「学校に行きたくても行けない」子どもの学びをどう守るのか。鈴木みさ子市議が市議会で問題提起。教育部長はカウンセラー派遣や家庭訪問を説明したが、個別の学習保障の実態は明らかになっていない。
愛知県豊橋市で、2022年度以降、いじめ重大事態が4件認定されていたことが、2026年8月31日の豊橋市議会9月定例会で明らかになった。
議会で鈴木みさ子市議が問題提起したのは、いじめ重大事態の認定件数や調査体制だけではない。
いじめによって学校に通えなくなった子どもが、授業を受ける機会を失い、将来の目標や進路まで変更せざるを得なくなる可能性があるという問題だ。
市教育委員会は、スクールカウンセラーの派遣、教育相談、家庭訪問などの支援方針を説明した。
一方、いじめ重大事態に認定された4件について、欠席期間中の学習支援や成績評価、進路への影響にどのように対応したのか、個別の実施状況は今回の議会質疑からは確認できない。
「子どもを徹底して守る」と表明した長坂尚登市長の方針は、被害児童生徒の学習機会の保障にどう結び付くのか。
週刊TAKAPIは、議会で交わされた質疑を基に、豊橋市のいじめ重大事態対応を検証する。
「将来の目標や進路さえ変更を余儀なくされる」鈴木市議が指摘
いじめによって学校に通えなくなることは、単に授業を欠席するという問題ではない。
学校生活を通じて得られる学習機会や友人との交流、進路指導など、さまざまな機会に影響が及ぶ可能性がある。
鈴木みさ子市議は、議会で次のように述べた。
「いじめを受けた被害児童生徒にとって学校に行けないということは、学校で同じクラスの友達と一緒に学ぶ機会を奪われるだけではなく、長期にわたって解消されない場合、将来の目標や進路さえも変更を余儀なくされるような理不尽さを伴うこともあるというふうに思います」
さらに、学校に通えない児童生徒の学習機会について、こう問題提起した。
「学校に行きたくても行けず、オンライン学習や個別学習指導では補うことができない場合に、どのような形でそれを補っていくのか、学習権を保障するのか、大きな課題だというふうに思います」
この発言は、いじめ重大事態への対応を、調査や事実確認だけで終わらせてはならないという問題提起でもある。
いじめ被害によって登校が困難になった児童生徒に対し、どのような学習環境を用意し、失われた学習機会をどう補うのか。
学校や教育委員会には、被害児童生徒の心身の安全とともに、学びを継続できる環境を確保することが求められる。
市教委「スクールカウンセラー派遣、教育相談、家庭訪問」
被害児童生徒への支援について、教育部長は、学校と教育委員会が連携しながら対応する方針を説明した。
「必要に応じて学校と教育委員会で連携し、被害児童生徒の心身のケアのためスクールカウンセラーの派遣や教育相談の紹介等を行っております」
また、欠席が続く児童生徒については、保護者を通じて家庭での様子を把握し、心身の状態に配慮しながら対応するとした。
教育部長は、その目的について次のように説明している。
「心身の状態に最大限配慮しながら学校から気持ちが離れてしまわないように努めております」
さらに、家庭訪問では担任などがクラスや学年の様子を継続的に伝え、被害児童生徒が孤立しないよう寄り添う方針も示した。
こうした対応は、被害児童生徒の精神的負担を軽減し、学校との関係を維持するための支援と位置付けられる。
しかし、ここで一つの論点が残る。
学校とのつながりを維持することと、失われた学習機会を保障することは同じなのか。
カウンセラーによる心のケアや家庭訪問が実施されても、欠席した授業の内容を十分に学べるとは限らない。
また、学校との関係を維持できたとしても、成績評価や進路選択への影響が解消されるわけではない。
今回の質疑で確認できたのは、市教育委員会が示した基本的な支援方針である。
認定された4件それぞれで、どのような学習支援が行われたのかについては、さらに確認が必要だ。
学校に戻ることだけが支援なのか
教育部長は、欠席が続く児童生徒について、学校から気持ちが離れないように努めると説明した。
学校とのつながりを維持することは、本人が望む場合の学校復帰や学習継続を支えるうえで重要となる。
