【愛知・奥三河】圏域内受療率37.3%、患者の半数超は南部へ 高度急性期0床、人口減少下の医療体制を検証

愛知県の医療圏区分図。東三河北部のDPC対象患者の圏域内受療率は37.3%、東三河南部での受療率は52.6%

愛知県東三河北部の医療機関で治療を受けた地元患者の割合が37.3%にとどまり、半数を超える52.6%が東三河南部の医療機関を利用していることが、県の分析で分かった。新城市、設楽町、東栄町、豊根村で構成される奥三河では、高度な医療を必要とする患者の受け入れを、豊橋市や豊川市など南部の病院が大きく支えている。

県が2026年8月27日の地域医療構想推進委員会で示した2025年度のDPCデータによるもので、入院医療に関する集計対象患者の受療先を分析した数字だ。一般外来や、すべての入院患者の受診状況を表すものではない。

東三河北部では、高度急性期として報告された病床がなく、緊急手術の実施件数も南部と大きな開きがある。一方、2040年までに人口は約24%減少するものの、85歳以上の人口は増えると推計されている。

医療資源の少ない山間地域で、救急医療と高齢者の療養をどう維持するのか。県の統計資料と会議録から、南北の医療機関の役割分担と、今後の地域医療構想に関わる課題を検証した。

北部で治療を受ける患者は37.3% 南部が52.6%を受け入れ

県の2025年度DPCデータによると、東三河北部に居住する集計対象患者は4,812人。このうち、北部の医療機関で治療を受けたのは1,795人、東三河南部では2,533人だった。割合にするとそれぞれ37.3%、52.6%となり、残る約10%は県内の別地域や県外などの医療機関を利用している。

これに対し、東三河南部の患者が同じ医療圏内で治療を受けた割合は92.3%だった。

ただし、DPCデータは主に急性期入院医療の分析に用いられるもので、今回の数字も対象となった患者の受療先を示している。奥三河の住民全体について、6割以上が地域外で医療を受けているという意味ではない。

北部と南部では医療機関の規模にも差がある。2025年度の病床機能報告によれば、北部は病院3施設、有床診療所2施設であるのに対し、南部には病院32施設、有床診療所20施設がある。

県の会議では、北部で完結できる医療には限りがあり、専門的な治療について南部との連携が欠かせないことが説明された。

高度急性期0床 緊急手術は北部28件、南部2,383件

2025年度の病床機能報告では、東三河北部の病床数は305床だった。内訳は急性期118床、回復期61床、慢性期100床、休棟など26床で、高度急性期に分類された病床はなかった。

ただし、高度急性期0床とは、医療機関が報告した病床機能の区分を示すものだ。北部で重症患者への診療が一切行われていないことを意味しない。

実際、新城市民病院は北部で急性期病床を持つ唯一の病院として、救急患者の受け入れや入院治療を担っている。

一方、緊急手術の実施件数は北部28件に対し、南部2,383件だった。東三河全体の2,411件のうち、北部で実施された割合は約1.2%となる。

別のDPCデータでも、北部に住む緊急手術患者が地域外で手術を受けた割合は83.6%に達していた。病院の手術実施件数と患者の受療先は異なる集計だが、いずれも専門的な手術で南部の医療機関が大きな役割を担っていることを示している。

高度な治療を限られた医療機関に集約することには、専門医や医療機器を効率的に活用できる利点がある。しかし、患者が必要な時間内に適切な医療機関へ到着できるかどうかは、別に検証しなければならない。

救急車の受け入れ1,321件 搬送の実態は見えているか

2025年度の病床機能報告によると、東三河北部の医療機関による救急車の受入件数は1,321件だった。

南部では3万1,669件で、豊川市民病院が8,225件、豊橋市民病院が7,130件、蒲郡市民病院が3,800件となっている。

ただし、これらは医療機関側の受入件数であり、北部で発生した救急搬送の総件数や、北部から南部へ運ばれた患者数を直接示すものではない。

奥三河には、病院までの距離が長い山間部の集落もある。専門的な治療を南部の病院に委ねる体制であれば、搬送先の選定や搬送時間、夜間・休日の受入状況は患者の安全に関わる重要な条件となる。

今回の県資料には、北部の患者が南部へ搬送されるまでの疾患別所要時間や、搬送先が決まるまでの時間について、十分な比較データは示されていない。

圏域外で治療を受ける割合の高さだけを問題視するのではなく、必要な治療へどれだけ円滑につながっているかを確かめる必要がある。

回復期病床の稼働率は58.16% 治療後の患者をどう支えるか

奥三河で重要なのは、重症患者を南部へ運ぶ仕組みだけではない。高度な治療を終えた患者が、住み慣れた地域へ戻って療養できる体制も必要になる。

新城市民病院は北部で唯一、回復期病床を担っている。

県の報告によると、同院の回復期病床稼働率は2023年度の66.50%から2024年度には64.20%、2025年度には58.16%に低下した。

ただし、この低下が回復期医療の需要減少を直接示しているとは限らない。患者の転院先の変化や受け入れ体制など、複数の要因を確認する必要がある。

県の会議では、南部の急性期病院で治療を終えた患者を、北部の回復期医療や在宅医療へ円滑につなぐことが課題として挙げられた。

特に高齢者の場合、急性期の治療を終えても、リハビリテーションや生活機能の回復に時間がかかることがある。遠方の医療機関での治療が長引けば、家族の面会や退院後の生活調整にも負担が生じ得る。

