週刊TAKAPI編集部/担当記者:成田
子どもにかかわる痛ましい事件、学校でのいじめ、保育現場の不適切対応、家庭内での孤立死や虐待疑い。ニュースを見るたび、多くの母親は同じ不安に引き戻される。
「わが子が泣いているとき、誰かは本当に気づいてくれるのか」
「預けた先で何か起きたら、最後まで誰が支えてくれるのか」
いま、子どもを守るための政策予算は増えている。こども家庭庁の「令和7年度こども家庭庁予算案のポイント」によれば、令和7年度予算案は実質ベースで前年度比1.1兆円増、約7.3兆円規模となった。児童手当、保育の質向上、育休支援、高等教育負担軽減、児童虐待防止、社会的養護、ひとり親家庭支援など、入口の制度は確かに厚くなっている。

だが、母親たちが本当に求めているのは、予算額の大きさだけではない。危機を見つけるだけでなく、危機のあとも、進学、住まい、就労、心の回復、親子関係の再構築まで切れない仕組みである。
こども家庭庁が公表した令和6年度の児童虐待相談対応件数は22万3691件。前年度よりわずかに減ったとはいえ、依然として極めて高い水準にある。心理的虐待は全体の6割近くを占め、警察等からの相談経路が半数を超える。一方、近隣・知人からの通告は減少している。これは、地域の目が弱まり、子どもの異変が家庭、学校、警察のラインに集まりやすくなっている現実でもある。
学校現場でも、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの配置は広がってきた。文部科学省の令和7年度資料では、SC・SSWによる教育相談体制の充実に86億円が計上されている。SCは子どもの心に向き合い、SSWは家庭、福祉、貧困、ヤングケアラー、ネグレクトなど、子どもの外側にある環境を整える役割を担う。子どもが「つらい」と言える場所が学校内にあることは、命を守る入口になり得る。
しかし、問題はその先だ。
相談室で泣けた子どもが、家に帰ったあと安全なのか。いじめを受けた子が転校後も孤立しないのか。児童養護施設を出た若者が、保証人のいない部屋探しや携帯契約でつまずかないのか。母親が限界に達する前に、家計、産後うつ、DV、孤立、仕事の不安まで一体で受け止める仕組みがあるのか。
入口が増えても、出口が細ければ、子どもは再び同じ危機に戻される。
とくに深刻なのが、社会的養護を経験した子どもの「その後」である。児童養護施設は、虐待や家庭環境の問題で保護者のもとで暮らせない子どもに、生活環境、学習支援、自立支援を提供する場所だ。施設そのものを悪者にする議論は間違っている。多くの現場は、限られた人員で子どもたちを必死に守っている。
ただし、日本の弱点は、施設や里親家庭で守ったあと、18歳前後で社会に出る段階の支援が薄くなりやすいことにある。
施設退所後の若者にとって、最初の壁は「家族がいないこと」ではない。「社会が家族を前提にできていること」だ。賃貸契約には保証人が必要になる。病院では家族の同席を求められることがある。就職で失敗しても、実家に戻って立て直す選択肢がない。大学や専門学校を中退したとき、次の住まいと生活費を同時に失うこともある。携帯、銀行口座、身分証、住所、緊急連絡先。普通の若者なら家族が支える小さな手続きを、彼らは一人で背負わされる。
認定NPO法人ブリッジフォースマイルの退所者トラッキング調査でも、退所後の年数が経つほど現況不明の割合が高まる実態が示されている。支援が必要な人ほど、連絡が切れ、制度の外へ落ちやすい。これは「本人の努力不足」ではなく、制度の出口が弱いという問題である。
図:日本と英国型の出口支援比較
| 項目 | 日本の課題 | 英国型から学べる点 |
|---|---|---|
| 支援の終点 | 18歳前後で切れやすい | 21歳、希望により25歳まで支援 |
| 担当者 | 施設・学校・自治体で分断 | パーソナルアドバイザーが伴走 |
| 計画 | 進学・就労・住居が別々 | 16歳からパスウェイプラン作成 |
| 住まい | 保証人・家賃でつまずく | 住居支援を自立計画に含める |
| 評価 | 相談件数・配置人数に偏りがち | 生活の安定まで見る |
欧米の制度をそのまま日本に移せばよいわけではない。家族観、地域関係、里親制度の歴史、自治体の体制が違うからだ。しかし、学ぶべき点は明確にある。英国では、ケアを離れる若者に対して16歳ごろから将来計画を作り、住まい、健康、教育、就労、金銭管理を準備する。担当者がつき、21歳まで、希望すれば25歳まで支援が続く。重要なのは、「18歳になったから終わり」ではなく、「大人になる過程そのものを公的責任で支える」という発想である。
日本に必要なのは、この考え方を日本向けに作り直すことだ。
第一に、16歳から25歳までの「伴走担当者」を制度化すべきである。SC、SSW、児童相談所、施設職員、里親、NPO、自治体窓口が別々に関わるだけでは、子どもは何度も同じ説明をさせられる。本人の同意を前提に、進学、就労、住居、医療、メンタルケアを一枚の計画でつなぐ「日本版ケアリーバー・アドバイザー」が必要だ。
第二に、住まいと信用の公的保証である。若者の自立は、精神論では始まらない。住所がなければ働けない。携帯がなければ連絡が取れない。保証人がいなければ部屋を借りられない。施設や里親家庭を出た若者には、少なくとも25歳まで使える公的保証、家賃補助、緊急宿泊、引っ越し費用、家具家電支援を全国共通で整えるべきだ。
