公立中学校の元教員が教え子の女子生徒と性的な関係を持ち、別れを求められると、撮影していた性的画像や動画の公開をほのめかして脅迫した事件が、教育現場の性暴力防止のあり方を改めて問いかけている。
不同意性交等や脅迫、児童買春・児童ポルノ禁止法違反などの罪に問われたのは、東京都内の公立中学校に勤務していた20代の元男性教員。公判では、女子生徒との関係について「好きになってしまった」と説明する一方、教員として越えてはならない境界線を認識していたことも明らかになった。
事件の背景には、担任と部活動顧問という二つの立場を通じた生徒への接近、私的な連絡の継続、性的画像の撮影、そして生徒が関係を終わらせようとした際の脅迫があった。
担任と顧問だった教員 LINEから私的な関係へ
起訴状や検察側の冒頭陳述などによると、元教員は女子生徒の学級担任を務め、所属する部活動の顧問でもあった。
授業や学級活動だけでなく、部活動でも接する機会がある立場だった。元教員は女子生徒とLINEで私的なやり取りを重ね、自宅に招くなどして接近。2023年11月ごろから、本人が「交際」と表現する関係を始めたという。
その後、性的な行為に及び、その様子を写真や動画として撮影していた。
公判で示された撮影物は、静止画327点、動画129点の計456点に上る。元教員は、自宅だけでなく学校内でも性的な行為に及んでいたことを認めている。
問題は、教員と生徒の私的な交流が恋愛関係に発展したことだけではない。学校で教育と指導を担う大人が、自らの立場を利用できる関係の中で未成年者と性的な接触を繰り返していた点にある。
生徒側に好意を示す言動があったとしても、それによって教員の責任が軽くなるわけではない。
保護者への発覚後も接触 別れ話は脅迫に変わった
2026年1月、女子生徒の保護者に元教員との関係が発覚した。
女子生徒は別れを告げ、いったん距離を置くことになった。しかし、元教員はその後もLINEで会いたいと連絡し、再び保護者に隠れて会うようになったとされる。
同年3月、女子生徒が元教員の自宅で改めて別れを切り出した際、事態は深刻化した。
起訴内容などによると、元教員は性的な画像や動画を公開すると脅し、生徒が帰ろうとすると身体を押さえつけるなどした。さらに、命に危害を加えることまで示唆する発言をしたとされる。
この場面で重要なのは、性的画像が単なる撮影記録ではなく、生徒の意思を抑え込むための手段になっていたことである。
撮影された画像や動画を第三者に見られることへの恐怖は、被害者が関係を断とうとする際の大きな障害になり得る。実際に画像を公開しなくても、公開をほのめかすことで相手の行動を制限できるからだ。
なお、画像や動画が実際にインターネット上へ流出したかどうかについては、確認できた公判報道からは明らかではない。
「好きになってしまった」 法廷で問われた教員の認識
7月27日の東京地裁での被告人質問では、元教員が自らの行為をどのように受け止めていたのかが問われた。
元教員は女子生徒との関係を続けた理由について、好意を抱き、諦められなかったという趣旨の説明をした。
しかし、検察官から、教員が生徒と個人的にLINEを交換したり、自宅に招いたりすることが許されるのかと問われると、「あってはならないこと」と認めた。
また、中学生との性的な行為が相手の健全な発達に悪影響を及ぼす可能性を考えていたのかという質問には、そこまで考えていなかったと答えている。
別れを求められた際に画像を公開すると脅した理由については、相手が困るようなことを言えば考え直してくれると思ったと説明した。
自ら不適切な関係であることを認識しながら、その関係を続け、相手が離れようとすると脅迫した。この経緯は、本人が語る恋愛感情だけでは説明できない。
裁判官も被告人質問で、真剣に交際していたというのであれば、教員と生徒という関係でそのような行為に及ぶべきではなかったのではないかと問いかけた。元教員は、その場で答えなかったと報じられている。
検察側は教員としての地位を悪用した悪質な行為だとして、拘禁刑7年を求刑した。
母親が法廷で訴えた、奪われた中学生の日常
公判では、被害を受けた女子生徒の母親も心情を述べている。
母親は、娘が普通の中学生として過ごすはずだった青春時代を奪われたと訴え、元教員への強い怒りを示した。