どの段階で地元の医療機関へ戻れるのか。転院を受け入れる病床がどの程度利用され、在宅療養にどう結び付いているのか。南北の医療連携を考えるうえで、こうした患者の流れを把握することが重要になる。

人口は24.2%減、85歳以上は約1,000人増える見通し

奥三河の医療提供体制を考えるうえで、人口構造の変化は避けて通れない。

県の将来推計では、東三河北部の人口は2025年の4万7,785人から2040年には3万6,210人となり、24.2%減少する。県内の構想区域で最も大きな減少率だ。

一方、85歳以上の人口は4,041人から5,043人に増える見通しで、高齢化率も41.2%から46.9%に上昇する。

高齢者の割合が高くなれば、救急搬送だけでなく、治療後の回復期医療や慢性期医療、在宅医療の役割も重要になる。

医療従事者の確保にも課題がある。

2025年度の病床機能報告に基づく県の集計では、北部の医師数は2021年度の43.7人から36.6人に減少した。約16.2%の減少に当たる。看護師数は154.5人から151.6人と、ほぼ横ばいだった。

これらは報告制度に基づく職員数の集計値で、非常勤職員の常勤換算を含むため、小数で示されている。地域内で実際に勤務する個人の人数と、そのまま一致するものではない。

県は、生産年齢人口も2040年までに約3割減少すると見込んでいる。今後、現在の医療機能を維持するための人材を、どのように確保するかが課題となる。

南北の構想区域を一体化する議論 医療圏の存続とは区別

こうした患者の受療状況は、今後の地域医療構想を考えるための基礎資料にもなっている。

8月27日の委員会では、東三河北部と東三河南部の医療機能をどう分担するかについて議論された。

米田委員長は会議録の中で、北部医療圏は存続する一方、地域医療構想の協議単位については南北一体化する方向で進めているとの認識を示した。

ただし、県側は今回の分析について、構想区域の統合や分割をあらかじめ決めるためのものではなく、今後の医療提供体制を検討する基礎資料であると説明している。委員長の発言をもって、区域の再編が正式に決定したと判断することはできない。

2026年10月には、新たな医療機関機能報告制度も始まった。各医療機関が将来担う機能を検討し、地域の協議を通じて、遅くとも2028年度までに2040年に向けた役割を明確にする仕組みだ。

奥三河に必要なのは、すべての高度医療を地域内で完結させることではない。重症患者を南部の病院へ確実につなぎ、地域に必要な初期診療や高齢者医療、治療後の療養を北部でどこまで維持するかという判断になる。

新城市民病院では移転新築に向けた基本計画の策定も進む。しかし、建物を新しくするだけで、医療人材の確保や南部との連携が実現するわけではない。

2040年に向けて問われているのは、病院の規模だけでなく、患者が必要な医療を受け、治療後も地域で暮らし続けられる仕組みをどう整えるかという点である。

編集部まとめ

愛知県のDPC分析では、東三河北部の自医療圏受療率は37.3%で、52.6%の患者が東三河南部で治療を受けていた。高度急性期に分類された病床はなく、専門的な手術では南部の医療機関が中心的な役割を担っている。

一方、人口減少が進んでも85歳以上の人口は増える見通しで、新城市民病院の回復期病床稼働率は低下している。救急搬送から急性期治療、回復期、在宅療養までを南北でどうつなぐかが、今後の課題となる。

特記事項

本記事は愛知県が2026年8月27日に開催した東三河北部構想区域地域医療構想推進委員会の資料と正式会議録を照合して構成した。受療率は2025年度DPCデータの対象患者に限られ、全住民の受診状況を示すものではない。

Q東三河北部の受療率37.3%とは何ですか?
A2025年度のDPCデータに含まれる東三河北部居住患者4,812人のうち、北部の医療機関で治療を受けた割合です。一般外来やすべての入院患者を対象とした数字ではありません。
Q奥三河には高度急性期医療を行う病院がないのですか?
A2025年度の病床機能報告では、高度急性期として報告された病床は0床でした。ただし、地域内で重症患者の治療が全く行われていないという意味ではありません。
Q北部から南部への救急搬送にはどのくらい時間がかかりますか?
A今回の資料では、北部から南部への疾患別搬送時間や、搬送先の決定までに必要な時間を確認できませんでした。消防機関や医療機関への追加確認が必要です。
Q奥三河では人口が減るのに、高齢者は増えるのですか?
A2040年までに総人口は24.2%減少する見通しですが、85歳以上の人口は4,041人から5,043人に増えると推計されています。
Q東三河北部と東三河南部の医療圏は統合されるのですか?
A2026年8月の委員会では、地域医療構想の協議単位を南北一体化する方向について発言がありました。ただし、今回の資料だけで統合が正式決定したとはいえず、医療圏そのものの存続と構想区域の再編は区別する必要があります。

週刊TAKAPI 編集部/成田

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