われたのか」を見る必要があります。

学校は警察に相談してよい

学校で起きたことだからといって、警察に相談してはいけないわけではありません。

文部科学省は、犯罪行為として取り扱われるべきいじめについて、学校がためらわず早期に警察へ相談し、連携することが重要だと示しています。特に、児童生徒の生命、身体、財産に重大な被害が生じるような場合には、直ちに警察へ通報する必要があるとしています。(文部科学省)

つまり、警察への相談は「大げさ」ではありません。

被害児童生徒を守るために必要な選択肢です。

学校が抱え込んだ結果、被害が長引いたり、証拠が失われたり、被害者が追い詰められたりすることがあります。

学校内で解決できることと、外部機関と連携すべきことを分ける必要があります。

報道も「いじめ」という言葉の使い方を考えるべき

報道する側も、「いじめ」という言葉の使い方には注意が必要です。

「いじめがあった」と書くだけでは、読者には何が起きたのか伝わりません。

暴力があったのか。
金銭要求があったのか。
SNSでの中傷があったのか。
性的な被害があったのか。
学校や教育委員会はどう対応したのか。

具体的な行為を整理して初めて、読者は事案の重大性を理解できます。

もちろん、未成年のプライバシーや被害者保護のため、詳細に書きすぎてはいけない場面もあります。

それでも、犯罪にあたる可能性がある行為を、単に「いじめ」とだけ表現して終わらせるのは危険です。

週刊TAKAPIとしても、学校問題を扱う際には「いじめ」という言葉の中身をできる限り丁寧に分解して伝える必要があります。

保護者ができること

子どもがいじめ被害を受けている可能性がある場合、保護者はまず記録を残すことが大切です。

いつ、どこで、誰に、何をされたのか。

けが、持ち物の破損、金銭被害、SNSの投稿やメッセージなど、客観的に確認できるものは保存しておく必要があります。

学校に相談した日時、対応した教職員の名前、説明内容も記録しておくと、後から経緯を整理しやすくなります。

学校の対応に不安がある場合は、教育委員会、警察、弁護士、児童相談所など、外部の相談先を検討することもあります。

大切なのは、学校内だけで抱え込まないことです。

ミニ解説|「いじめ」という言葉と犯罪性

Q. 「いじめ」は日本だけの言葉ですか?

A. 日本語としての「いじめ」は日本の言葉ですが、海外にも近い概念はあります。英語ではbullyingがよく使われ、学校での暴力や嫌がらせ、仲間外れ、ネット上の攻撃などを指します。

Q. いじめとbullyingは同じですか?

A. 近い概念ですが、完全に同じではありません。日本語の「いじめ」は、学校や集団内の空気、人間関係の圧力と結びついて使われることが多く、海外でも「ijime」として紹介されることがあります。

Q. いじめは犯罪になりますか?

A. 内容によっては犯罪になることがあります。暴行、傷害、脅迫、恐喝、強要、名誉毀損、侮辱、器物損壊などにあたる可能性があります。

Q. なぜ「いじめ」という言葉が問題になるのですか?

A. 犯罪にあたる可能性がある行為でも、「いじめ」と呼ばれることで、学校内のトラブルのように軽く見えてしまうことがあるためです。

Q. 学校は警察に相談してよいのですか?

A. はい。文部科学省は、犯罪行為として取り扱われるべきいじめについて、学校が早期に警察へ相談し、連携することが重要だと示しています。

Q. 報道ではどう書くべきですか?

A. 「いじめ」とだけ書くのではなく、暴力、金品要求、SNS中傷、物の破壊など、具体的にどのような行為があったのかを被害者保護に配慮しながら整理することが重要です。

まとめ

「いじめ」という言葉は、被害を広く拾うために必要な言葉です。

しかし、その便利さゆえに、犯罪にあたる可能性がある行為をオブラートに包んでしまう危険もあります。

学校の中で起きたとしても、暴行は暴行です。

恐喝は恐喝です。

名誉毀損は名誉毀損です。

性加害は性加害です。

「いじめ」という言葉でまとめる前に、何が行われたのかを具体的に見る必要があります。

被害を受けた子どもの安全と尊厳を守るためには、学校だけで抱え込まず、必要に応じて教育委員会、警察、専門機関と連携することが重要です。

いじめを軽く見せないこと。

その第一歩は、言葉の使い方を見直すことから始まります。

本記事は、文部科学省、法務省、UNESCO、Oxford English Dictionary、Merriam-Websterなどの公開情報を基に構成しています。個別事案によって法的評価は異なるため、具体的な判断が必要な場合は、警察、弁護士、教育委員会などの専門機関へ相談してください。

担当記者:一条|週刊TAKAPI 記者

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