【浜岡原発】耐震データ不正で中部電力に業務改善命令へ 経産相が手続開始、経営責任も焦点

浜岡原発の耐震データ不正を受け、経済産業省が中部電力への業務改善命令に向けた手続きを開始。経済産業省の石碑を使用した週刊TAKAPIの報道アイキャッチ

中部電力の浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)で耐震データの不正などが相次いだ問題を受け、赤澤亮正経済産業相は2026年10月30日、同社に対して電気事業法に基づく業務改善命令を出す方針を表明し、行政手続きを開始した。役員の責任の明確化や法令順守体制の抜本的な強化、原子力部門の閉鎖性の解消を求める。命令の発出に先立ち、中部電力には11月12日までに必要に応じて弁明書を提出する機会が設けられた。

赤澤経産相は30日の閣議後記者会見で、一連の不適切事案について「遺憾の極みだ」と述べ、改革の実効性を厳格に確認する考えを示した。中部電力は前日の29日、経済産業大臣に具体的な再発防止策を提出したばかりだった。原子力規制委員会による安全規制上の検査も続いており、事態は個別のデータ不正から、経営体制そのものを問う段階へと進んでいる。

10月30日、経産省が業務改善命令へ 11月12日まで弁明の機会

経済産業省が今回開始したのは、業務改善命令の発出に向けた行政手続法に基づく手続きだ。現時点で命令が正式に発出されたわけではないが、国が法的拘束力を伴う行政処分に向けて具体的な対応を進める方針を明確にした意味は大きい。

処分の対象として問題視されているのは、浜岡原発3、4号機の再稼働審査に用いられた地震動評価の不正だけではない。1、2号機の廃炉工事に関する費用請求や、グループの電力料金の原価算定誤りなど、不適切事案が相次いでいることも背景にある。

経産省は、中部電力に役員の責任を明確にさせるとともに、原子力部門の閉鎖的な組織運営を改め、法令順守と内部統制を徹底するよう求める方針だ。今後の焦点は、命令の具体的な内容と、会社が提出済みの再発防止策で国の要求に応えられるかに移る。

1200ガル超の地震波を採用せず 規制委が新たな数値を確認

行政処分に向けた動きに先立ち、原子力規制委員会は10月28日、浜岡原発3、4号機の基準地震動策定に関する新たな検査状況を報告した。

中部電力は再稼働審査の申請時、耐震設計の基準となる地震の揺れを1200ガルとして説明していた。しかし、実際の計算過程では、この値を少なくとも百数十ガル上回る地震波が得られていたにもかかわらず、代表波として採用されていなかったことが明らかになった。

中部電力は、計算で得られた20の地震波のうち平均に最も近いものを代表波に選ぶと説明していたが、実際には複数の手法を組み合わせて都合の良い結果を選んでいたとされる。

規制委員からは地震動評価が1~2割程度過小だった可能性も指摘された。ただし、これは原発の耐震性能が1~2割不足していたと確定したことを意味しない。必要な基準地震動の再評価と、個々の設備の耐震安全性の検証は別の問題だ。

規制委員会は検査を継続し、年内にも安全規制上の処分を判断する方針を示している。経産省が進める業務改善命令とは、法的根拠も判断する対象も異なる。

中部電力は29日に再発防止策を提出 社長も経営責任を認識

中部電力は10月29日、経済産業大臣からの追加の報告徴収に対し、再発防止策を正式に報告した。

会社側は、調査委員会から社会や地域の視点よりも社内の論理を優先する「独自の正当化理論」が存在したと指摘されたことを重く受け止め、経営と組織の問題として対応する姿勢を示している。

安井稔社長は同日の記者会見で、不都合な情報も経営層に届く組織へ改める必要性を説明した。具体策には、取締役会の実効性に関する外部評価の強化、原子力部門への外部人材の受け入れ、地震動評価に対する独立した専門家による定期監査などが含まれる。

ただし、再発防止策を提出したことと、過去の不正を生んだ組織上の問題が解消されたことは同じではない。今回、経産省が業務改善命令に向けた手続きへ進んだことで、会社自身による改革だけでなく、国の監督の下で実効性を確認する段階に入った。

廃炉費用の検収でも不適切処理 別の不祥事が相次ぐ

中部電力は29日、浜岡原発1、2号機の解体撤去工事に関する費用請求についても、追加の調査結果を報告した。

同社は工事の実績や請負会社からの請求内容について、適切な検収を行っていないにもかかわらず、その内容に基づいて使用済燃料再処理・廃炉推進機構(NuRO)へ費用を請求していたことを認めた。