一方、いじめ被害を受けた子どもにとって、元の学校や学級に戻ることが必ずしも最善の選択とは限らない。
いじめが発生した環境に戻ること自体が、大きな精神的負担となる場合も考えられる。
本人が希望する学習環境はどこなのか。
元の学級で学び続けたいのか、それとも別の場所で安心して学びたいのか。
学校や教育委員会には、本人の意思と安全を踏まえた対応が求められる。
例えば、別室での学習、ICTを活用した自宅学習、教育支援センターの利用などが選択肢となり得る。
ただし、豊橋市の重大事態4件において、これらの支援が実際にどの程度提供されたのかは、今回の議会質疑では明らかになっていない。
国は自宅学習の出席扱いや成績評価を認めている
学校に通えない児童生徒の学習機会については、文部科学省も制度を整備している。
一定の要件を満たす不登校児童生徒の自宅でのICT等を活用した学習活動については、校長の判断により、指導要録上の出席扱いとすることができる。
また、2024年8月には、不登校児童生徒が学校外や自宅で行った学習の成果を、一定の要件の下で成績評価に反映する仕組みが明確化された。
これらは、登校が困難な児童生徒の学習機会を確保するための制度である。
ただし、出席扱いと成績評価は別の仕組みであり、すべての学習活動が自動的に認められるわけではない。
また、制度を利用できたとしても、学校生活で失われたすべての経験を補えるわけではない。
鈴木市議が指摘した「オンライン学習や個別学習指導では補うことができない場合」という問題は、こうした制度だけでは解決しきれない課題を示している。
豊橋市では、いじめ被害で登校が困難になった児童生徒に対し、国の制度をどのように案内し、適用しているのか。
重大事態4件の中で、欠席中の学習が出席扱いや成績評価に反映された事案はあるのか。
これらは、今後の取材で確認すべき事項となる。
鈴木市議、調査の公平性と二次被害にも懸念
鈴木市議は、重大事態の調査体制についても問題提起した。
学校が調査主体となる場合、被害児童生徒、加害側とされる児童生徒、教職員が同じ学校に所属していることから、公平性や中立性、客観性が損なわれるケースが生じる可能性があると指摘した。
重大事態の調査では、関係者への聞き取りや記録の確認などが行われる。
しかし、調査の進め方によっては、被害児童生徒や保護者が繰り返し事情を説明することになり、精神的な負担が増す可能性もある。
鈴木市議は、被害児童生徒だけでなく、兄弟姉妹や保護者にも二次被害や精神的負担が及ぶ場合があるとして、専門家による対応の必要性を訴えた。
重大事態の調査は、事実関係を明らかにするために欠かせない。
一方で、その過程で被害児童生徒の負担が増すことのないよう、調査方法や支援体制に十分配慮する必要がある。
「調査記録は5年」市教委の保存方針
議会では、いじめ重大事態の調査記録の保存期間も取り上げられた。
教育部長は、調査記録について次のように説明した。
「いじめ重大事態調査に関する記録も同様に5年と考えております」
また、聞き取り記録については、複数の教員で対応し、主観を交えずに記録することを重視すると説明した。
記録は、事実関係の確認や、その後の対応を検証するための重要な資料となる。
重大事態の調査結果に当事者が納得できず、再調査の必要性が検討される場合にも、過去の記録が重要な意味を持つことがある。
ただし、今回の答弁で説明された保存期間が、具体的にどの文書に適用されるのか、保存期間経過後の取り扱いがどうなるのかについては、さらに確認が必要だ。
再調査委員会「設置実績なし」 当事者が納得できない場合は
鈴木市議は、重大事態の調査結果に当事者が納得できない場合の再調査制度についても質問した。
その中で、再調査委員会について、これまで設置された実績がないと事前に説明を受けていたことを明らかにした。
「再調査委員会についてはこれまでには設置された実績がないということは事前に伺っております」
市側は、国のガイドラインに基づき、新たな重要事実の有無、調査の不足、調査組織の公平性・中立性などを考慮し、再調査の必要性を判断する仕組みを説明した。
再調査委員会の設置実績がないことだけをもって、行政が調査を怠ったと判断することはできない。
