2017年4月20日、長崎市の私立海星高校2年だった福浦勇斗さん、当時16歳が、市内の公園で自ら命を絶った。中学3年時から続いた同級生によるからかい、教師の指導、学校側の事後対応をめぐり、両親が学校法人海星学園を相手取った訴訟は、6月8日、長崎地裁で判決を迎える。
両親は2022年11月、学校のいじめ防止対策推進法に基づく対応不備などを訴え、約3239万円の損害賠償と学校ホームページへの謝罪広告掲載を求めて提訴した。判決で問われるのは、いじめの有無だけではない。学校が生徒の異変を把握できたのか、重大事態として適切に調査したのか、そして自ら設置した第三者委員会の認定を否定し続けた姿勢を司法がどう見るかである。
いじめの始まりは中学3年の秋とされる。教室でおなかが鳴った音を同級生に笑われ、勇斗さんは泣きそうな顔で帰宅した。その後も、意図的な咳払い、音をめぐるからかい、休み時間に小部屋で一人で間食を取る勇斗さんを同級生らが追い、扉を開けようとする行為などがあったとされる。勇斗さんは10枚以上のノートやメモに、学校で受けた行為や苦しみを書き残していた。
学校が設置した第三者委員会は2018年11月、64ページの報告書をまとめた。弁護士、校長経験者、臨床心理士ら5人が調査し、遺書、学校資料、生徒・教職員への聞き取り、遺族面談を重ねた。その結論は「中学3年時から高校進学後にかけて行われたいじめが、福浦君の自死の主たる要因であることは間違いない」というものだった。
しかし、学校側はこの報告書を受け入れなかった。裁判では、いじめと自死の因果関係には論理的飛躍があると主張。さらに、遺書に「死因はいじめなどでは決してない」とする趣旨の記述がある点を重視すべきだとし、勉強面の不安や自己嫌悪など、別の要因を挙げて反論している。
学校側の主張はさらに踏み込んだ。勇斗さんが残したメモについて「作り話の可能性がある」とし、好きだった『名探偵コナン』を引き合いに、本人が小説のように作った話ではないかとも主張した。第三者委員会がいじめを認定した後も、学校側は「いじめの認識はなかった」とする姿勢を崩していない。
遺族が問題視するのは、死後の対応でもある。勇斗さんの死後、学校側から「突然死にした方がいいのではないか」「保護者が望むなら転校にもできる」といった趣旨の発言があったとされる。学校側は遺族の意向を慮った例示だったと説明しているが、両親は自死の事実を表に出さないための提案だったと受け止めた。
母親は裁判で、息子の尊厳がめちゃくちゃにされたと訴えた。両親は、いじめ防止対策推進法の改正を求める署名活動にも取り組み、約6万5000筆を国会に提出した。私立学校で重大事態が起きた場合、保護者はどこに相談し、誰が学校を指導するのか。行政の対応も含め、問題は学校内にとどまらない。
6月8日の判決は、3つの点を判断する。学校の安全配慮義務違反があったのか。第三者委員会報告書の認定を裁判所がどう評価するのか。死後の説明や公表対応が、遺族に二次的な苦痛を与えたと認められるのか。
この判決は、長崎の一私立校だけの問題ではない。重大事態調査の実効性、私立学校への監督、学校が自らに不利な調査結果を拒むことの是非を、司法がどこまで明確に示すかが焦点となる。
事件のポイントQ&A
Q. 判決日はいつですか?
A. 2026年6月8日、長崎地裁で言い渡される予定です。
Q. 第三者委員会は何を認定しましたか?
A. 中学3年時から高校進学後にかけて行われたいじめが、自死の主たる要因であることは間違いないと認定しました。
Q. 学校側は何を主張していますか?
A. いじめと自死の因果関係には論理的飛躍があるとし、遺書の記述、勉強面の不安、自己嫌悪など別の要因を挙げて反論しています。
Q. 判決の焦点は何ですか?
A. 学校の安全配慮義務、重大事態調査の評価、第三者委員会報告書の扱い、死後対応の責任です。

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