ハイヤー・タクシー事業を展開する東京エムケイで、社主・オーナーの青木政明氏(62)が乗務員らに暴言を浴びせ、椅子などを投げるパワーハラスメント行為をしていたことが分かった。
東京エムケイは2026年9月2日に記者会見を開き、松原京美代表取締役が謝罪。会社側は青木氏に対し、今後営業所へ立ち入らないよう求める方針を示した。
問題が起きたのは8月13日早朝。東京都港区の営業所で、約15人の乗務員が点呼のため集まっていたところ、青木氏が英語のテストを行い、乗務員が質問に答えられなかったことなどから激高したという。会社は今回の行為をパワーハラスメントとして認めている。
一方、週刊TAKAPIが過去の報道や裁判資料、東京エムケイの公式情報まで確認すると、今回だけを「オーナー個人の突発的な行動」として処理していいのか、より根本的な疑問が浮かぶ。
役員ではない株主がなぜ乗務員教育へ直接介入できたのか。過去にも暴力・暴言を巡る問題があったにもかかわらず、なぜ営業所への立ち入りを事前に制限できなかったのか。
会社の再発防止策とともに、組織統治そのものが問われる。
乗務員約15人を前に英語テスト 答えられず激高
会社側の説明によると、問題が起きたのは8月13日午前6時から7時ごろ。
東京都港区の営業所の点呼室には、勤務前の乗務員約15人が集まっていた。
東京エムケイではインバウンド需要への対応から英語教育を進めており、この日営業所を訪れた青木氏が乗務員らに英単語の意味を質問した。
その中には「交差点」を意味する「intersection」などがあり、乗務員から回答が得られなかったことで青木氏が激高したという。
東京エムケイの公式サイトでも、海外客への対応を事業上の強みとして掲げ、「英会話のできるドライバー」によるサービスを案内している。英語教育そのものは、同社のサービス戦略の一環だったことがうかがえる。
しかし、教育目的であることと、威圧的な言動や物を投げる行為が許容されるかは全く別の問題だ。
椅子、指示用ボード、紙コップを投げる
会社側によると、青木氏は乗務員らに暴言を浴びせたほか、椅子を投げ、卓上にあったプラスチック製の指示用ボードや紙コップなども投げたという。
公開された映像では、物が投げられた際、周囲の乗務員が身を避ける様子も確認されている。
投げられた物はいずれも乗務員には当たらず、けが人は確認されていない。
けが人がいなかったことと、行為の危険性は分けて考える必要がある。
椅子などを複数の従業員がいる空間で投げる行為について、会社自身がパワーハラスメントと認定した以上、「結果として当たらなかった」で済ませられる問題ではない。
青木氏は「役員ではなく株主」 それでも乗務員を直接指導
今回、組織統治上とりわけ注目されるのが青木氏の立場だ。
会見で会社側は、青木氏について現在は会社役員ではなく、株主であり社主・オーナーという立場だと説明している。
それにもかかわらず、青木氏は営業所の点呼室に入り、約15人の乗務員を前に英語テストを実施していた。
ここには明確に検証すべき点がある。
役員でも管理職でもない株主が、
なぜ現場へ入り、従業員へ直接業務上の指導を行える状態だったのか。
株式を保有していることと、従業員への業務指揮権限は同じではない。
今回の問題を「オーナーが怒った」という個人的な問題だけで終わらせれば、なぜその行為を可能にする組織環境が残っていたのかという本質を見失う。
従業員は止められず 社長「私が休んだことが最大のミス」
松原社長は、社内カメラの映像で問題行為を確認した後、実弟である青木氏と直接話したと説明した。
また、自身が休暇で不在だったことについて、周囲の従業員が青木氏を止めることができなかったとして、自らが休んだことを「最大のミス」とする趣旨の発言もしている。
ただ、再発防止という観点では、この説明にも疑問が残る。
代表取締役がその場にいるかどうかで、従業員の安全が左右される組織であっていいのか。
社長が休暇を取ること自体が問題なのではない。
トップが不在でも従業員を守れる仕組みを構築しておくことこそ、会社の内部統制ではないだろうか。
