2024年7月、静岡県菊川市の住宅で祖父母と叔母の3人が殺害された事件で、殺人などの罪に問われた29歳の男の裁判員裁判が11月4日、静岡地方裁判所浜松支部で始まった。男は起訴内容を認めたが、検察側と弁護側は犯行当時の刑事責任能力について異なる主張を展開した。
検察側は、被告が兄への恨みから犯行を計画したと指摘し、完全責任能力があったと主張。一方、弁護側は心神耗弱の状態にあり、自分の行動を制御する能力が低下していたと訴えた。
3人の命が奪われてから2年余り。初公判では、事件の動機と責任能力をめぐる双方の立場が明らかになった。
祖父87歳、祖母81歳、叔母52歳が犠牲に
事件が起きたのは2024年7月28日。菊川市本所の住宅で、当時87歳の祖父、81歳の祖母、52歳の叔母が刃物で刺され、死亡した。
事件当時の捜査では、現場にいなかった親族の女性が、被害者から助けを求める連絡を受け、警察に通報していたことが明らかになっている。
警察官が現場に駆け付けた際、3人は住宅内で倒れており、病院に搬送されたものの死亡が確認された。
起訴状などによると、被告は刃渡り約11センチのナイフで3人の首や胸などを複数回刺して殺害したとされる。
警察は事件後、孫に当たる男を全国に指名手配。男は同月30日午後7時ごろ、鳥取市内の宿泊施設で身柄を確保された。
当時、腹部に負傷していたことから病院で治療を受け、8月1日に祖母に対する殺人容疑で逮捕された。その後、叔母と祖父の殺害容疑でも再逮捕されている。
初公判で起訴内容認める 検察側は「兄への恨み」を指摘
11月4日午前10時から開かれた初公判で、男は起訴内容について「間違いありません」と述べ、認めた。
注目されるのは、検察側が明らかにした犯行動機だ。
検察側は冒頭陳述で、男が兄に対する恨みを抱き、兄にとって大切なものを壊そうと考えて犯行を計画したと指摘した。
被害者となったのは兄本人ではなく、祖父母と叔母だった。
この動機の説明が、犯行の計画性や刑事責任能力の判断にどう結び付くのかが今後の審理で注目される。
ただし、兄との間に具体的にどのような確執があったのか、その詳細は今回確認した公判情報だけでは明らかになっていない。
検察側の主張は今後の審理で立証されるべき内容であり、動機について裁判所が認定した段階ではない。
約半年の鑑定留置 起訴後も責任能力が争点に
男の刑事責任能力については、捜査段階から慎重な調査が行われてきた。
静岡地方検察庁浜松支部は2024年9月20日、犯行当時の精神状態を調べるため、男の鑑定留置を開始。当初は2025年1月20日までを予定していたが、さらに2カ月延長され、同年3月21日まで実施された。
その後、検察側は刑事責任を問えると判断し、3月31日に殺人などの罪で起訴した。
しかし、鑑定留置を経て起訴されたことが、そのまま裁判所による完全責任能力の認定を意味するわけではない。
今回の初公判で、検察側は善悪を判断する能力があり、完全責任能力が認められると主張した。
これに対して弁護側は、犯行当時は心神耗弱の状態で、行動を制御する能力が低下していたと主張している。
起訴内容そのものを認めながら責任能力を争うという点が、この裁判の重要な特徴となっている。
心神耗弱と完全責任能力 判決にどう影響するのか
刑法39条は、精神状態が刑事責任に与える影響について規定している。
心神喪失と認定された場合は罰せられず、心神耗弱と認定された場合は刑が減軽される。
心神耗弱とは、精神の障害によって、行為の善悪を判断する能力や、その判断に従って行動を制御する能力が著しく低下していた状態を指す。
ただし、精神疾患の有無だけで刑事責任能力が決まるわけではない。
犯行当時の認識や行動、計画性、精神鑑定の結果などを踏まえ、最終的には裁判所が法的な判断を行う。
今回の事件では、検察側が兄への恨みに基づく犯行計画を指摘している。
一方、弁護側は行動制御能力の低下を主張しており、双方の説明を裏付ける証拠や鑑定結果がどのように評価されるかが、今後の審理の焦点となる。
なお、被告に具体的な精神疾患があるかどうかや、鑑定医がどのような結論を示したのかについては、11月4日の段階で確認できた公判情報だけでは断定できない。
11月5日も公判 判決は12月4日午後2時の予定
静岡地方裁判所浜松支部の公式発表によると、今回の事件は殺人と銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪に関する裁判員裁判で、事件番号は令和7年(わ)第110号。
初公判に続き、11月5日、9日、10日、11日、16日にも審理が予定されている。
判決は12月4日午後2時から、同支部の1号法廷で言い渡される予定だ。
3人を殺害したとして起訴された男が犯行を認めたことで、今後は犯行に至る経緯と刑事責任能力の評価が中心的な問題となる。
検察側と弁護側の主張がどこまで裏付けられるのか。裁判所の判断が注目される。
編集部まとめ
菊川市の親族3人殺害事件では、被告が初公判で起訴内容を認める一方、完全責任能力があったかどうかについて検察側と弁護側の見解が対立した。
検察側が示した兄への恨みという動機の説明は、事件の背景を考えるうえで重要な意味を持つ。ただし、具体的な家族関係や犯行当時の精神状態について、現段階で断定することはできない。
約半年に及ぶ鑑定留置を経て起訴された今回の事件。12月4日の判決に向け、犯行の計画性と責任能力の関係がどのように審理されるかを見極める必要がある。
特記事項
本記事は2026年11月4日の初公判情報、2024年7月から2025年3月までの捜査・起訴経過、静岡地方裁判所浜松支部が公表した裁判員裁判の開廷予定、刑法39条を照合して作成した。
兄への恨みと犯行計画は検察側の主張であり、心神耗弱については弁護側の主張として区別した。精神鑑定の詳細や判決内容については未確定のため記載していない。
公判日程は変更される可能性がある。
週刊TAKAPI編集部/成田
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