週刊TAKAPI編集部/担当記者:成田
2017年4月、長崎市の私立海星高校2年生だった男子生徒、当時16歳が自ら命を絶ってから9年。学校側の安全配慮義務違反を一部認めながら、いじめと自死の因果関係を否定した長崎地裁判決を不服として、遺族側が6月17日に控訴状を発送し、18日に明らかになった。
亡くなった男子生徒が残した遺書とノートには、同級生から「おなかの音」をからかわれたこと、休み時間に掃除用具置き場の扉を無理やりこじ開けられたことなど、学校生活の中で受け続けた苦しみが具体的に記されていた。中学3年生の頃から始まったとされるいじめは、中高一貫校の高校進学後も断ち切られなかった。
遺族は、学校がいじめを把握しながら適切な対応を取らず、再発防止策も怠ったとして、学校法人海星学園を提訴。約3200万円の損害賠償と、学校ホームページへの謝罪文掲載を求めてきた。
長崎地裁判決が残した「最大の壁」
6月8日の長崎地裁判決は、学校側の安全配慮義務違反を一部認め、330万円の支払いを命じた。一方で、いじめと自死の因果関係は認めなかった。
裁判所は、中学時代の一部行為をいじめと認定しながらも、高校での学業不安など複数の要因が影響した可能性を否定できないと判断した。つまり、「学校の対応に問題はあった」としながら、「その問題が自死につながった」とまでは認めなかった形だ。
遺族が受け止めきれなかったのは、まさにこの点だった。父母は判決後、「法律の壁の厳しさを実感した」と悔しさをにじませた一方で、「学校を、教員たちを、絶対に許せません」とも訴えてきた。金銭の問題ではない。息子がなぜ追い詰められたのか、その核心を司法がどう見るのかが問われている。
第三者委員会の報告を学校が拒んだ異例の経緯
学校側が自ら設置した第三者委員会は、2018年11月、いじめが自死の主たる要因だったとする報告書をまとめていた。ところが、学校側は「論理的飛躍がある」などとして、その結論を受け入れなかった。
自ら設置した第三者委員会の判断を、学校自身が拒む。この異例の対応は、遺族の不信感を決定的にした。
さらに、自死直後に教員が「突然死にすることもできますよ」と述べたとされる経緯や、死亡見舞金の支給を条件に損害賠償請求権の放棄を打診したとされる対応も、遺族の怒りを深めてきた。判決では一部の事実関係が認定されたとされるが、それでも核心である「いじめが自死の原因だった」という判断には届かなかった。
「亡き息子への侮辱」遺族が高裁に求める判断
遺族側は控訴にあたり、「亡き息子への侮辱を容認するかのような海星の言動を、裁判所が容認するようなものであり、到底是認できません。高裁には勇気ある判断を期待します」と強く訴えた。
この言葉には、9年間の怒りと失望がある。息子のノートを見つけ、第三者委員会の設置を求め、学校と20回を超える面談を重ね、再発防止を訴え続けてきた。遺族は書籍『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』でも、学校とのやり取りや苦悩を社会に問いかけている。
それでもなお、司法の場で「いじめと自死の因果関係」が十分に認められなかった。遺族にとって今回の控訴は、単なる訴訟の継続ではない。息子の名誉と、命の重さをもう一度問うための闘いである。
高裁で問われる学校いじめ訴訟の核心
いじめ自死訴訟で最も大きな壁になるのが、因果関係の立証だ。学校の対応に不備があったとしても、それが自死にどこまで影響したのかを法的に認めさせるには、高いハードルがある。
しかし、今回の裁判では、第三者委員会の報告書、遺書とノート、学校側の対応、長期にわたるいじめの継続性という重要な要素が積み重なっている。これらを「複合要因」の一つとして処理してよいのか。福岡高裁の判断は、長崎の一学校だけでなく、全国の学校いじめ訴訟にも影響を与える可能性がある。
問われているのは、学校が子どものSOSをどこまで受け止める責任を負うのか。そして司法が、亡くなった生徒の記録と遺族の訴えをどこまで重く見るのかである。
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編集部まとめ
長崎地裁は、学校側の安全配慮義務違反を一部認めた。しかし、遺族が最も求めてきた「いじめと自死の因果関係」は認めなかった。
遺族側は6月17日に控訴状を発送し、18日にその事実が明らかになった。高裁で問われるのは、第三者委員会が「主たる要因」としたいじめを、司法がどこまで重く見るかだ。
亡くなった男子生徒のノートには、苦しみの記録が残されていた。9年を経ても、遺族の問いは終わっていない。学校は本当に生徒を守ったのか。司法は、その苦しみを正面から受け止めるのか。福岡高裁の判断が注目される。
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海星高校いじめ自死・控訴の要点Q&A
Q1. 今回何があったのですか?
海星高校の元男子生徒のいじめ自死をめぐる訴訟で、遺族側が長崎地裁判決を不服として控訴しました。
Q2. 地裁判決はどのような内容でしたか?
学校側の安全配慮義務違反は一部認めましたが、いじめと自死の因果関係は認めませんでした。
Q3. 遺族はなぜ控訴したのですか?
男子生徒が残した遺書やノート、第三者委員会の報告内容などから、いじめが自死の主たる要因だったと訴えており、地裁判断では不十分だと考えているためです。
Q4. この裁判の争点は何ですか?
最大の争点は、学校側の対応不備があっただけでなく、それが男子生徒の自死にどこまでつながったのかという因果関係です。
Q5. 今後どこが注目されますか?
福岡高裁が、いじめと自死の関係、学校側の責任、第三者委員会報告の重みをどこまで認めるかが最大の注目点です。
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