発生翌日に従業員が報告 会社が把握
今回の事案については、その場にいた従業員が翌日に会社へ報告し、発覚したとされている。
会社は社内カメラなどから事実関係を確認した。
ここでも確認したいのは、単に「映像が残っていたか」ではない。
乗務員約15人がいる点呼室で、物が投げられる事態が起きても、その場で経営側へ緊急報告・介入する仕組みが機能しなかったのかという点だ。
従業員側がオーナーに対して制止や通報をためらうような力関係が存在していたのであれば、それ自体が再発防止策を考えるうえで重要な検証対象になる。
過去にも暴力・暴言を巡り東京地裁が賠償命令
今回の問題を重く見る必要がある最大の理由は、東京エムケイを巡る同種問題が初めてではないことだ。
2013年3月、東京エムケイの乗務員5人が当時の元社長から暴行・暴言を受けたとして損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は暴行や暴言を認定し、会社と元社長側に約500万円の支払いを命じた。
判決では、運転席を後ろから蹴る行為や、退職を迫るような威圧的発言などが問題とされ、指導目的であっても社会的に許容される限度を超えているとの判断が示された。
さらに2014年には、別の乗務員6人が暴行・暴言を受けたとして起こした訴訟でも、東京地裁が会社側に198万円の支払いを命じたと報じられている。
つまり今回問われているのは、2026年8月13日の一日だけではない。
過去の問題を受け、会社がどのような再発防止策を講じ、それが今回なぜ機能しなかったのかという検証が不可欠になる。
2005年、2008年、2017年にも暴力を巡る報道
青木氏を巡っては、さらに以前から暴力行為に関する報道がある。
2005年には、当時東京エムケイ社長だった青木氏が駅員に暴行してけがをさせた疑いで傷害容疑で現行犯逮捕されたと報じられた。
2017年にも、当時の東京エムケイ社長が東京・新橋で個人タクシーの運転手に暴行し、けがをさせた疑いで現行犯逮捕されたと報じられている。同報道では、2008年にも男性社員を蹴ったとして傷害容疑で書類送検された経緯が紹介されている。
逮捕や書類送検は、それだけで刑事責任が確定したことを意味しない。
一方、今回会社自身がパワハラを認めたこと、過去には民事裁判で暴行・暴言が認定された事案があることを踏まえれば、会社が**「同様の問題を防ぐ仕組みを十分につくっていたのか」**は当然検証されるべきだろう。
今後は「営業所への立ち入り禁止」
東京エムケイは今回、青木氏に営業所への立ち入りをしないよう求め、本人もおおむね承諾しているという。
松原社長は、今後オーナーが再び会社に来て暴れるような事態になれば、実弟であっても警察を呼ぶしかないとの考えを示した。
さらに、できれば株式を売却し、株主としても会社から離れてほしいとの意向も示している。
一歩踏み込んだ対応ではある。
しかし逆にいえば、過去に複数の問題が報じられてきた人物について、今回の事案が起きるまで営業所への立ち入りを許していた理由も問われる。
「今後は入れない」だけでは、なぜこれまで入れたのかという疑問への答えにはならない。
「事実関係は明らか」第三者委員会は設置せず
会社側は顧問弁護士とも協議したうえで、今回の行為について事実関係が明らかだとして、第三者委員会は設置しない方針を示した。
代わりに、
役員・管理職へのハラスメント研修、相談窓口の設置、教育体制の見直し、労働組合との協議などを進めるとしている。
第三者委員会は、ハラスメントが発生するたび法律上必ず設置しなければならない制度ではない。
厚生労働省の指針も、事業主に求めているのは、相談体制を整備し、事実関係を迅速・正確に確認し、被害を受けた労働者への配慮、行為者への適切な対応、再発防止措置を行うことだ。事実確認は人事部門や社内の専門委員会などで行う方法も示されている。
したがって、「第三者委員会を設けない=不適切」と単純には言えない。
ただし問題は別にある。