この事案は3、4号機の耐震データ不正とは別の問題である。しかし、技術的な安全性評価と工事費用の管理という異なる業務で、不適切な手続きが確認されたことは、社内の監督機能を検証するうえで重要だ。

実際、中部電力は29日の社長会見で、調達や廃炉工事、電力料金の原価算定を巡る不適切事案にも、専門部門への牽制機能が弱いといった共通の組織的課題があると認識していることを示した。

浜岡原発関連で約3700億円の特別損失 再稼働の不確実性が経営にも影響

不正の影響は会計にも及んでいる。中部電力は10月29日の決算発表で、浜岡原発に関連する減損損失と核燃料評価損として、約3700億円の特別損失を計上したことを明らかにした。

同社は9月、3、4号機の再稼働審査に関する申請を取り下げている。今回の不正によって再稼働時期や安全性向上対策工事の見通しが不確実になり、原子力発電事業の資産について会計上の損失を認識する必要が生じたという。

ただし、特別損失の計上は浜岡原発の廃炉を決定したことを意味しない。中部電力も、会計上の判断と発電所の将来的な運用方針は区別している。

中部電力は2027年3月期の連結最終損益についても、2150億円の赤字となる見通しを示した。不正問題の影響が企業の経営計画にも具体的に表れている。

経営責任の明確化へ 地元の信頼を回復できるか

浜岡原発は静岡県御前崎市に立地し、周辺自治体の防災計画や地域の安全対策にも関わる施設だ。再稼働の可否を判断するためには、設備そのものの安全性だけでなく、審査に提出するデータと、その検証手続きが信頼できることが欠かせない。

今回の不正では、地震動の評価方法について審査側への説明と実際の作業が異なっていたことに加え、会社の内部監査や経営層への情報伝達のあり方も問題となっている。

経産省が求める役員責任の明確化について、具体的に誰がどの範囲の責任を負うのかは、今後の対応を待つ必要がある。また、原子力規制委員会が安全規制上どのような判断を示すかも、現時点では決まっていない。

不正の発覚から調査報告書の公表、再稼働審査申請の取り下げを経て、国が業務改善命令の発出に向けて動き出した。中部電力が信頼を取り戻すためには、経営陣の責任を明らかにするとともに、再発防止策が実際に機能していることを継続的に示す必要がある。

編集部まとめ

浜岡原発の耐震データ不正などを受け、経済産業省は10月30日、中部電力に対する業務改善命令の発出に向けた行政手続きを開始した。28日の原子力規制委員会では1200ガルを上回る地震波が採用されなかった事実が新たに判明し、29日には別事案である廃炉工事の費用請求にも不適切な処理が確認された。中部電力は具体的な再発防止策を提出したが、国は役員の責任や組織体制の抜本的な改善を求める方針だ。安全性への信頼を取り戻せるか、今後の行政判断と改革の実効性が焦点となる。

特記事項

2026年10月30日の経済産業相記者会見で示された方針、28日の原子力規制委員会の検査状況、29日の中部電力の公式発表・社長会見資料を照合した。業務改善命令は発出に向けた手続き段階であり、原子力規制委員会による安全規制上の処分とは区別している。特別損失は公式資料間で端数表記に差があるため「約3700億円」とした。

Q中部電力に業務改善命令は出されたのですか?
A10月30日時点で確認できるのは、経済産業省が命令の発出に向けた行政手続きを開始したことです。命令そのものはまだ正式に発出されていません。
Q経産省は中部電力に何を求めていますか?
A役員の責任の明確化、法令順守体制の抜本的強化、原子力部門の閉鎖性の解消などです。
Q浜岡原発の耐震データ不正では何が判明しましたか?
A3、4号機の地震動評価で、申請時の1200ガルを百数十ガル上回る地震波が計算されていたにもかかわらず、代表波として採用されていなかったことです。
Q約3700億円の損失で浜岡原発は廃炉になるのですか?
A廃炉が決定したわけではありません。再稼働などの見通しが不確実になったことを踏まえ、会計上の特別損失を計上したものです。
Q今後の行政手続きはどうなりますか?
A中部電力には必要に応じて11月12日までに弁明書を提出する機会が設けられています。経産省はそれを踏まえて業務改善命令の発出に向けた対応を進め、原子力規制委員会も別途検査を継続します。

週刊TAKAPI編集部/一条

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