第三に、施設と里親を対立させないことだ。家庭的養育を広げる必要はある。しかし、里親だけを増やせば解決するほど単純ではない。虐待、発達特性、精神的ケア、親子関係の調整を必要とする子どもには、専門性のある施設が不可欠である。施設は小規模化し、地域の子育て支援、里親支援、退所者支援の拠点へ変わるべきだ。
第四に、母親を追い詰めない家庭支援である。児童虐待を語るとき、「悪い親」を探すだけでは子どもは守れない。もちろん暴力や放置は許されない。しかし、貧困、産後の孤立、ひとり親の過重労働、DV、精神不調、頼れる実家の不在が重なると、家庭は静かに壊れていく。
ここで必要なのは、説教ではなく実務支援だ。産後うつの兆候がある母親には、受診勧奨だけでなく、数週間単位の家事援助、上の子の送迎、一時預かり、夜間の休息確保までつなぐ。こども家庭庁が進める子育て世帯訪問支援事業は、家事・子育てに不安や負担を抱える家庭、妊産婦、ヤングケアラーがいる家庭を訪問し、家事・育児支援や悩みの傾聴を行う制度である。これを「申請できる人だけが使う制度」ではなく、産科、保健師、園、学校から自然につながる支援に変える必要がある。
母親が「もう無理」と言う前に、保健師、こども家庭センター、学校、園、地域NPOが生活支援まで入る。食料支援、家事支援、通院同行、保育の一時利用、家計相談、就労相談。こうした支援は、母親を甘やかすものではない。子どもを守るための現実的な安全装置である。
第五に、効果検証を「出口」で見ることだ。相談件数、配置人数、予算額だけでは、政策の成否は測れない。退所後5年の住居安定率、就学・就労継続率、医療・メンタルケア接続率、孤立リスク、再虐待・再保護の有無を自治体ごとに公表する必要がある。成果が弱い自治体には改善計画を求め、成果を出す自治体には追加交付金を出す。こども家庭庁が進めるEBPMは、入口だけでなく出口にこそ使われるべきだ。
予算の使い方も変える必要がある。約7.3兆円のうち、仮に1〜2%でも出口支援枠として明示すれば、数百億円から千億円超の財源になる。これは単なる福祉費ではない。若者のホームレス化、非正規化、犯罪被害、心身の不調を減らす社会投資である。
子どもの命を守るとは、事件が起きた瞬間だけ怒ることではない。事件にならない日常を作ることだ。
母親たちは、完璧な制度を待っているのではない。わが子に何かあったとき、誰が見つけるのか。誰が家まで来るのか。誰が転校後も見てくれるのか。誰が18歳を過ぎても手を離さないのか。その答えが見えないから、不安になる。
子どもを守る国を名乗るなら、入口の相談窓口だけでなく、出口の人生設計まで責任を持つべきだ。相談につながった子どもを、卒業、退所、転居、就職、失敗、再出発のたびに見失わないこと。母親を孤立させず、子どもを孤立させず、支援者も孤立させないこと。
こども家庭庁の予算増が本当の救いになるかどうかは、窓口の数ではなく、20歳、22歳、25歳になった子どもの隣に、まだ頼れる大人がいるかどうかで判断されるべきである。
本記事は、こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省関連資料、社会的養護に関する公表資料、支援団体の調査内容をもとに構成しています。制度内容や予算、自治体運用は今後変更される可能性があります。
Q1. こども家庭庁の予算は増えているのに、なぜ子ども事件への不安が残るのですか?
予算増により児童手当、保育、虐待対応、学校相談体制などの入口支援は強化されています。しかし、相談につながった後の生活再建、住まい、就労、心の回復、退所後支援が十分でなければ、子どもや家庭は再び孤立する可能性があります。
Q2. 「出口戦略」とは何ですか?
子どもを一時的に保護したり相談につなげたりするだけでなく、その後の暮らし、進学、就職、住まい、医療、メンタルケアまで継続して支える仕組みのことです。特に社会的養護を経験した若者には、18歳以降も切れない支援が必要です。
Q3. スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの違いは何ですか?
スクールカウンセラーは主に子どもの心のケアを担います。一方、スクールソーシャルワーカーは家庭環境、貧困、福祉制度、児童相談所との連携など、子どもを取り巻く外側の環境を調整する役割があります。
Q4. 母親支援が子どもを守ることにつながるのはなぜですか?
母親が孤立し、貧困、産後うつ、DV、過重労働、育児負担を一人で抱えると、家庭全体が危機に近づきます。家事支援、一時預かり、通院同行、家計相談、就労相談などを早期に届けることは、子どもの安全を守る現実的な支援になります。
Q5. 日本で必要な子ども支援の改善策は何ですか?
16歳から25歳まで伴走する担当者の制度化、住まいと信用の公的保証、施設と里親の連携強化、母親への生活支援、退所後5年間の追跡調査が必要です。相談件数や予算額だけでなく、子どもがその後も安定して暮らせているかを評価する必要があります。
本記事は、こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省関連資料および支援団体の調査内容をもとに構成しています。制度内容や自治体運用は今後変更される可能性があります。子どもの安全に不安がある場合は、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」など公的窓口への相談が推奨されます。
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