東三河の高度急性期医療を担う豊橋市民病院の経営が、大きな局面を迎えている。
2024年度の豊橋市病院事業会計は、約6億300万円の純損失を計上した。
病院側が策定していた経営強化プランでは約4億5700万円の黒字を見込んでいたが、実績は約6億300万円の赤字。計画から約10億6000万円下振れした。
さらに、特別利益などを除いた経常収支も約9億6400万円の赤字となり、病院側は「2009年度以来の赤字」と説明している。
では、その翌年度となる2025年度、病院経営は立て直されたのか。
豊橋市議会の2026年9月定例会には2025年度の病院事業会計決算が提出されており、決算審査が始まる。
週刊TAKAPIは、公表されている決算資料、経営強化プラン、予算資料、病院が公表した2025年度の患者実績などから、市民病院の現在地を追った。
2024年度は計画「4.57億円黒字」から「6.03億円赤字」へ
まず押さえる必要があるのが、2024年度の急激な収支悪化だ。
豊橋市民病院経営強化プラン取組状況報告書によると、2024年度は約4億5700万円の純利益を計画していた。
しかし実績は約6億300万円の純損失だった。
計画との開きは約10億6000万円。
病院側は主な理由として、
入院・外来収益が計画を下回ったこと、
人件費の増加、
材料費の増加、
経費の増加、
新型コロナウイルス感染症に伴う病床確保料など県補助金の減少
を挙げている。
単純な患者数の問題だけではなく、病院を運営するためのコストそのものが増えている。
「本業」の収支も悪化 経常赤字は約9.64億円
より注目されるのが経常収支だ。
2024年度の経常収支は約9億6400万円の赤字となった。
病院側によれば、経常収支が赤字となったのは2009年度以来。
経常収支比率は97.4%。
100%を下回るということは、通常の病院運営による収益だけでは経常的な費用を賄えていない状態を意味する。
医業収支比率も97.1%だった。
病院側が設定していた2024年度の計画値は、
経常収支比率100.1%、
医業収支比率100.4%。
いずれも100%以上を想定していたが、実績は計画を下回った。
医業収益343億円に対し医業費用354億円
2024年度決算では、病院の本業にあたる医業収益は約344億2400万円。
一方、医業費用は約354億1700万円だった。
つまり医療サービスそのものの収支でも、費用が収益を上回った。
2023年度には医業利益約3億3000万円を確保していたため、わずか1年で収支環境が大きく変わったことになる。
背景の一つがコスト上昇だ。
病院は、人事院勧告に伴う人件費上昇や物価高騰などによる経費増加を、経営指標悪化の要因として挙げている。
職員給与比率は40.8%から43.3%へ
人件費の影響は指標にも表れている。
医業収益に対する職員給与費の割合を示す「職員給与比率」は、2023年度の40.8%から2024年度には43.3%へ上昇した。
2.5ポイントの上昇だ。
高度急性期医療を担う病院では、医師や看護師、薬剤師、診療放射線技師など多くの専門職を24時間体制で確保しなければならない。
一方、診療報酬は病院側が自由に価格を設定できるものではない。
賃金や物価だけが上昇した場合、そのコストを一般企業のように価格へ直接転嫁することは難しい。
ここが公立病院経営の大きな構造問題となる。
看護師は計画835人に対し777人 58人下回る
財政だけではない。
人材確保にも課題が出ている。
経営強化プランでは、2025年4月1日時点の看護師数を835人と計画していた。
実績は777人。
計画を58人下回った。
医師は計画230人に対して237人、医療技術員は252人に対して258人と計画を上回った一方、看護師は採用数を上回る退職者が出たことで計画未達となった。
職員全体でも計画1412人に対し1372人。
40人少ない。
病院経営を見る場合、単に「人件費を減らせばいい」という話にはならない。
人材を削れば、病床を稼働させること自体が難しくなるからだ。
2025年度前半、入院患者は1日631人
そして2025年度に入ってからも、患者数には厳しい数字が出ている。
豊橋市民病院が2025年に公表した施設運営事業者の募集資料によると、2024年度の1日平均患者数は、
入院670人、
外来1965人。
これに対し、2025年度4月から8月までの実績は、
入院631人、
外来1902人。
入院は1日平均39人減少。
率にすると約5.8%減った。