明らかなのは「何をしたか」 「なぜ繰り返したか」は別問題
今回、映像などが存在するため、
「暴言があったか」
「椅子を投げたか」
という事実確認は比較的容易だろう。
しかし第三者的な検証が必要かどうかを考える際には、行為そのものの事実確認と、組織的な原因究明を分ける必要がある。
なぜ役員ではないオーナーが従業員へ直接指示できたのか。
なぜ周囲の管理職は止められなかったのか。
過去の問題後にどのような再発防止策が取られたのか。
その策はなぜ今回機能しなかったのか。
過去に相談した従業員はいなかったのか。
オーナーの言動を理由に退職した従業員がいたのか。
こうした点は、「椅子を投げた事実は明白」というだけでは解明されない。
公式サイトでは「従業員の人格や個性を尊重」
東京エムケイの公式サイトは、グループの経営方針として、
従業員の人格や個性を尊重すること
や、
ボトムアップで挑戦できる組織風土をつくること
を掲げている。
また東京エムケイ自身も「安全・誠実・おもてなし」を理念として掲げ、従業員508人を抱える企業として事業を展開している。
だからこそ今回問われるのは、掲げている理念そのものではない。
その理念が、従業員を守る社内制度として本当に機能していたのか。
顧客への「おもてなし」を徹底する一方で、そのサービスを提供する乗務員が安心して働けないのであれば、企業理念との間には大きな隔たりが生じる。
「英語教育」が問題なのではない
東京エムケイは、外国人観光客や海外VIPへの対応を強みとしており、英語研修自体には業務上の合理性がある。
しかし、
英語ができないことへの指導
と、
怒鳴る、威圧する、物を投げる
ことは明確に分けなければならない。
2013年の東京地裁判決でも、会社側が「指導目的」と主張する中、暴行・暴言について社会的に許容される限度を超えているとの判断が示されている。
13年以上を経て、再び乗務員への「教育」を契機とする問題が表面化した。
この経緯は重い。
週刊TAKAPIが会社に確認したい8項目
今回、東京エムケイ側には少なくとも次の点について追加説明が必要だと考える。
- 役員ではない青木氏に乗務員を直接指導する権限があったのか
- なぜ青木氏が点呼室へ自由に入ることができたのか
- 過去の暴力・暴言問題を受け、どのような再発防止措置を取っていたのか
- 青木氏の営業所への立ち入り制限を今回以前に検討したことはあったのか
- 当日の管理責任者は誰で、なぜ行為を止められなかったのか
- 今回の行為を受けた乗務員全員への聞き取りや心身のケアを実施したのか
- 過去にも青木氏に関するハラスメント相談があったのか
- 「第三者委員会不要」とした対象は今回の行為そのものだけなのか、過去を含む組織的原因まで検証したのか
とりわけ8番は重要だ。
映像で行為が確認できることと、再発を許した会社の構造が解明されたことは同義ではない。
Q&A|東京エムケイのパワハラ問題
編集部まとめ
今回、東京エムケイが会見を開き、行為をパワーハラスメントと認め、オーナーの営業所への立ち入りを制限する方針を示したことは一つの対応だ。
しかし、この問題を「英語テストに腹を立てたオーナーが暴れた」で終わらせてはいけない。
役員ではない株主が現場の乗務員を直接指導できる状態がなぜ存在したのか。過去にも暴力・暴言を巡る問題があった中、なぜ2026年まで同様の事態を防げなかったのか。
さらに、社長自身が「自分が休んだことが最大のミス」と説明する組織体制が、本当に従業員を守る仕組みとして十分だったのか。
問われているのは一人のオーナーの言動だけではない。東京エムケイという会社が、過去の問題から何を学び、従業員を守る統治体制を構築してきたのかである。
週刊TAKAPIでは、今後の会社側の再発防止策や経営陣の処分、青木氏の株主としての立場、従業員への聞き取り・ケアの状況について引き続き確認する。
週刊TAKAPI 編集部/黒木
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