愛知県豊橋市の豊橋市民病院が、高度急性期医療の強化に向けて総事業費15億6,500万円の改修事業を進めている。集中治療室(ICU)の増床や救急入院センターの移設を行う一方、病院全体では800床から750床への再編を計画する。
ただ、2025年度決算は18億8,168万4,552円の赤字となり、経営強化プランで見込んだ黒字から約23億9,000万円下振れした。看護師数も計画人数に届いていない。
東三河では、蒲郡市が市立ソフィア看護専門学校から名古屋市立大学蒲郡校への移行を進め、看護人材の育成に力を入れている。週刊TAKAPIは豊橋市の予算・決算資料と経営強化プランを照合し、10月21日に報じた蒲郡での独自取材結果も踏まえ、地域医療を維持するための投資と人材確保策を検証した。
改修費は15.65億円 2024年9月に2.48億円増額
豊橋市の2024年度当初予算では、市民病院改修事業の総事業費は13億1,700万円で、2025年度までの2か年事業として計画されていた。
その後、2024年9月の補正予算で総事業費を15億6,500万円に増額し、事業期間も2026年度までの3年間に変更した。増額分は2億4,800万円で、当初計画より約18.8%増えている。
事業にはスーパーICUの設置、救急入院センターの移設、病室環境の改善などが含まれる。15億6,500万円は改修事業全体の計画額であり、ICUだけに投じる費用ではない。
豊橋市が10月5日に公表した説明では、ICU単体のリニューアル費用は約4億円。工事は2026年1月から始まり、同年12月の完成と使用開始を予定している。ICUの病床数は6床から8床に増やし、1床当たりの面積も約5平方メートル拡大する計画だ。
同病院は改修費や医療機器購入費の一部に充てるため、目標額1,000万円のクラウドファンディングも実施している。
2024年9月の増額自体は既に公表されたもので、今回新たに判明した決定ではない。ただ、直近の赤字決算と合わせて見ると、計画変更の理由や設備投資による医療機能の向上を、経営面からも検証する必要がある。
800床から750床へ 重症患者の受け入れ機能は拡充
経営強化プランによると、豊橋市民病院は2026年度に病床を50床削減し、750床とする計画だ。
入院患者の平均在院日数が短くなり、一般病床の利用率が低下していることなどを踏まえた再編で、ICUは2床増やす一方、救急入院センターは24床を維持したまま移設する。
病床全体を減らしながら、重症患者を受け入れる機能を強化する方針となっている。
2025年度の1日平均入院患者数は計画680人に対して645人、一般病床利用率も目標85.0%に対して82.7%だった。病院側が病床の効率的な運用を重視する背景には、こうした利用状況もある。
ただし、今回確認した公表資料だけでは、2026年10月時点で750床への再編が完了しているかまでは確認できない。
黒字計画が18.81億円の赤字に 人件費も増加
2025年度の経営強化プランでは、5億800万円の純利益を計画していた。
ところが決算は18億8,168万4,552円の純損失となり、計画との差は約23億9,000万円に達した。
病院の取組状況報告書では、入院患者数の減少や外来診療単価が想定ほど伸びなかったことに加え、人事院勧告に伴う給与費の増加などを収支悪化の要因に挙げている。
人件費は計画の約149億5,400万円に対し、実績では約162億1,600万円となった。医療サービスを維持するために必要な経費が増える一方、患者数や診療収益が計画どおりに伸びなかった状況が数字に表れている。
週刊TAKAPIは9月19日、2025年度の18.81億円赤字を既に報じた。今回の検証では、当初の黒字計画との乖離に加え、設備投資、病床再編、人材確保を一体的に確認した。
市の一般会計負担は26.18億円 すべてが赤字補填ではない
2025年度病院事業決算書によると、豊橋市の一般会計から病院事業への負担金は、合計26億1,800万円だった。
内訳は、医業収益に計上された負担金が約8億6,184万円、医業外収益の負担金が約7億6,113万円、資本的収入の負担金が約9億9,503万円となっている。
これらは病院の運営や政策医療、施設整備などを支えるための負担金であり、全額を赤字補填と捉えることはできない。2025年度の純損失18.81億円にそのまま加算して、市の負担総額とすることも適切ではない。
今後、救急医療や高度急性期医療を維持するためにどの程度の費用が必要になるのか。一般会計からの負担金については、その使途と将来の見通しを継続して確認する必要がある。
豊橋は看護師25人が計画未達 蒲郡は大学化で人材育成
設備投資と並んで課題となるのが、医療人材の確保だ。
豊橋市民病院の2026年4月1日時点の看護師数は810人。前年から33人増えたものの、計画の835人には25人届かなかった。