子どもにとって、学校は安心して学び、友人と関わり、成長する場所である。その中で信頼すべき教員から性的な被害を受けた場合、問題は個々の行為にとどまらない。学校生活や人間関係への信頼そのものが損なわれるおそれがある。
元教員の親族からは被害者側に賠償の申し出があったというが、被害者側は応じていないと報じられている。
金銭による補償の問題と、被害者が受けた精神的な影響をどう支えるかという問題は、分けて考える必要がある。
教員と生徒の「同意」は、一般的な恋愛関係と同じではない
2022年4月に施行された「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」は、教員などによる児童生徒への性暴力を禁止している。
この法律が対象とする児童生徒性暴力等は、生徒の同意があるとされる場合でも許されない。教員と生徒の間には、評価、指導、進路、部活動などを通じた立場の違いが存在するためだ。
ただし、同法による禁止と、刑法などに基づく個別の犯罪の成立要件は同一ではない。今回の刑事事件では、具体的な行為と当時の状況について、不同意性交等や脅迫などの罪が問われた。
教員本人が関係を「交際」と呼んでいたとしても、その表現によって行為の違法性や責任がなくなるわけではない。
全国で134人 児童生徒への性暴力で処分などを受けた教員
教育現場の性暴力は、今回だけの問題ではない。
文部科学省の2024年度調査によると、全国の公立学校で性犯罪・性暴力等を理由に懲戒処分や訓告等を受けた教育職員は281人だった。このうち、法律上の「児童生徒性暴力等」に該当する行為によるものは134人で、132人が懲戒免職、2人が停職となっている。
この134人について、問題が発覚したきっかけをみると、被害者や保護者から管理職、教職員、スクールカウンセラーへの相談が計58人で43.3%を占めた。警察からの連絡は36人で26.9%。学校や教育委員会のアンケート調査等を通じた発覚は1人だった。
これらは発覚し、処分等に至った事案の集計であり、実際の被害総数を示すものではない。それでも、子どもや保護者からの相談と、警察など外部機関からの情報が発見の重要な経路になっていることが分かる。
学校内での性暴力を防ぐには、教員への研修だけでなく、生徒が安全に被害を訴えられる仕組みが必要になる。
私的SNS連絡の禁止 国が求める再発防止策
文部科学省は、教員と児童生徒がSNSなどで私的なやり取りをしないことを明確にするよう、教育委員会に求めている。
密室状態を避ける執務環境の見直しや、教員採用時の経歴確認も対策に含まれている。2026年4月には、教員による児童生徒性暴力等の防止に関する基本指針も改訂された。
今回の事件でも、最初の接点は学校での指導関係であり、その後に私的なLINEや自宅への招待が続いていた。
関係が長期間続いた間、学校や教育委員会が何を把握していたのか。保護者に発覚した後、学校側へ情報が伝わっていたのか。元教員の勤務状況や生徒への接触について、どのような確認が行われたのか。
これらは、現時点で確認できた公開情報だけでは判断できない。学校側の対応に問題があったと断定することもできないが、再発防止を考える上では検証が必要な事項だ。
編集部まとめ
今回の事件の核心は、元教員が教え子に好意を抱いたこと自体ではなく、教育者としての立場を越えて性的な関係を持ち、その関係を終わらせようとする生徒の意思を、画像の公開をほのめかす脅迫によって抑え込もうとした点にある。
担任や部活動顧問は、子どもと日常的に接し、信頼を得やすい立場にある。だからこそ、私的な連絡や個別の接触には明確な境界線が必要だ。
被害の発覚後に加害行為を処罰するだけでは十分ではない。最初の不適切な接触を防ぎ、生徒が関係を断ち切ろうとした際にも安全を確保できる仕組みを、学校と教育委員会が整備しなければならない。
特記事項
本記事は、2026年11月4日までに確認できた公判報道、文部科学省の公表資料、関係法令に基づいて構成した。
東京地裁で2026年9月7日に判決が予定されていたことは確認されている。ただし、判決主文、具体的な量刑、控訴や確定の有無については、今回確認できた公開資料だけでは独立した裏付けが取れなかったため記載していない。
被害者の特定につながる情報を避けるため、学校名や生徒の詳細な属性は記載していない。
週刊TAKAPI編集部/成田
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