「年収1億円」という言葉さえ、一般的な会社員から見れば遠い世界の数字だろう。
ところが、日本の上場企業では2025年度、役員報酬1億円以上を開示した役員が1,345人に達し、過去最多を更新した。
さらに、その頂点に立ったのは、セブン&アイ・ホールディングスの元取締役、ジョセフ・マイケル・デピント氏。
その金額は、なんと134億1,700万円。
日本の上場企業で個別開示が始まった2010年3月期以降、過去最高額を更新した。東京商工リサーチの調査によると、前年までの最高額はソフトバンクグループのニケシュ・アローラ元取締役の103億4,600万円で、今回はそれを30億7,100万円上回った。
一方で、この134億円を「毎年の給料」と捉えると実態を見誤る。
今回の金額には、CEO退任時の巨額の退職手当が含まれているからだ。
2025年度の役員報酬ランキング、トップ10は?
東京商工リサーチの調査によると、2025年度の役員報酬ランキング上位10人は次の通り。
1位 セブン&アイ・ホールディングス
ジョセフ・マイケル・デピント氏
134億1,700万円
2位 ソフトバンクグループ
レネ・ハース氏
61億3,900万円
3位 キオクシアホールディングス
ステイシー・スミス氏
44億3,100万円
4位 ソニーグループ
十時裕樹氏
27億5,700万円
5位 野村ホールディングス
クリストファー・ウィルコックス氏
25億6,000万円
6位 武田薬品工業
クリストフ・ウェバー氏
23億1,500万円
7位 トヨタ自動車
豊田章男氏
21億1,300万円
8位 東京エレクトロン
河合利樹氏
20億5,000万円
9位 伊藤忠商事
岡藤正広氏
19億8,400万円
10位 野村ホールディングス
奥田健太郎氏
16億4,400万円
※出典:東京商工リサーチ「2025年度『役員報酬1億円以上』過去最多の1,345人」
1位デピント氏の「134億円」は何のお金なのか?
今回、最も注目されるのがセブン&アイHDのデピント氏だ。
134億1,700万円という数字だけを見ると、「1年間で134億円の給料をもらった」と感じるかもしれない。
しかし、内訳を見ると事情は大きく異なる。
東京商工リサーチによると、セブン&アイHDからの報酬は100万円。
一方、連結子会社の7-Eleven, Inc.から、
- 固定報酬:約2億9,100万円
- 賞与:約9,900万円
- 長期インセンティブ:約26億5,600万円
- CEO退任時のセベランスペイ(退職手当):約103億6,800万円
などが支払われた。
つまり、134億円の最大部分を占めるのは通常の給与ではなく、CEO退任に伴う退職手当だった。
この点は、今回のニュースを理解するうえで非常に重要だ。
なぜデピント氏にこれほど巨額の報酬が支払われたのか?
デピント氏は、米国の7-Eleven, Inc.で長期間にわたって経営を担ってきた人物だ。
報道によると、2005年に同社社長に就任し、約20年間にわたってCEOを務めた。
その間、米国事業では大型買収などを進め、2021年には米国コンビニ業界大手だったスピードウェイを約2兆2,000億円で買収するなど、積極的な成長戦略を進めたとされる。
ここから見えてくるのは、欧米型の経営者報酬の考え方だ。
単純に「会社に何年勤めたからいくら」という世界ではない。
企業価値をどれだけ伸ばしたか、業績をどれだけ向上させたか、株主価値をどれだけ高めたか。
そうした成果に連動して、基本報酬だけではなく、賞与や長期インセンティブ、株式報酬などを組み合わせる。
セブン&アイHD自身も2026年から役員報酬制度を見直し、グループの主要事業会社を含めたグローバルな報酬指針を整備するとしている。
実は「1億円以上」の役員そのものが過去最多
今回のニュースで驚くべきなのは、134億円という最高額だけではない。
2025年度に役員報酬1億円以上を個別開示した上場企業は606社。
対象となった役員は1,345人だった。
これは企業数、人数ともに過去最多。
前年は540社・1,207人だったため、1年間で企業数は66社、人数は138人増えたことになる。
つまり、日本企業では「億超え役員」が一部の特殊な存在ではなく、徐々に増えている。
日本人トップはソニーGの十時裕樹氏
外国人勢が上位を占める中、日本人トップとなったのはソニーグループの十時裕樹氏。
報酬額は27億5,700万円で4位だった。
さらに7位にはトヨタ自動車の豊田章男氏が入り、21億1,300万円。
東京エレクトロンの河合利樹氏、伊藤忠商事の岡藤正広氏もトップ10に入った。
日本企業の経営者報酬も、確実にグローバル化していることが分かるランキングだ。
豊田章男氏は従業員平均給与の「210倍」
もう一つ注目したいのが、役員と従業員の収入格差だ。
