岩手県の幹部職員が公務出張中に高校野球を観戦するなど、5件の不適切な行動を取っていた問題で、10月23日、県議会の決算特別委員会が集中審査を行い、公費で支出された旅費の返還や県の管理責任をめぐって厳しい質問が相次いだ。
問題となっているのは、県の一般職トップに位置付けられる千葉幸也企画理事(60)。2024年6月から2026年2月にかけて、出張予定にない施設への立ち寄りや勤務時間中の飲酒などを繰り返し、8月31日付で戒告の懲戒処分を受けた。
しかし、処分から約2か月が経過しても、出張本来の目的がどこまで果たされていたのか、県費で支出された旅費は適切だったのかという疑問は残っている。23日の審査では、千葉氏自身の責任に加え、一連の行動を把握できなかった県の管理体制にも議論が及んだ。
岩手県内では今月、県教育委員会による教職員の懲戒処分者が13人に達したことも明らかになっている。市役所でも職員のパワーハラスメントによる停職処分があり、県庁、教育現場、市町村という異なる公的機関で、職員の服務規律と監督責任が問題となっている。
旅費返還の判断は誰がするのか 県議会で追及
23日の集中審査で、村上秀紀議員は2025年度予算から支出された出張旅費を取り上げ、千葉氏本人に返還する考えがあるのかをただした。
千葉氏は、上司や担当部局から求められれば応じたいとの意向を示したものの、自ら返還を申し出るとは明言しなかった。県が返還を正式に決定したとの情報もなく、対象となる旅費の金額や算定方法については明らかになっていない。
これまでの説明では、予定外の施設を訪れる際の移動費などは本人が負担していたとされる。ただ、私的な立ち寄りに伴う交通費を自己負担していたとしても、それによって予定されていた公務が十分に行われなかったのであれば、出張全体の経費をどのように扱うべきかという問題が残る。
旅費の返還が必要かどうかは、出張命令の内容、実際の訪問先、業務に費やした時間などを確認したうえで判断する必要がある。千葉氏の処分は服務上の責任を問うものだが、今回の議会審査では、それとは別に公金の支出が妥当だったかという問題が浮かび上がった。
甲子園観戦で視察に遅刻 復命書には館内見学の記載
県議会で繰り返し追及されているのが、2025年8月19日の関西出張だ。
千葉氏は、盛岡市の複合施設「アイーナ」の機能見直しに向けた調査のため、大阪府茨木市の複合施設「おにクル」を視察する予定だった。しかし、同行職員2人とともに兵庫県西宮市の甲子園球場を訪れ、全国高校野球選手権大会を観戦していた。
試合が延長戦に入ったため、同行職員の1人が先に視察先へ向かった一方、千葉氏自身は予定時刻に遅れて到着した。施設管理者との面会は行わず、建物の外観を確認するにとどまったとされている。観戦には事前に購入したチケットが使われており、偶然試合を見に立ち寄ったわけではなかった。
さらに10月1日の県議会では、出張後に提出された復命書の内容にも疑問が示された。千葉氏は施設の外観を見たと説明していたが、復命書には館内を見学したとする記載があり、実際の活動内容との食い違いが指摘された。
千葉氏は記載に不備があったことを認め、自身が確認した外観などの内容を追記すべきだったと説明している。ただし、故意に事実と異なる文書を作成させたかどうかは明らかになっておらず、虚偽の報告を指示したと認定されたわけではない。
復命書は、職員が出張先で何を行ったのかを所属組織に報告する文書だ。今回の問題では、現地での活動内容に加え、報告書の作成者や決裁者がどのような確認を行ったのかについても説明が必要となっている。
水族館、永平寺、動物園にも 県が確認した不適切行為
県の調査で明らかになった千葉氏の行動は、甲子園観戦だけではない。
2024年6月には政府への予算要望に伴う東京出張で、勤務時間中に予定外のすみだ水族館を訪問。同年8月には能登半島地震の対応に当たる派遣職員を激励する出張で、福井県の永平寺にも立ち寄っていた。
同年10月には仙台市への出張から戻った後、勤務時間中に盛岡駅で飲酒し、県庁に戻らず帰宅した。2026年2月には岩手県史の編さんに関する埼玉県への視察後、東京都内の上野動物園を訪れていたことも確認されている。
千葉氏は予定外の施設訪問について、人の流れや施設管理の状況などを確認する目的があったと説明し、勤務時間中の飲酒については休暇申請を失念していたとしている。
県は一連の行動を不適切と判断して戒告処分としたが、懲戒処分の中では最も軽い処分であることから、県議会では処分の妥当性についても批判が出ていた。
知事はルールの不備を認める 幹部の行動を誰が確認するのか
23日の集中審査では、飯澤匡議員が不適切な出張を見逃した県の管理体制について、ガバナンスが脆弱になっていると指摘した。
