
「兄として、何ができたんだろう」
取材の最後に、彼はそう言って少しだけ笑った。
笑った、というよりも、そうするしかなかったのだと思う。
妹を亡くしたのは、まだ子どもの頃だった頃。
原因は、自ら命を絶ったことだった。
■「普通の家族」だったはずの日々
彼の話は、どこにでもあるような家庭の風景から始まる。
妹は明るくて、少しわがままで、でもよく笑う子だった。
兄である彼は、どちらかといえば無口で、面倒を見るタイプ。
「ケンカも普通にしてたし、特別な何かがあったわけじゃないんです」
だからこそ、余計に分からなかったという。
あの時、何が起きていたのか。
妹の中で、何が崩れていたのか。
■“気づけなかった”という現実
亡くなる前、妹は特別なサインを見せていたわけではない。
少なくとも、彼にはそう見えていた。
「今思えば、静かだったかもしれない。でも当時は“そういう時期”くらいにしか思ってなかった」
周りの大人も、学校も、大きな異変としては捉えていなかった。
そしてある日、突然すべてが終わった。
■「兄として」の後悔
彼が何度も繰り返した言葉がある。
「兄なのに、何もできなかった」
もっと話を聞いていれば。
もっと気にかけていれば。
もっと近くにいれば。
その「もしも」は、いくつも頭の中を巡り続ける。
ただ、どれももう確かめることはできない。
■時間が経っても消えないもの
年月は確実に過ぎている。
彼自身も大人になり、生活も変わった。
それでも
「ふとした瞬間に思い出します」
街で似た背格好の子を見たとき。
昔の写真を見つけたとき。
季節の匂いに、記憶が引っ張られたとき。
記憶は、薄れるのではなく、形を変えて残り続けている。
■それでも、前に進むということ
彼は今、「兄であること」をどう捉えているのか。
少し考えてから、こう答えた。
「もう守ることはできないけど、忘れないことはできる」
それが、自分にできる唯一の“兄としての責任”だと。
そしてもう一つ。
「同じように苦しんでる人がいるなら、気づいてあげられる人になりたい」
過去は変えられない。
けれど、これから関わる誰かに対しては、変われるかもしれない。
■それでも続いていく時間
過去は変えられない。
失ったものも、戻ることはない。
それでも、時間は止まらない。
「今は、“どう生きるか”の方を考えるようになりました」
兄として守ることはできなかった。
けれど、覚えていること、考え続けることはできる。
それが、今の彼なりの答えだった。


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