しかし、再調査の必要性を誰が、どのような手続きで判断するのかは、当事者の納得や制度への信頼に関わる問題である。
特に、調査に対する疑問が残った場合、被害児童生徒や保護者の意見がどのように扱われるのかは重要な論点となる。
「失われた尊厳を取り戻す」鈴木市議の訴え
一連の質疑の中で、鈴木市議は、重大事態調査や再調査の目的について、被害者に寄り添う対応の必要性を訴えた。
「いじめの重大調査、再調査いずれも当事者、特に被害者に寄り添って失われた尊厳を取り戻し、いじめがなかったら違っていたであろう自身の人生を歩んでいくために必要な温かい対応をお願いしたい」
この発言は、今回の議論を象徴している。
重大事態の調査は、何が起きたのかを明らかにするための手続きである。
しかし、被害児童生徒にとっては、調査が終われば問題がすべて解決するわけではない。
学校に通えなかった時間、学習の遅れ、友人関係の変化、進路への不安など、その後の生活に影響が残る可能性がある。
被害児童生徒の尊厳を守るためには、調査結果の説明だけでなく、本人が望む生活や学習環境を取り戻すための継続的な支援が重要となる。
長坂市長「子どもを徹底して守る」
長坂尚登市長は、いじめ重大事態の認定件数が増えることについて、積極的に把握し、調査する姿勢を重視する考えを示した。
重大事態として調査することに消極的になるべきではないという趣旨の答弁であり、認定件数の増加そのものを悲観的には捉えていないと説明した。
また、いじめには犯罪として扱われるべき行為もあるとして、必要に応じて警察などの外部機関と連携する考えを示した。
そして、次のように決意を表明した。
「いじめは決して許さず、子どもを徹底して守るという強い決意を持って、市長部局としても対応に取り組んでまいります」
市長が掲げた方針を具体的な行政対応につなげるうえでは、重大事態の適切な認定や調査だけでなく、被害児童生徒が安心して学び続けられる環境を確保することが重要となる。
重大事態4件、問われるのは被害児童生徒の「その後」
豊橋市は、2022年度以降、いじめ重大事態を4件認定している。
議会では、調査体制、再調査制度、記録保存、被害児童生徒への支援など、幅広い課題が取り上げられた。
一方、認定された4件について、被害児童生徒がどのような学習支援を受け、現在どのような状況にあるのかは、今回確認した議会質疑だけでは明らかになっていない。
もちろん、個人が特定される情報の公表は慎重でなければならない。
しかし、個人情報を保護しながら、支援制度の運用状況や行政の対応を検証することはできる。
いじめ被害によって学校に通えなくなった子どもが、学習機会を失ったままになっていないか。
本人や保護者が利用できる制度について、十分な説明を受けているか。
学校復帰だけを前提とせず、本人が安心して学べる選択肢が確保されているか。
そして、調査や再調査の過程で、被害児童生徒の尊厳が守られているか。
鈴木市議が指摘した「失われた尊厳」と「将来の目標や進路」の問題は、重大事態の認定件数だけでは見えてこない。
いじめ重大事態への対応の実効性は、調査が行われたかどうかだけでなく、その後、被害を受けた子どもの学びと生活がどこまで守られたかによっても問われる。
週刊TAKAPIは、豊橋市の重大事態対応について、被害児童生徒の学習機会、調査の公平性、再調査制度の運用状況を引き続き検証していく。
Q&A|豊橋市のいじめ重大事態と学習権
議会質疑日: 2026年8月31日
記事更新日: 2026年10月19日
担当記者: 週刊TAKAPI編集部
参考資料:
- 豊橋市議会9月定例会・鈴木みさ子議員一般質問の文字起こし
- 文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(2024年8月改訂)
- 文部科学省「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について」(2024年8月29日)
- いじめ防止対策推進法
情報提供・取材依頼: https://108takapi.jp/tip-off
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