外来も1日平均63人減少している。
もちろん、この数字は2025年度通期ではなく4〜8月の途中実績だ。
しかし、2024年度に入院・外来収益が計画を下回って赤字となった病院にとって、患者数の減少は無視できない。
病床再編も影響
患者減少については、単純に「患者が来なくなった」と解釈することもできない。
豊橋市民病院では高度急性期機能の強化に向けた病床再編を進めている。
2024年度には工事の影響で病床数を減らしながら運営していた。
病院側は効率的なベッドコントロールを進め、2024年度の一般病床利用率は85.7%となり、計画を0.7ポイント上回ったとしている。
つまり、患者数の変化を見る際には、
病床再編による物理的な病床数減少、
患者需要そのものの変化、
平均在院日数の短縮、
救急患者の受け入れ、
病床利用率
を併せて分析する必要がある。
2025年度はさらに大型投資
同時に市民病院では、高度急性期医療を維持するための設備投資も進めている。
経営強化プランでは2025年度の設備投資として、
病院改修など約14億4200万円、
医療機器など約14億3400万円、
合計約28億7600万円
を計画していた。
また、スーパーICUの設置など、高度急性期機能の強化も進める。
こうした投資は単なる「支出」ではない。
東三河の救急、高度医療、がん診療、周産期医療などを維持するために必要な設備でもある。
その一方、赤字基調の中で大型投資をどう継続していくのかは、今後の重要な財政課題となる。
企業債残高は2024年度末約66.9億円
病院事業の企業債残高も見る必要がある。
2024年度末は約66億9100万円。
経営強化プランでは2025年度末に約49億6600万円まで減少させる計画となっている。
過去に発行した企業債の償還が進むことで残高は減少傾向にあるが、施設や医療機器への新たな投資が今後も必要になる。
病院の資金繰りを見る際には、単年度赤字だけでなく、企業債、現金、一般会計からの負担金、設備投資を一体で見る必要がある。
市の一般会計からも負担
公立病院は診療収入だけで運営されているわけではない。
救急医療や高度医療など、採算性だけでは維持することが難しい政策医療については、市の一般会計から負担金などが繰り入れられる。
経営強化プランでは2025年度の一般会計繰入金を約16億3600万円と計画していた。
このため市民病院の経営問題は、病院内部だけの問題ではない。
最終的には豊橋市全体の財政ともつながっている。
「赤字だから問題」では終われない
ここで注意しなければならないことがある。
公立病院は営利企業ではない。
救命救急、小児医療、周産期医療、感染症医療、高度急性期医療など、採算だけを基準にすれば維持が難しい分野も担う。
そのため「赤字=直ちに経営失敗」と評価するのは適切ではない。
一方で、
赤字の原因は何なのか。
どの費用がどれだけ増えたのか。
診療収益はなぜ計画を下回ったのか。
患者数減少は病床再編だけで説明できるのか。
一般会計からいくら支援しているのか。
設備投資を含めた将来の資金繰りは持続可能なのか。
これらを議会が検証する必要はある。
2025年度決算は9月議会へ
豊橋市議会の2026年9月定例会には、2025年度豊橋市病院事業会計決算が提出されている。
市議会公式ページでも「病院事業会計決算書」が決算関係資料として案内されている。
一方、9月8日時点で、リンク先となっている豊橋市民病院公式サイトの「病院の財政」ページに掲載されている決算書は2024年度までで、2025年度決算書は通常の公開一覧にはまだ反映されていない。
したがって週刊TAKAPIでは、現時点で確認できない2025年度の最終損益を推測では記載しない。
ただ、2024年度に約6億円の純損失、約9億6400万円の経常赤字へ転落し、2025年度前半には入院・外来患者数が前年平均を下回っていることまでは、病院自身の公開資料から確認できる。
2025年度決算で、この収支がどこまで改善したのか、それともさらに悪化したのか。
そして議会は数字の背景まで踏み込めるのか。
決算特別委員会での審査が注目される。
週刊TAKAPIは、2025年度病院事業会計決算書が確認でき次第、収益、費用、純損益、一般会計負担、企業債、設備投資などを改めて数字で検証する。
担当記者:週刊TAKAPI 編集部/黒木
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