「お酒は飲める。でも、今日は飲まない」。
そんな選択を積極的に楽しむ「ソバーキュリアス(Sober Curious)」というライフスタイルが、欧米から日本へじわりと広がっている。
かつてノンアルコール飲料といえば、「車を運転するから」「体質的に飲めないから」といった“お酒を飲めない人の代替品”という印象も強かった。しかし現在は少し事情が違う。
健康や睡眠、翌日の仕事、自分の時間を優先し、飲める人もあえてアルコールを選ばない。
日本でもノンアルコール市場は拡大しており、「酒を飲むか、飲まないか」という二択そのものが変わろうとしている。
週刊TAKAPI編集部は、これは一時的な健康ブームというより、日本の「飲み会文化」にも影響を与える可能性のある価値観の変化ではないかと考える。
そもそも「ソバーキュリアス」とは?
ソバーキュリアスは、
Sober(しらふ)+ Curious(好奇心)
を組み合わせた言葉だ。
JTBパブリッシングは、英国の著述家ルビー・ウォリントン氏が提唱した言葉として紹介し、「あえて酒を飲まないライフスタイル」と定義している。
重要なのは、必ずしも「禁酒」と同じ意味ではないことだ。
完全にアルコールを断つのではなく、「今日は飲まない」「最初の1杯だけ飲む」「アルコールとノンアルを交互にする」など、自分の体調や予定、気分に合わせて飲酒量をコントロールする。
つまり、
「飲めないから飲まない」から「飲めるけれど、自分の意思で飲まない」へ。
ここにソバーキュリアスの特徴がある。
欧米で広がった「酒を飲まない」という選択
欧米では若い世代を中心に、アルコールとの付き合い方を見直す動きが注目されてきた。
ただし、「欧米の若者が一斉に酒をやめている」と単純化するのは正確ではない。
NIQの欧州調査では、Z世代の31%が以前より飲酒量を減らしていると回答した一方、15%は増えたと回答している。ノー・ローアルコールカテゴリーへの関心が高いことも示されている。
さらにEuromonitor Internationalの2025年調査では、世界の回答者のうち毎週アルコールを飲む人は2020年の25%から2025年には23%へ低下。少なくとも時々飲酒する人の53%が飲酒量を減らそうとしていると回答した。
理由として健康、長期的な健康リスク、節約、睡眠などが挙げられている。
酒そのものを否定するというより、「酔うことを前提にしない楽しみ方」が選択肢として成立し始めていると見ることができそうだ。
なぜ日本でも「ソバーキュリアス」が広がり始めたのか
日本でも、この流れと重なる動きが数字に表れている。
サントリーの「ノンアルコール飲料レポート2025」によると、2024年の国内ノンアルコール飲料市場は推計4,584万ケース。前年比111%となり、10年前のおよそ1.6倍まで拡大した。
さらに2025年についても約4,730万ケースへの拡大を予測していた。
注目したいのは、「仕方なくノンアルを飲む」という人だけが市場を支えているわけではない点だ。
同調査では、月1日以上ノンアルコール飲料を飲む人の約7割が、何かの代用品としてではなく積極的に選んでいると回答している。
「健康に気をつけたい」「リフレッシュしたい」「お酒を飲んでいる雰囲気を楽しみたい」「リラックスしたい」など、選ぶ理由そのものが多様化している。
ここには大きな変化がある。
ノンアルは「ビールの偽物」ではなく、それ自体が一つの飲料カテゴリーになり始めているのだ。
「とりあえず生」が当たり前ではなくなる?