東京商工リサーチによると、豊田章男氏の基本報酬と賞与などは10億1,600万円。
一方、トヨタ自動車の従業員平均年間給与は1,006万円だった。
これだけでも約100.9倍。
さらに株式報酬を含めた総額では21億1,300万円となり、従業員平均との格差は約210倍に広がる。
もちろん、役員と従業員では役割も責任も違う。
単純に「210倍だからおかしい」と判断することはできない。
しかし、これほどの差が存在する以上、「その報酬に見合う企業価値を生み出したのか」という説明責任は、今後ますます重要になるだろう。
「億万長者」は夢なのか、それとも格差の象徴なのか
今回のランキングを見ると、134億円という数字に思わず目を奪われる。
一般的な会社員が生涯で稼ぐ金額と比較すれば、まさに桁違いだ。
ただし、ここで考えたいのは「134億円もらった」という一点だけではない。
重要なのは、なぜそれだけの報酬が設定され、それがどのような成果や契約に基づいて支払われたのかということだ。
特にデピント氏の場合、134億1,700万円の大部分は退任時のセベランスペイだった。
したがって、「毎年134億円を稼ぐ経営者」という理解ではなく、長年の経営実績に加えて、退任時の契約上の支払いが大きく加わった結果と見る必要がある。
なぜ外国人経営者の高額報酬が目立つのか?
今回のトップ10で外国人が5人を占めた背景には、グローバル企業における報酬制度の違いもありそうだ。
欧米企業では、経営トップの報酬に業績連動報酬や株式報酬を組み込むことが一般的だ。
東京商工リサーチも、近年の役員報酬増加について、業績連動型報酬に加え、株式報酬など非金銭報酬の広がりを要因として挙げている。
つまり、「外国人だから高い」という単純な話ではない。
世界市場で経営者を獲得・維持するため、日本企業もグローバル基準の報酬体系に近づいている。
そう見ることもできる。
これから日本の役員報酬はさらに高くなる?
今回、1億円以上の役員が1,345人まで増えた。
さらに10億円以上の役員も24人と過去最多となっている。
今後、日本企業が海外市場で競争し、世界中から経営人材を獲得するようになれば、役員報酬がさらに上昇する可能性はある。
一方で、従業員の賃金とのバランスや株主への説明責任も避けて通れない。
「経営者に高い報酬を払うこと」が問題なのではなく、
その報酬によって企業価値がどれだけ向上したのか。
ここが問われる時代になっているのではないだろうか。
【考察】134億円という数字が映し出す、日本企業の変化
今回の役員報酬ランキングは、一見すると「憧れの億万長者ランキング」にも見える。
しかし、その中身を掘り下げると、日本企業の経営そのものが変化していることが見えてくる。
かつての日本企業では、長期雇用や年功序列を背景に、経営者と従業員の所得差は現在ほど大きくなかった。
ところが、グローバル競争が激しくなるにつれて、経営トップには「世界基準の報酬」が必要になってきた。
その結果として、
「日本企業なのに、外国人経営者が高額報酬ランキングの上位を占める」
という光景が生まれている。
そして、セブン&アイHDのデピント氏の134億円は、その象徴とも言える。
これは単なる「超高額年収」のニュースではない。
日本企業が世界で戦うために、経営者にどこまで報酬を支払うのか。
そして、
その報酬を従業員や株主がどう評価するのか。
これからの日本企業では、この議論がさらに大きくなっていく可能性がある。
Q&A|役員報酬134億円についてよくある質問
まとめ
セブン&アイHDの元取締役、ジョセフ・マイケル・デピント氏が記録した134億1,700万円は、日本の上場企業における役員報酬の過去最高額となった。
ただし、その大半は通常の給与ではなく、CEO退任時の退職手当だった。
一方、2025年度には役員報酬1億円以上の役員が1,345人に達し、こちらも過去最多。
上位10人のうち外国人が5人を占めたことからも、日本企業の経営者報酬がグローバル化していることが分かる。
「億万長者」という華やかな数字の裏側には、成果報酬、株式報酬、退職金、グローバル人材獲得、そして従業員との所得格差という、日本企業がこれから向き合うテーマが隠れている。
134億円という数字は、単なる「驚きの年収」ではない。
日本企業の経営者報酬が、いま大きな転換点を迎えていることを示す数字なのかもしれない。
※本記事の役員報酬額・ランキングは、東京商工リサーチによる2025年度「役員報酬1億円以上」の調査を基に構成しています。役員報酬には基本報酬・賞与のほか、株式報酬、退職手当などが含まれる場合があるため、単純な「年間給与」とは異なります。
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