達増拓也知事も9月4日の定例会見で、出張直前や出張中に目的地を追加・変更する場合の具体的な規則がなかったことを認め、人事課や総務部で新たなルールを整備する方針を示している。
千葉氏は出張日程を変更できる権限を持つ幹部職員だった。知事は、そうした立場にあったことが今回の不祥事につながったとの認識を示しており、通常の職員だけでなく、承認する立場にある幹部自身の行動をどのように管理するかという課題も明らかになった。
出張の予定を変更した場合に誰へ報告するのか、復命書の内容をどのように裏付けるのか、予定された業務が十分に行われなかった場合の旅費をどう精算するのか。県が新たな規則を設けるのであれば、こうした手続きまで具体化しなければ、今回指摘された問題が解消されたかどうかを確認することは難しい。
岩手県教委は13人処分 市職員にもパワハラによる停職
岩手県内では、行政職員だけでなく教育現場でも不祥事が続いている。
県教育委員会は10月21日、不同意性交等の罪で起訴された花巻市立学校の男性教諭(27)を懲戒免職とし、勤務先の校長も管理監督上の責任を問われて戒告処分となった。これにより、2026年度に県教委が懲戒処分とした教職員は13人に達した。13人には問題行為を直接行った職員だけでなく、管理監督責任による処分も含まれている。
前日の20日には、佐藤一男教育長が県立学校の校長ら約100人を前に不祥事の根絶を訴えていた。翌日の処分発表は、それ以前に発生した事案に対するものであり、新たな事件が起きたわけではないが、県教委が再発防止の徹底を呼びかける中で、さらに処分者が増える結果となった。
週刊TAKAPIはこれまでの独自取材で、県教委が従来の注意喚起中心の対策を十分ではなかったと認めたことや、管理監督責任の判断について詳しい根拠が示されていない事案を報じてきた。
市町村でも職員の不祥事が明らかになっている。二戸市は8月、上司に対するパワーハラスメントを繰り返したほか、個人情報を含む業務データを無断で私物のUSBメモリーに移したなどとして、健康福祉部の40代男性職員を停職1か月とした。この職員は2023年度にも同様のパワーハラスメントで文書訓告を受けていた。
県幹部の不適切出張、教職員の性的な不祥事、市職員のパワーハラスメントは、それぞれ内容も責任主体も異なる。これらを一つの原因による問題として扱うことはできないが、すでに処分や注意喚起を行っていた組織で、その後も服務規律に関する問題が明らかになっていることは共通している。
処分を公表した後、県民に何を説明できるのか
岩手県の企画理事をめぐる問題では、本人への戒告処分が行われた後も、旅費の返還や復命書の記載内容について議会の追及が続いている。県教育委員会では不祥事防止研修が進められているものの、今年度の懲戒処分者は13人に達した。二戸市では、以前に文書訓告を受けていた職員が再びパワーハラスメントで処分されている。
それぞれの組織は処分や再発防止策を公表しているが、県民が知りたいのは、処分の重さだけではないだろう。なぜ問題を防げなかったのか、管理する立場の職員は何を把握していたのか、以前の対策はなぜ十分に機能しなかったのかという点にも、具体的な説明が必要になる。
県庁、教育委員会、市役所はそれぞれ独立した責任を負っており、対応を一律に評価することはできない。それでも、住民から公務を託されているという点に違いはなく、問題が起きるたびに謝罪と処分を発表するだけでは、組織のどこが変わったのかを示すことはできない。
編集部まとめ
岩手県の千葉企画理事をめぐる不適切出張問題は、8月の戒告処分後も収束せず、10月23日の県議会では旅費の返還と県の管理体制が改めて追及された。県が出張予定の変更に関する規則の不備を認めている以上、今回の事案を受けて何を改めたのかについても説明する必要がある。
県内では教職員の懲戒処分が13人に達し、市職員もパワーハラスメントで停職処分となった。異なる組織で起きた問題ではあるが、処分に至るまでの経緯や再発防止策の実効性について、それぞれの機関が十分な説明を果たしているかは、県民にとって重要な問題だ。
一度失った信頼を、処分通知や謝罪の言葉だけで取り戻すことはできない。岩手の公的機関が県民の信頼を回復できるかどうかは、問題が発覚した後に何を公表し、どのような改善を実現したかを、県民自身が確かめられる形で示せるかにかかっている。
特記事項
本記事は岩手県の公式知事会見記録、県議会審議に関する確認済み報道、県教育委員会の懲戒処分公表資料および二戸市職員の処分に関する報道に基づき構成した。県企画理事の旅費返還は正式決定したものではなく、各事案の責任主体も区別して記載している。
週刊TAKAPI 編集部/成田
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