日本には長く、酒とコミュニケーションを結びつける文化があった。
会社の歓送迎会や忘年会、取引先との会食などでは、「とりあえず生ビール」という言葉に象徴されるように、同じ酒を飲むことで場を共有するスタイルも珍しくなかった。
しかしソバーキュリアスの考え方が浸透すれば、
「飲み会には参加する。でも酒は飲まない」
という行動が、さらに普通になる可能性がある。
実際、2025年に日本を含む5カ国で実施されたHeinekenの調査では、81%が「理由を説明せずアルコールを断ってよい」と回答している。
「なぜ飲まないの?」と聞くこと自体が当たり前ではなくなっていく。
これもソバーキュリアスがもたらす変化の一つかもしれない。
ノンアルなのに「高級」 飲食店にも商機か
さらに興味深いのが、ノンアルコール=安い飲み物、という常識も崩れ始めていることだ。
JTBパブリッシングの調査では、旅行先で高価格帯のノンアルコール飲料が充実することについて「好ましい」と回答した割合は、男性51.8%、女性66.9%だった。
新宿の「るるぶキッチン」で実施した実証実験では、地域名を冠した880~930円のオリジナルモクテルについて「ソバーキュリアス」を訴求したところ、全ソフトドリンクに占める販売シェアが19.6%から26.9%へ上昇。ノンアルコールドリンクの平均単価も約100円上昇したという。
つまり消費者が求めているのは、「酒を抜いただけの安い飲み物」とは限らない。
料理とのペアリング、地元産フルーツ、香り、グラス、見た目、店で過ごす体験――。
アルコールがなくても、そこに価値があればお金を払う市場が生まれる可能性がある。
「ゼブラ飲み」という中間地点も
もう一つ、日本で定着する可能性がありそうなのが「ゼブラ飲み」だ。
これはアルコール飲料とノンアルコール飲料を交互に楽しむスタイル。
例えば、
「1杯目はビール、2杯目はノンアル、3杯目は再び酒」
という飲み方だ。
サントリーの2025年調査でも、半年以内にノンアルコール飲料を飲み始めた層で「ゼブラ飲み」が広がっているとしている。
これは日本にソバーキュリアスが浸透するうえで、意外に重要なポイントではないだろうか。
日本では「飲む・飲まない」を完全に分けるより、その日の状況に応じて飲酒量を調整する文化として広がる可能性もある。
【編集部考察】ソバーキュリアスは「禁酒ブーム」ではなく選択肢の増加では
週刊TAKAPI編集部が注目するのは、ソバーキュリアスを「酒離れ」とだけ捉えてしまうと、本質を見誤る可能性があることだ。
酒が嫌いだから飲まない人だけではない。
ビールもワインも好きだが、
「明日の朝を快適に過ごしたい」
「睡眠の質を落としたくない」
「酔わずに会話を楽しみたい」
「今日はアルコールを必要としていない」
と考えてノンアルを選択する人もいる。
つまり変化しているのは「酒を飲む人の数」だけではなく、飲酒するかどうかを毎回自分で選択するという価値観なのではないか。
この考え方が日本でさらに浸透すれば、居酒屋やレストラン側にも変化を迫る可能性がある。
ウーロン茶、コーラ、ノンアルビールだけではなく、料理に合わせたモクテルやノンアルワイン、ノンアルスピリッツなどを揃える店が増えれば、「飲まない客」も客単価を生み出す重要な顧客になる。
ノンアル市場の拡大は、酒類メーカーにとって必ずしも「酒が売れなくなる」という話だけではない。
むしろ、これまでアルコール中心だった夜の外食市場を広げる新しいカテゴリーになる可能性もある。
日本の「飲み会文化」はどう変わる?
ソバーキュリアスという言葉自体は、日本ではまだ広く知られているとは言い難い。
JTBパブリッシングの調査では、「ソバーキュリアスを知っており、意味も理解している」と回答した人は男性7.9%、女性4.6%だった。一方、ノンアルコールカクテルを意味する「モクテル」の認知はそれより高かった。
つまり、言葉より先に行動が広がっている可能性がある。
「ソバーキュリアス」という名称を知らなくても、平日は飲まない、2杯目からノンアルにする、飲み会でもモクテルを注文する――。
そんな人は今後さらに珍しくなくなるかもしれない。
酒を飲む人も、飲まない人も、途中から飲まなくなる人も同じテーブルを囲む。
欧米から始まった「ソバーキュリアス」は、日本ではそんな“飲み方を自由に選ぶ文化”として定着していくのか。
ノンアル市場の拡大を見る限り、その土台はすでにでき始めている。
※本記事は公開されている企業情報、報道内容、地域特性、市場動向などをもとに編集部が独自に考察した内容です。企業や関係者が公表している出店理由・経営方針を断定するものではなく、一部に編集部の見解や推測が含まれます。最新かつ正確な情報は、各企業・自治体の公式発表をご確認ください。
週刊TAKAPI編集部:黒木
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