愛知県一宮市に本部を置く社会福祉法人「愛知慈恵会」で、介護報酬の不正受給と親族への不適切な給与支払いが相次いで明らかになった。
愛知県と長野県の複数施設で発覚した介護報酬の返還総額は約6600万円。さらに、理事長の高齢の母親を「相談役」とし、勤務実態が確認できないまま1年7カ月で総額912万円を支払っていた。
法人は愛知県から改善勧告を受け、2025年9月ごろに第三者委員会を設置。調査の焦点は、複数施設で不正を止められなかった法人本部の管理体制と、親族への高額給与を認めた理事長・理事会の責任に移っている。
長野の特養で約3400~3800万円規模
最初に問題が表面化したのは、長野県根羽村の特別養護老人ホーム「ねばねの里 なごみ」だった。
施設では2023年9月から2024年12月ごろまで、常勤ケアマネジャーの配置基準を満たしていなかったにもかかわらず、必要な職員を配置している前提で介護報酬を請求していた。
不正受給額は当初約2700万円とされたが、その後の精査や加算分を含め、返還規模は約3400万~3800万円と報じられている。
法人は不適切な請求を認め、根羽村などへの返還を進めた。
一宮市では勤務記録を改ざん
不正は長野県内の一施設だけではなかった。
一宮市のデイサービス「座・柿ノ木」では、2022年5月から2025年4月にかけて、看護職員の配置基準を満たしていない日があったにもかかわらず、勤務記録を改ざんして介護報酬を請求していた。
過大請求額は1800万円を超え、法人は一宮市に約1680万円を返還。ほかの関連分を含め、法人全体の返還総額は約6600万円に達したとされる。
複数県の施設で人員配置を巡る不正が起きていた以上、一部の現場だけの問題として処理することは難しい。請求前の確認や本部監査がどこまで機能していたのかが問われる。
要介護の母親に月48万円、総額912万円
介護報酬とは別に問題となったのが、理事長の母親に対する相談役給与だ。
母親は2023年9月から2025年3月までの1年7カ月間、月額約48万円、総額912万円を受け取っていた。
母親は要介護認定を受け、系列の高齢者施設に入居していたとされる。相談役としての具体的な業務実態が確認できなかったことから、愛知県は不適切な給与支払いとして法人を指導した。
912万円は退任後に返還された。ただ、給与を戻しただけでは、就任を決めた経緯や金額の算定根拠、理事会での審査が適切だったかという疑問は解消されない。
労働組合は約3500万円の可能性を指摘
自治労愛知慈恵会労働組合は、母親への支払いが公表された1年7カ月より前から続いていた可能性を訴えている。
大道隆敏委員長らは、母親の日記などを根拠に、勤務実態がなかった期間は少なくとも6年間で、支払総額が約3500万円に上る可能性があるとして愛知県へ告発した。
約3500万円という金額は組合側の主張で、現時点で最終認定されたものではない。第三者委員会には、過去の給与台帳や理事会議事録、業務報告の有無まで遡った調査が求められる。
50施設超、職員700人超の大規模法人
愛知慈恵会は、愛知、岐阜、長野を中心に50以上の高齢者施設や福祉事業を展開し、700人を超える職員を抱えるとされる。
地域福祉を担う大規模法人で、複数施設にまたがる不正請求と親族への高額給与が同時に発覚した意味は重い。
介護業界では慢性的な人手不足が続き、配置基準を満たすことが難しい施設もある。しかし、人員不足と、基準未達を隠すために勤務記録を改ざんする行為は切り分けなければならない。
焦点は理事長・理事会の責任
第三者委員会が明らかにすべき点は絞られている。
理事長は介護報酬の不正をいつ把握したのか。複数施設の請求を法人本部がなぜ止められなかったのか。理事会は親族への相談役給与をどのような根拠で認めたのか。
介護報酬は保険料と公費を原資とする。社会福祉法人の資金を扱う以上、親族への高額支払いには、通常の職務実態と報酬に見合う明確な説明が必要だ。
約6600万円と912万円を返還しても、組織の責任まで消えるわけではない。第三者委員会の報告で、理事長と理事会の関与、内部監査の実態、経営体制をどう改めるのかまで示せるかが焦点となる。
週刊TAKAPI編集部/成田
特記事項:本記事は、自治体の行政対応、法人側の説明、労働組合の告発内容、公開された法人情報を基に構成しています。施設別の返還額には報道による幅があります。また、相談役給与が約3500万円に及ぶ可能性があるとの指摘は労働組合側の主張で、第三者委員会による最終的な認定が待たれます。
編集部まとめ
愛知慈恵会は、愛知県と長野県の複数施設で発覚した介護報酬の不正を受け、約6600万円を返還した。
理事長の高齢の母親には、勤務実態が確認できないまま1年7カ月で912万円が支払われていた。労働組合は、支払いが少なくとも6年間、約3500万円に及ぶ可能性も指摘している。
問題の核心は返還額だけではない。複数施設の不正請求を止められなかった法人本部と、親族への高額給与を認めた理事長・理事会の監督責任にある。
第三者委員会が経営陣の関与と内部統制の不備をどこまで明らかにし、実効性のある経営刷新につなげられるかが問われている。
事件の要点
愛知県一宮市の社会福祉法人「愛知慈恵会」は、愛知県と長野県の複数施設で発覚した介護報酬の不正請求を受け、約6600万円を返還した。
長野県根羽村の「ねばねの里 なごみ」では、常勤ケアマネジャーの配置基準を満たさないまま介護報酬を請求し、返還規模は約3400万~3800万円と報じられている。一宮市の「座・柿ノ木」では、看護職員の配置基準を満たしていない日について勤務記録を改ざんし、法人は約1680万円を返還した。
さらに、理事長の高齢の母親には、相談役として1年7カ月で総額912万円が支払われていた。母親は要介護認定を受け、系列施設に入居していたとされ、勤務実態が確認できなかったことから愛知県が指導した。
労働組合は、母親への支払いが少なくとも6年間、約3500万円に及ぶ可能性も指摘しているが、この金額は組合側の主張であり、第三者委員会による最終認定が待たれる。
今回の問題は、単なる請求ミスではなく、複数施設の不正を止められなかった法人本部の管理体制、理事長への権限集中、親族への高額給与を認めた理事会の監督責任にまで広がっている。
第三者委員会が、経営陣の関与、内部監査の実態、親族への給与決定の経緯をどこまで明らかにし、実効性のある経営刷新につなげられるかが最大の焦点となる。
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