一方、蒲郡市では、市立ソフィア看護専門学校の施設を活用し、2027年4月に名古屋市立大学医学部保健医療学科看護学専攻の蒲郡校を開設する計画が進んでいる。
10月21日、名古屋市立大学医学部事務課は週刊TAKAPIに対し、文部科学省から承認を受けたことを直接連絡した。蒲郡校の入学定員は1学年50人で、現在のソフィア看護専門学校の40人から増える。
本紙が開設準備担当者に独自取材したところ、蒲郡市の負担は年間約2億4,000万円規模を想定しているとの説明を受けた。ただし、この金額は2027年度以降の確定予算ではない。
また、現在のソフィアにも年間約2億5,000万~2億6,000万円の経費がかかっているという。大学化によって約2.4億円が丸ごと新たな負担として加わるわけではなく、既存の看護教育への支出を大学運営へ移していく構想と捉える必要がある。
移行期間についても本紙は確認している。2027年度と2028年度はソフィアと名市大が同じ施設を使用し、2029年3月のソフィア閉校後、大学が全面的に使用する。大学生が蒲郡を主な教育拠点として利用し始めるのは、2028年度の2年次からとなる。
看護師確保では共通策 両市とも修学資金を月5万円に
豊橋と蒲郡では、投資の対象が異なる。豊橋は高度急性期医療の設備と病院運営、蒲郡は将来の看護人材を育てる教育体制に重点を置いている。
その一方、看護師確保のための制度には共通点もある。
豊橋市は2025年度、豊橋市民病院への就職を希望する看護学生などを支援する修学資金の月額上限を、4万円から5万円に引き上げた。
蒲郡市も2026年9月議会で関連条例の改正案を可決し、蒲郡市民病院への就職を後押しする修学資金を月額4万円から5万円に増額した。
制度の対象者や返還免除の条件は同じではないものの、両市が経済的支援を拡充して医療人材を確保しようとしている点は共通する。
本紙の独自取材では、蒲郡校の開設準備担当者が、卒業生50人のうち25人程度が地域で就職する状態を一つの成功像として挙げた。ただし、正式な地域就職率の数値目標ではなく、卒業生に東三河で働く義務もない。
さらに担当者は、蒲郡市民病院と豊川市民病院の双方を連携先として挙げ、地域全体で看護人材を育て、長期的に循環させる考えを示した。
新キャンパスの第1期生が通常の4年間で卒業するのは2031年3月となる。豊橋市民病院で現在生じている計画人数との差25人を、直ちに補えるものではない。
また、現時点で豊橋市民病院がこの人材循環の構想にどのように関わっているかは確認できていない。
蒲郡で育成する看護人材を東三河の医療現場へどうつなぎ、地域に定着させるのか。豊橋市民病院の人材確保策との関係も含め、今後の検証課題となる。
相次ぐ職員の問題 経営改善とともに信頼回復も
豊橋市民病院では2026年、職員の法令違反や患者情報の管理をめぐる問題も明らかになった。
7月17日には、酒気帯び運転で免許を取り消された後も無免許運転をしていた20代女性看護師が懲戒免職となった。
10月14日には、別の20代女性看護師が知人の電子カルテを業務上の必要なく閲覧し、手術情報を第三者に伝えた問題で戒告処分を受けた。管理監督職2人も厳重注意となっている。
このカルテ問題について、週刊TAKAPIが豊橋市人事課に独自取材したところ、病院が問題を把握したのは8月6日で、看護師本人の申告が発覚のきっかけだった。電子カルテのアクセス記録で閲覧を確認したのは、その後だった。
市側は院長名による通知や研修などの再発防止策を説明しているが、業務外の閲覧をどのように早期発見するのかという課題は残る。
職員の不祥事と病院の経営赤字に直接の因果関係があるとする根拠はない。それでも、市民の税金で支えられる公立病院が多額の設備投資を進める以上、適切な経営管理と患者情報の保護は、いずれも欠かせない責務となる。
編集部まとめ
豊橋市民病院は、重症患者を受け入れる高度急性期医療を強化する一方、赤字決算、病床再編、看護師確保という課題を抱えている。設備投資の必要性と、その費用を将来にわたって支えられるかは分けて検証する必要がある。
蒲郡市の大学化は目的こそ異なるが、東三河の医療を支えるために何へ投資するかという点で比較できる。両市が修学資金を拡充していることからも、人材確保が共通課題であることが分かる。
本紙は、豊橋市民病院の改修事業や経営改善の実施状況に加え、東三河の医療機関との人材連携、相次いだ問題を受けた信頼回復策について引き続き確認する。
特記事項
本記事は豊橋市の2024年9月補正予算資料、2025年度病院事業決算書、経営強化プラン及び取組状況報告書、市の医療人材支援資料を照合し、週刊TAKAPIが10月21日に報じた蒲郡校の独自取材3本と豊橋市人事課への独自取材を踏まえて構成した。
週刊TAKAPI 編集部/成田
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