埼玉県三郷市立小学校で2022年、当時6年生の児童がいじめを受け、不登校になった問題で、さいたま地裁は10月22日、三郷市に慰謝料など88万円の支払いを命じた。
桃崎剛裁判長は、学校の教員らが遅くとも2022年9月には、いじめ重大事態として調査に着手すべきだったと指摘。児童が安心して登校できる環境を整える配慮が不十分だったとして、教員らの注意義務違反を認めた。
児童側は市に300万円の損害賠償を求めていた。
市が重大事態と認定したのは2023年7月。児童が小学校を卒業した後で、欠席日数が30日を超えてから約10カ月が経過していた。
「家畜」「パシリ」 保健室登校にも言葉を向けられた児童
三郷市が公表した調査報告書によると、児童は2022年4月、同級生から「家畜」「パシリ」などと言われ、体調を崩して学校を欠席するようになった。
その後、保健室への登校を始めたが、7月には同じ児童から「保健室登校なんでしょ」といった言葉を向けられた。
保健室へ通うことにも恐怖を感じるようになり、8月下旬から継続的に欠席。9月12日には欠席日数が30日を超えた。
児童側によると、いじめをきっかけに深刻な精神的不調が生じ、自傷行為や学校に近づくことへの強い不安などもあったという。
学校に通おうとした児童が、教室だけでなく保健室でも安心できなくなった経緯が浮かび上がる。
学校は4月にいじめを報告 しかし継続的な対応は不十分
学校は2022年4月の時点で児童間の言動を把握し、相手児童への聞き取りや指導を実施。同月28日には、いじめ事案として市教育委員会に報告していた。
しかし、その後の対応には問題があった。
2024年2月にまとまった市の調査報告書は、当初の指導が担任を中心に行われ、学校のいじめ対策組織による継続的な観察が機能していなかったと指摘している。
校内で情報は共有されていたものの、いじめと児童の登校しぶりとの関係を十分に把握できず、早期対応の機会を逃していた。
学校は後にカウンセラーとの面談や放課後登校なども実施したが、児童の通常登校にはつながらなかった。
いじめを認知していたことと、被害を防ぐための対応が十分だったかどうかは、別の問題となる。
重大事態と認定したのは卒業後 調査報告書も問題視
児童の欠席日数が30日を超えたのは2022年9月12日だった。
それにもかかわらず、学校が重大事態として市教委に報告したのは2023年7月。すでに児童は小学校を卒業していた。
市の調査報告書によると、学校と市教委は2023年2月ごろには重大事態に該当する可能性を認識し得たが、正式な認定には至らなかった。
報告書は、保護者の意向によって重大事態の認定が左右されるかのような理解があったことを、法令順守上の大きな問題と指摘している。
市教委は2024年7月、認定が遅れた理由について、法の理解が不十分だったと説明した。
裁判所は注意義務違反を認定 市の調査との違い
今回の判決で、さいたま地裁は教員らが重大事態として調査し、児童の安全な登校環境を整える必要があったと判断した。
そのうえで、教員らの注意義務違反と、児童が受けた精神的苦痛との因果関係を認めた。
一方、2024年の市の調査報告書は、学校の組織的対応や重大事態認定の遅れを問題視しながらも、地方公務員法上の職務義務違反や、教職員がいじめに加担・助長した事実は確認できなかったとしていた。
ただし、市の調査は再発防止に向けた事実確認を目的としており、民事上の損害賠償責任を直接判断するものではない。
そのため、両者の判断を単純に同一の基準で比較することはできない。
それでも、市の調査で組織的対応の不備が指摘され、今回の民事裁判では教員らの注意義務違反が認められたことは重い。
学校と市教委が、過去の調査結果と今回の司法判断をどのように整理するのかが問われる。
保護者は学校側の対応を批判 市教委は判決を確認へ
児童側は、市が公表した調査報告書では学校や教員の責任が十分に調べられていないと主張してきた。
再調査や裁判外紛争解決手続(ADR)、調停などを求めたものの、解決に至らず提訴したという。
判決後、保護者は教員らの注意義務違反と精神的苦痛との因果関係が認められたことを評価し、いじめを隠そうとする学校や市側の姿勢は全国的な問題だと訴えた。
ただし、今回確認できた判決内容では、学校や市による意図的な隠蔽が認定されたわけではない。隠蔽は保護者側の主張であり、市の2024年の調査報告書も具体的な事実は確認できなかったとしている。
判決を受け、三郷市教育委員会は内容を確認したうえで、今後の対応を検討すると回答した。
現時点で控訴の有無や新たな調査方針は明らかになっていない。
欠席30日を待つ必要はない 全国の学校にも共通する課題
いじめ防止対策推進法第28条は、いじめによって心身に重大な被害が生じた疑いがある場合や、相当期間の欠席を余儀なくされている疑いがある場合、学校や設置者に速やかな調査を求めている。
文部科学省の現行ガイドラインでは、不登校重大事態の判断について年間30日の欠席を目安とする一方、いじめが原因と考えられる連続欠席がある場合は、30日に達する前から学校と設置者が情報共有し、対応する必要があると明記している。
今回の三郷市の問題は、いじめを把握していなかった事例ではない。
学校は当初からいじめとして報告していたが、組織的な対応や重大事態の判断が遅れた。
今回の判決を受け、市教委が学校の対応をどう検証し、再発防止策に反映させるかが焦点となる。
編集部まとめ
三郷市のいじめ問題では、学校が早い段階でいじめを把握していたにもかかわらず、重大事態の認定が約10カ月遅れた。さいたま地裁は教員らの注意義務違反と児童の精神的苦痛との因果関係を認め、市に88万円の賠償を命じた。
市の調査報告書でも組織的対応の不備は指摘されていた。今回の判決を受け、学校と市教委が過去の対応をどう検証するかが問われている。
特記事項
本記事は2026年10月22日のさいたま地裁判決に関する確認済みの報道、三郷市いじめ問題調査委員会の2024年2月20日付報告書および文部科学省の公表資料に基づき構成した。
週刊TAKAPI 編集部/一条・成田
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